人類の祖先はなぜ海から陸に進出したのか?という謎について通説を覆す新たな研究結果が発表される
By Leigh Jay Temple
約4億年前、人類の先祖の魚類が海から陸上に進出する際にはヒレを四肢のように発達させる必要がありましたが、この進化を促した決定的な原因は2018年現在でもつかめていないところ。「洪水」や「日照り」が起こって魚類が陸に押し出され、水に戻ろうとしてヒレを足のように発達させたのではないか?ということや、水中の障害物に有利だったので発達させたのではないか?ということが考えられていますが、新たに、洪水や日照りではなく「潮の満ち引き」を原因とした可能性が研究で示されました。
Strong tides may have pushed ancient fish to evolve limbs | Science | AAAS
http://www.sciencemag.org/news/2018/02/strong-tides-may-have-pushed-ancient-fish-evolve-limbs
Ocean tides could have driven ancient fish to walk
https://www.nature.com/articles/d41586-018-02034-w
人間の祖先と考えられている魚類は「肉鰭綱」(にくきこう)またの名を「肉鰭類」(にくきるい)といいます。肉鰭綱には、シーラカンスやハイギョ類などが含まれており、この魚類は四本のヒレが足のように肉厚なのが特徴です。肉鰭綱は4億年前に海から陸上に進出後、四本のヒレが足のように変化し、後に四肢動物になり、そこから人類を含めて多様な生物に分岐したと考えられています。
これまでの通説は、肉鰭綱が陸上に進出した原因は、洪水か日照りと見られていました。つまり、肉鰭綱が洪水により水たまりに入り、そこから移動するためにヒレが足のようになり陸上に対応したというものです。一方で、今回発表された仮説は肉鰭綱の進出原因を潮の満ち引き、「潮汐」としています。潮汐により海面が低くなり、肉鰭綱が陸上に座礁した後に、水の中に戻るためにヒレが足のように進化、そこから「陸にいる方が海に戻るより利点が多い」ということで陸に適応する形でさらに進化したという考えです。
この仮説は、2018年の2月15日(木)に「Ocean Sciences Meeting(海洋科学集会)」でイギリスのバンゴア大学所属の海洋科学者マティアス・グリーン氏らの研究チームが発表しました。仮説は古代の地球のシミュレーションが行われた結果、「肉鰭綱の化石が見つかった場所と強い潮の満ち引きがあったポイントが同じだった」ということを根拠に立てられたものです。今回の仮説を発表したグリーン氏は、「通説は水たまりに魚が入り、そこからヒレが足になったというものです。しかし、水たまりが生まれ、魚がその中に入り、そして水たまりが乾くかが謎でした」とコメントし、通説の疑問点が今回の仮説だと発生しないことを主張。
過去にも、今回のように「魚の陸上進出が潮の満ち引きによって促された」という仮説が発表されたことはありました。20世紀の時点で、シカゴ大学の古生物学者アルフレッド・レーマー氏は「潮の満ち引きが初期の四足歩行の動物への進化に拍車をかけた可能性がある」という内容を発表。その後、2014年にオックスフォード大学の天文物理学者、スティーブン・バルブス氏が、この仮説を進展させる別の説を発表しました。バルブス氏によると、4億年前、月と地球の距離は10パーセントほど近かったとのこと。これより、当時は太陽・月・地球が一直線上になって発生する大潮が現在の地球よりも強かったといいます。2週間ごとに強力な大潮が発生していたため、その度に魚が海岸線の特定のポイントで座礁していたとバルブス氏は示しました。
By Khuroshvili Ilya
グリーン氏は「座礁した生き物は、進化が促されたでしょう。座礁した水の潮だまりの中では、魚たちが食べられたり、そこから水の中に逃れようと移動しようとしました。この状態では、水に戻るために四本足のような大きなヒレを持つ方が有利となります」とコメント。
しかし、数億年間の間に地球の地形に変化あり、上記の理論を現代で立証するには証拠を集めるのが難題でした。4億年前の地球の陸地は、北のローラシア大陸と南のゴンドワナ大陸と呼ばれる2つの超大陸から構成されていました。これらと現在の陸地を比べると、地層のプレートと共に移動して位置が変わり、海水の浸食により海岸線の形が変化していました。
この問題を解消するために、今回、グリーン氏ら研究チームは、4億年前の超大陸のモデルを作成し、潮汐が引き起こす海岸線の変化のシミュレートしました。すると、超大陸が離れたことによりくさび形の海と海底の地形が生まれることがわかりました。
シミュレーションでは変化する海岸線の各所を記録していき、これにより研究チームは魚が座礁しやすいポイントを明らかにしました。このポイントは、魚たちが発見された化石のポイントと一致するので理論の整合性を示したことになります。例えば、今日の東ヨーロッパとカナダ、そしてアイルランドにある大きな化石層と大きくくぼんだ地域は、古代に座礁が起きていたポイントがぴったりと一致するとのこと。このことについてグリーン氏は「これにはこらえ切れない嬉しさがあります」とコメント。
加えて、シミュレーションでは、今まで判明していなかった大量の化石が出土するであろう新しいポイントが示されました。しかし、シミュレーションのモデリングをリードしたスウェーデンのウプサラ大学の海洋学者ハンナ・バーン氏によると「これらの場所は、政治的に不安定な場所なので発掘することは困難でしょう」とのことです。
・関連記事
インドとマダガスカルとの間に「失われた大陸」があったという研究結果が発表される - GIGAZINE
謎の巨大な球体が出土し「未発見の文明の痕跡」と発表されるも専門家の意見は分かれる - GIGAZINE
高さ120メートルの巨大津波が火星でかつて発生していた可能性 - GIGAZINE
アフリカの砂漠に新しい海が誕生しつつある - GIGAZINE
氷河が溶けてたった4日で巨大な川が消滅したことが明らかに - GIGAZINE
地球の化石や石に残された痕跡から「地球の始まり」の姿や「地球外生命体」に対する新しい考え方がもたらされる - GIGAZINE
・関連コンテンツ