宇宙に太陽光発電システムを構築することは現実的に可能なのか?
ロケット工学の基礎を築いたロシアの科学者であるコンスタンチン・ツィオルコフスキーが1920年に考案した「宇宙に巨大な発電所を作って地球に大量のエネルギーを送る」というアイデアは、長らくSF作家にしか注目されていませんでしたが、気候変動が問題視されている近年になって、科学者たちが実現に向けて動き出しています。そんな宇宙における太陽光発電について、リバプール大学の航空宇宙工学科講師であるアマンダ・ジェーン・ヒューズ氏とステファニア・ソルディーニ氏が解説しています。
Solar power stations in space could be the answer to our energy needs
https://theconversation.com/solar-power-stations-in-space-could-be-the-answer-to-our-energy-needs-150007
宇宙で太陽光発電を行うことには多くの利点があります。太陽光発電施設の大きな弱点が「半日しか太陽光を得ることができず、光の当たる角度によって発電効率が変わる」というものですが、宇宙に発電施設を打ち上げてしまえば、常に太陽光を得るような軌道で回ることができます。また、地球上では大気が太陽光の一部を反射してしまいますが、宇宙であればより多くの太陽光を得ることができます。
しかし、「太陽光発電施設のような大規模な構造物をどのように組み立て、打ち上げ、配備するか」という課題が残っています。十分なエネルギーを産出できる太陽光発電所はサッカー競技場およそ1400枚分に当たる10平方キロメートルもの面積を必要とすることがあり、これだけの施設をロケットで打ち上げるコストも膨大なものになります。
科学者によって提案されている解決策の1つが、何千もの小型衛星を組み合わせて1つの大型太陽光発電施設を構成することです。2017年、カリフォルニア工科大学の研究チームは何千ものソーラーパネルで構成されるモジュール式の太陽光発電施設を設計しています。この設計で用いられているソーラーパネルは、1平方メートル当たりわずか280グラムという超軽量型だとのこと。
さらに、近年では太陽からの光やイオンを反射して帆に受けて進むソーラーセイルも開発されています。イギリスのリバプール大学は、太陽電池を埋め込んだ、折り畳み可能で軽量かつ反射率の高い帆を3Dプリントで製造し、太陽光発電施設になるソーラーセイルを作る方法を研究しています。
また、宇宙での発電には、「作った電気をどうやって地球に送電するか」という問題もあります。もっとも現実的な解決策は、「太陽光発電で作り出した電気をマイクロ波やレーザーに変換し、地上に送る」というものです。
すでに日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は電気の無線エネルギー伝送技術についての研究を行っており、2015年に実施された実用化実証デモでは、5.8GHz帯の電波で55m離れたところから電気を無線で伝送することに成功しています。ただし、送電電力が約1.8kWに対して受電電力は約320~340Wとのことなので、実用化にはもう一歩というところ。
マイクロ波無線電力伝送地上試験/実用化実証(デモンストレーション)|JAXA|研究開発部門
https://www.kenkai.jaxa.jp/research/ssps/150301.html
また、中国でも電力の無線伝送技術についての研究が近年活発化しており、2050年までに最大2GWもの電力を地球に送電することを目指す「Omega」システムの設計を目指しています。実際に中国のソーラーパネルメーカーで出荷量世界1位のジンコソーラーは、中国航天科技集団と共同で宇宙太陽光発電の技術開発に乗り出すことを2020年1月に発表しています。
ジンコと中国航天科技集団、「宇宙太陽光」を共同開発 - ニュース - メガソーラービジネス : 日経BP
https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/00537/
「宇宙に太陽光発電施設を作って地球に送電する」という100年前に提唱されたアイデアは、技術の進歩により少しずつ夢物語ではなくなっています。ヒューズ氏とソルディーニ氏は「世界中の科学者が、宇宙での太陽光発電施設の開発に時間と労力を費やしています。私たちの希望は、それらがいつの日か気候変動との戦いにおいて重要なツールになることです」と述べています。
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