Googleは独禁法に違反しているのか?という問題の本質を詳細に解説するとこうなる
Googleがついに独占禁止法(反トラスト法)違反の疑いで提訴されましたが、この問題の論点は従来の独占禁止法裁判と大きく異なるとアナリストのベン・トンプソン氏は指摘しています。なぜ一見するとGoogleの行動が全く問題ないかのような状況が作り出されてしまうのか、問題の本質についてトンプソン氏が詳細に解説しています。
United States v. Google – Stratechery by Ben Thompson
https://stratechery.com/2020/united-states-v-google/
日本時間の2020年10月21日(水)、かねてから独占禁止法(反トラスト法)の調査が行われていたGoogleに対し、アメリカ司法省がついに提訴しました。司法省はこの提訴を1974年のAT&T訴訟や1998年のMicrosoft訴訟に続く重大な訴訟事件と位置づけています。
Googleが「独占禁止法違反」で司法省から提訴される - GIGAZINE
この訴訟についてアナリストのベン・トンプソン氏は、「対Googleの訴訟は従来の独占禁止法訴訟と異なる」という点を指摘。流通のあり方がインターネットの存在によって大きく変容した点が事態を複雑にしていると説明しています。
まずトンプソン氏が引用したのは、司法省・反トラスト局のマカン・デラヒム副検事総長が2019年6月11日に行ったスピーチ。スタンダード・オイルから始まる独占禁止法の歴史について言及し、デラヒム副検事総長は以下のように語りました。
「スタンダード・オイルは19世紀に数多くの製油所を買収し、買収に応じなかった製油所は価格を下げられ市場から追い出されました。もちろん、値下げは競争において必須です。しかし、スタンダード・オイルの訴訟はその後、『独占者が行えないこと』を規定する法律を定めることになりました。企業は、合法な手段で市場の力を獲得するだけでは反トラスト法に違反しませんが、合法な手段によって独占的な位置についた時に、競争相手が独占企業に追いつけなくなるよう活動することはできません」
その上で、デラヒム副検事総長はデジタル市場の独占行為について以下のように語りました。
「独占は潜在的に、反競争的な行動の重要な要素です。反トラスト部門は、シャーマン法のセクション1とセクション2に基づき、従来の産業における独占行動を分析する長い歴史を持っています。一般的に独占契約は、企業が顧客に独占権を購入するよう求めるか、サプライヤーが独占的に販売するかのどちらかです。これには、要件契約や大量割り引きなどさまざまなバリエーションがあります。
確かに、契約がOEMや小売業者の生産力を最大化したり、契約パートナーによってフリーライディングの問題を克服できる場合は、このようなことが競争的となります。特にネットワーク効果を持ち既得権益が存在するデジタル市場においては、このような契約が新参者にとって有益です。しかし、支配的な企業が新規参入を回避する契約を結んだり、ライバルがスケーリング(規模拡大)する力を減らそうとする契約を結んでいる場合は、反競争的になりえます。これはデジタル市場においても同様です」
2020年11月の大統領選を目前に行われた提訴について、「政治的なもくろみがある」と指摘する人も多くいます。しかし、2019年のデラヒム副検事総長のスピーチからは、Googleに対する提訴が独占禁止法の内容からみても理にかなったものであることが読み取れるとトンプソン氏はみています。
そして、司法省が何を焦点としているのかは、司法省の主張の冒頭部分から読み取れます。
IN THE UNITED STATES DISTRICT COURT FOR THE DISTRICT OF COLUMBIA
(PDFファイル)https://www.justice.gov/opa/press-release/file/1328941/download
「一般的な検索エンジンの場合、最も効果的な配布手段は、モバイルおよびコンピューターの検索アクセスポイントに検索エンジンをデフォルトで事前設定することです。ユーザーがデフォルト設定を変更できる場合でも、ユーザーが変更することはめったにありません。これにより、事前設定されたデフォルトの検索エンジンは事実上の独占権を手に入れることになります。Googleが認識しているように、これは、デフォルト設定が殊更に固定化しているモバイルデバイスに特に当てはまります。
Googleは何年もの間、『抱き合わせの取り決め』を含む排他的契約を締結し、流通経路を絶ち、ライバルをブロックするための反競争的行為に従事してきました。Googleは検索エンジンとしてデフォルトの位置を守り、取引先が競業他社と契約することを防ぐために、毎年、Apple、LG、Motorola、Samsungなどの人気のあるデバイスメーカーを含むディストリビューターや、AT&T、T-Mobile、Verizonなどの主要な米国の無線通信事業者、そしてMozilla、Opera、UCWebなどのブラウザ開発者に数十億ドル(数千億円)を支払います。一部の契約では、消費者がGoogle検索からインターネットを開始するように、ディストリビューターに対して検索アプリを含むGoogleのアプリをデバイスに含めることを求めます。
したがって、Googleはインターネット検索の競争を排除しているといえます。検索エンジンの競合他社は、主要な配布、スケーリング、および製品の認識を拒否されており、Googleに挑戦するチャンスはありません。『Google』という言葉は会社や検索エンジンを示すだけでなく、『インターネット検索をする』という動詞にもなっており、Googleは支配的です。
Googleは、検索広告と検索テキスト広告の市場で長年独占を続け、収益化してきました。Googleは消費者の検索クエリと消費者情報を広告販売に使用しています。アメリカでは、広告主はGoogleの検索結果(SERP)に広告を掲載するために年間約400億ドル(約4兆2000億円)を支払います。そしてGoogleが独占的な広告で得た収入は、検索エンジンを支持する見返りとしてディストリビューターとの間で「共有」されます。これらの巨額の支払いは、ディストリビューターが他社に切り替えるための強力な阻害要因となります。また、この支払いは、ライバルが参入する障壁を高めます。特に、数十億ドルの参入手数料を支払う余裕のない小規模で革新的な検索会社にとってはそうです。これらの排他的なペイオフやその他反競争的な行いによってGoogleは複数の市場において恒久的かつ自己強化型の独占を手に入れています。
Googleの反競争的慣行は、ライバルが競争するためのスケーリングを防いでいるので、かなり有害です。検索サービス、検索広告、および検索テキスト広告には、ユーザーのクエリに最適なオーガニック検索結果と広告を常に表示することを学ぶ複雑なアルゴリズムが必要です。このアルゴリズムはデータの量、多様性、速度により自動学習が加速されます。検索におけるGoogle最大の強みを尋ねられた時、Googleの前CEOは『そのスケーリングが鍵です。持ち込めるデータに関しては、我々は非常に大きな規模を有しています』と説明しました。Googleは、販売契約において自社の規模を拡大しながら、他者のそれを否定することにより、違法に独占を維持しています」
by Neon Tommy
これに対し、Googleは「Googleを使いたくない人はGoogleを使いません。人がGoogleを使うのはそれを選んでいるからです。これは選択を変えることによりサービスの質が著しく低下させたり、別のソフトウェアをCD-ROMで購入させたりした1990年代の出来事とは異なります。誰でも簡単にアプリをダウンロードして、デフォルトの設定を変えれば、数秒で選択を変えられます」と反論しました。
Googleの反論は、テクノロジーやオンラインサービスが主流になる前の時代であれば正しいとトンプソン氏は指摘しました。物理的なお店や電話サービスが主流だった時代において、選択肢はわずかしかなかったためです。
問題は、デジタル市場には、トンプソン氏が「集約理論」と呼ぶものが存在するということ。
消費者市場は、物を送り出す「サプライヤー」、流通させる「ディストリビューター」、そして「コンシューマー(消費者)」の大きく3つに分けられます。従来であれば市場において大きな利益を得るためには、3つのうち1つで独占を得るか、あるいは3つのうち2つをカバーして競争上の優位を得る必要がありました。
しかし、インターネットの登場によってこれが崩れました。インターネットでは、デジタルな製品の配布にコストがかかりません。これによりディストリビューターの役目が小さくなり、インターネット登場前は得られた「サプライヤーとディストリビューターを統合することによる利益」が得られなくなりました。そして、サプライヤーがエンドユーザーに直接販売することで取引コストがゼロになりました。
「サプライヤー」「ディストリビューター」「コンシューマー」の3つから成り立っていた流通が「サプライヤー」と「コンシューマー」に集約されることにより、この集約を行う「アグリゲーター」は多くの利益を得られるようになりました。重要なのは、従来型の独占は最終的に消費者に不利益を与えますが、アグリゲーターは「消費者に利益を提供すること」で市場で勝利するということ。Googleがアグリゲーターであるという指摘はかねてから行われていますが、今回の訴訟についての批評の多くが、「インターネットで流通のあり方が変化したこと」「Googleがアグリゲーターであること」を見逃しているとトンプソン氏は指摘します。
Googleが「消費者にとって有益」であるという点は、非常にやっかいな問題です。
たとえばGoogleは過去に競業企業にあたるショッピングサイトの「Foundem」から「消費者が購入する製品を検索する時に自社サイトが表示されない」という理由で提訴されました。消費者が何か製品を検索した時に、Googleは「検索者は価格比較をしたいだろう」という考えに基づき、ショッピングサイトそのものではなく価格比較サイトを表示します。これはショッピングサイトにとっては不利益であり排他的だととれますが、消費者にとっては有益です。
Foundemの裁判では欧州委員会が、Googleが消費者に有益な検索結果を表示することを「誤り」だとする見解を示しましたが、これはかなり無理のある主張です。一方、今回アメリカ司法省が「検索結果の表示を消費者に有益にすべきではない」とするのではなく、焦点を「Google検索をモバイルやコンピューターのデフォルトに設定していること」に絞っているのは、理にかなっているとトンプソン氏。これによりGoogleは裁判においては「反競争的かどうか」がより大きな問題となり、各端末やブラウザでGoogle検索をデフォルトとしている理由が「収益分配を行っている取引先が実質的に『ノー』と言えないこと」ではなく、「製品が優れていること」にあることを実証しなければなりません。
これに対してGoogleは「端末においてGoogle検索以外の利用を選択することは容易であり、それにも関わらず消費者がGoogle検索を利用しているのは、Google検索が優れているからだ」と反論することなどが考えられます。またGoogleはAppleに対してSafariでGoogle検索をデフォルトにすることに対し、毎年多額の支払いを行っていますが、言い換えればこれは「市場に競争がある」ことを意味します。加えて、AppleがGoogleから多額のお金を引き出せるということは、バリューチェーンで独占的な力を持っているのはAppleであるとも読み取れます。
ただしトンプソン氏によると、これは複占の傾向とのこと。Appleは、「競業他社のスケーリングを拒絶する」というGoogleの戦略を認めており、2018年にAppleの上級役員はGoogleに対して「私たちのビジョンは、1つの会社であるかのように共に行動することです」と書いたといわれています。複占により、一方の企業が他方の企業に反競争的な行動をさせることはよくあるとトンプソン氏は述べました。
アグリゲーターとしてのGoogleの行動は「独占」よりも「反競争的」であるといえ、この2つは区別する必要があります。Googleは正当な理由を持ち、消費者に危害を与えない「合法的な独占禁止法」について議論したがるはずですが、重視されるべきなのは「反競争的」である点です。
Googleを使って商売を行うウェブサイト側は、SEO対策などを通じてGoogleにとって協力的となり、またユーザーは「クリックをする」ことによる情報提供によってGoogleに協力します。これにより、サプライヤー・ユーザーの双方においてGoogleは好循環のサイクルを築き、自己強化を繰り返していきます。一度このサイクルが循環しだすと、それを止めることはほぼ不可能とのこと。この過程で多くの競業他社が機会を奪われるため、従来型の法律で対処するのではなく、アグリゲーターの自己強化に歯止めをかける新しい法律のフレームワークが必要だとトンプソン氏は考えています。
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