サイエンス

フェイクニュースで「都市を停電に追い込み機能をマヒさせる」攻撃が可能との研究結果


人々を惑わせるフェイクニュースは単に迷惑なだけでなく、人々の考えや政治的な意見を故意にゆがめたり、人々に誤った知識を信じさせて公衆衛生上の危機を引き起こしたりすることもあります。新たな研究では、「フェイクニュースを使って市民の行動を操り、都市を停電させて重要な機能をマヒさせる」という攻撃が可能であると示されました。

How weaponizing disinformation can bring down a city’s power grid
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0236517

Weaponised Disinformation Could Unleash City-Wide Blackouts, Researchers Warn
https://www.sciencealert.com/weaponised-disinformation-could-unleash-city-wide-blackouts-scientists-warn


フェイクニュースの害について話される場合、偽の情報が人々を惑わせることによる社会的な影響が焦点となることがほとんどです。しかし、シンガポール国立大学のGururaghav Raman氏が率いる研究チームが行った新たな研究では、「フェイクニュースを兵器として利用して人々の行動を操り、本人たちも気づかないうちに都市の重要なインフラストラクチャーを攻撃することができる」と示されました。

研究チームは重要な施設への攻撃事例として、2010年9月にイランの核燃料施設のウラン濃縮用遠心分離機を標的として、「スタックスネット」というマルウェアを用いたサイバー攻撃が実施された事件を挙げています。この事件では施設そのものに高度なセキュリティが施されていたものの、人間のオペレーターが意図せずマルウェアをコンピューターに感染させてしまったため、結果として約8400台の遠心分離機の全てが稼働不能に陥ってしまったとのこと。

また、ウクライナで2015年12月に発生した停電は複数の電力施設に対する同時サイバー攻撃が原因でしたが、その発端はスピアフィッシングによって従業員の資格情報が盗み取られたことでした。研究チームは、「人間は重要なインフラストラクチャー、特に電力網を保護するという上で最も弱いリンクの1つであることがわかっています」と指摘。


しかし、重要なインフラストラクチャーへ攻撃しようと思った場合、犯罪者は必ずしも機密性が高い専門施設の人間をターゲットに攻撃する必要はないと研究チームは述べています。研究チームは、従来のようなサイバー攻撃手法を使って施設内への侵入を試みなくても、適切な手法を用いれば大衆自身の行動を操作し、重要なインフラストラクチャーを攻撃できると考えました。

そこで研究チームは、ロンドンの行政区画であるグレーター・ロンドンを例として、「フェイクニュースを用いた送電網の遮断」が可能かどうかを分析したとのこと。「この分析の主な貢献は、ハードウェアまたはソフトウェアを対象とせず、個々の消費者の行動を操作することに焦点を当てて、的が配電システムを攻撃可能かどうかを評価することです」と、研究チームは述べています。

まず、「グレーター・ロンドンの送電網が過負荷になった場合、大規模な停電が起き得るかどうか」を研究チームは調査しました。その結果、電力需要が高い時間帯にピーク需要が増加すれば、多くの世帯で停電を引き起こされてしまうことが判明。送電網の保守が数年にわたっておろそかになっていた場合は、ほんの少しの需要増加で都市を停電させることも可能だとのこと。


実際に攻撃者が都市を停電させる方法の一つとして提案されているのが、「SMSを乗っ取って、一部の人々に『午後8時~午後10時にかけて電気料金の大幅割引が実施される』といったメッセージを送信し、ただでさえ電力需要が高い時間帯の需要を押し上げる」というもの。このフェイクニュースを最初に受け取った人が、「電気料金が割引になる」という情報を信じて電力消費量を増やし、メッセージを他の人にも拡散した場合、電力網に過負荷がかかる可能性があります。

5000人を超える人々を対象に行ったオンライン調査では、「電気料金の割引メッセージにどのように反応するのか」「メッセージを家族や友人に転送するか」といった点が調べられました。さまざまなモデルに基づいた調査の結果、3.2~26.8%の人々はフェイクニュースを信じて行動を変える可能性があることが判明したとのこと。

回答者が現実でも同様に行動するかどうかは不明であり、今回の分析で使用された電力網のモデルは実際より単純化されたものでしたが、研究チームは「私たちはハードウェアの改ざんや電力網の制御システムに対するハッキングではなく、行動の操作に焦点を当てることで、敵が都市規模で停電を引き起こす可能性があることを示しました」と、研究チームは述べました。

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in サイエンス,   セキュリティ, Posted by log1h_ik

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