認知能力が低い人ほど自分の考えに近いフェイクニュースを信じやすい、「偽の記憶」まで作り出してしまうことも
SNSや掲示板などで拡散されるフェイクニュースは、人々の判断を惑わせて混乱させるだけでなく、深刻な社会的分断を引き起こすこともあります。アイルランドやアメリカの研究者らが発表した研究では、「人は自分の考えに沿ったフェイクニュースを信じやすく、『偽の記憶』まで作り出してしまう」ことが判明しました。
False Memories for Fake News During Ireland’s Abortion Referendum - Gillian Murphy, Elizabeth F. Loftus, Rebecca Hofstein Grady, Linda J. Levine, Ciara M. Greene, 2019
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0956797619864887
Fake News Can Lead to False Memories – Association for Psychological Science – APS
https://www.psychologicalscience.org/news/releases/fake-news-can-lead-to-false-memories.html
現実世界の投票と個人の記憶の形成に対してフェイクニュースが及ぼす影響を調査するため、研究チームはアイルランドに住む3410人の有権者をオンラインで募集しました。アイルランドでは2018年5月に人工妊娠中絶合法化に関する国民投票が行われており、人工妊娠中絶が合法化されることが決定しています。
今回の実験は国民投票が行われる前の週に実験を行われたとのことで、研究チームは参加者に対して「人工妊娠中絶合法化の国民投票で賛成と反対のどちらに投票するか」を尋ねました。その後、研究チームは参加者に対して、人工妊娠中絶合法化に関する6個のニュースを見せたそうです。
6個のニュースの中には、「人工妊娠中絶合法化に賛成する人々に関するスキャンダル」と「人工妊娠中絶合法化に反対する人々に関するスキャンダル」が1つずつ含まれていました。これらのニュースは、それぞれの支持者が違法行為や問題のある行動に及んでいるという内容でしたが、実は2つのニュースは研究チームが作成した「フェイクニュース」だったとのこと。
研究チームは6個のニュースについて読んだ参加者に対し、「以前にこれらのニュースについて読んだり聞いたりしたことがあるか」「ニュースに関する特別な出来事の記憶があるか」を尋ねました。その結果、参加者の約半数が、研究チームが作ったフェイクニュースについて「以前に見たり聞いたりした記憶がある」と答えたほか、3分の1以上がフェイクニュースについて「関連する出来事の記憶がある」と答えたそうです。
また、2つのフェイクニュースに関する記憶は、その人が人工妊娠中絶合法化に賛成か反対かというスタンスによって左右されたと研究チームは指摘。人工妊娠中絶合法化に賛成の人は、「人工妊娠中絶合法化に反対の人々が起こしたスキャンダル」のフェイクニュースを覚えていると答える割合が高く、人工妊娠中絶合法化に反対の人は「人工妊娠中絶合法化に賛成の人々が起こしたスキャンダル」のフェイクニュースを覚えていると答える割合が高かったとのこと。
研究チームはニュースに関する記憶について尋ねた後で、「6個のニュースの中にフェイクニュースが含まれている可能性があります」と参加者に伝えたそうですが、参加者は依然として高い割合でフェイクニュースについて覚えていると回答し続けました。
さらに、研究チームは参加者に対して認知能力テストも実施しており、テストの結果とフェイクニュースの記憶に関する回答結果を照らし合わせて分析しました。その結果、「認知能力テストで低得点だった参加者ほど、フェイクニュースを『覚えている』と回答しやすい」ことも判明。「偽の記憶」を作り出す割合については認知能力テストの結果が関係しなかったそうですが、「この発見は、認知能力が高い人ほど、見聞きしたニュースの真偽や自身の偏見について疑問を抱きやすいことを示しています」と、研究チームは主張しています。
今回の研究に参加したカリフォルニア大学アーバイン校の認知心理学者であるエリザベス・ロフタス氏は、「人々は自身が作った『偽の記憶』に基づいて行動し、それが『偽の記憶』であると納得させることは困難です」とコメント。精巧なフェイクニュースを生み出す技術が進化している中で、フェイクニュースが人々の心理に与える影響を理解することは重要だと述べています。
今回の論文の筆頭著者であり、アイルランドの国立大学であるユニバーシティ・カレッジ・コークで応用心理学の講師を務めるGillian Murphy氏は、「2020年のアメリカ合衆国大統領選挙など、非常に感情的になりやすい党派政治的な論争では、有権者は作られた偽の記憶を『覚えている』かもしれません」「有権者は特に、敵対する候補者にとって不利なスキャンダルを覚えている可能性が高いでしょう」と指摘しました。
研究チームは今後さらに、イギリスの欧州連合離脱に関する国民投票や、#MeToo運動に「偽の記憶」がどのような影響を与えたかの調査を行い、今回の研究をさらに充実させる考えだとのことです。
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