SNSの検閲問題を巡ったFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOと従業員の対話で着目するべき「9個のポイント」とは?
by JD Lasica
アメリカで黒人への不当な扱いに抗議するデモや暴動が活発化する中、トランプ大統領がSNS上で暴動の鎮圧に武力を行使することを示唆した投稿を行い、「SNSは政治家の発言を検閲するべきか否か」という論争が起こっています。積極的な検閲を行わなかったFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOの対応に批判が集まる中、ザッカーバーグCEOは従業員との大規模なビデオ会議を実施しており、テクノロジー系メディアのThe Vergeが「対話の中で着目するべき9個のポイント」について指摘しています。
Nine things we learned from leaked audio of Mark Zuckerberg facing his employees - The Verge
https://www.theverge.com/interface/2020/6/3/21278233/mark-zuckerberg-facebook-walkout-employee-meeting-leaked-audio
トランプ大統領はミネソタ州・ミネアポリスで大規模な暴動が起きたことを受けて、「when the looting starts, the shooting starts(略奪が起きた場合、銃撃で対抗する)」という投稿を複数のSNS上で行いました。Twitterはこの投稿について「暴力を賛美する」内容だと判断して警告を表示し、クリックしないと内容が見られないように対処しています。一方、Facebookは同じ投稿について積極的な対処を行わず、ザッカーバーグCEOは「民間企業は『真実の決定者』になるべきではない」との立場を表明しました。
ザッカーバーグCEOおよびFacebookの対応には外部からも内部からも批判が寄せられ、2020年6月1日には一部の従業員らがバーチャルストライキを実施。Facebookは従業員らのストライキを承認し、ストライキ中は有給休暇を消費する必要がないと述べています。また、2名のエンジニアが検閲問題を巡って退職したとのこと。
Facebookのエンジニア2名がソーシャルメディア検閲問題をめぐり退職、マーク・ザッカーバーグCEOが弁明 - GIGAZINE
これを受けてザッカーバーグCEOは6月2日、2万5000人もの従業員とオンラインでビデオ会議を実施し、一連の問題に関する説明と質疑応答を行いました。対話の大まかな内容については、以下の記事を見るとわかります。
FacebookのザッカーバーグCEOが従業員との大規模会議を実施、プラットフォームの規制やポリシーについて語る - GIGAZINE
by Billionaires Success
The Vergeの編集者であるケイシー・ニュートン氏は85分に及ぶザッカーバーグCEOと従業員の対話の中から、「注目するべき9個のポイント」を抜き出して説明しています。
◆1:アメリカ国内の混乱がエスカレートした場合、Facebookはアメリカ政府関係者について一時的な言論統制を採用する可能性がある
黒人コミュニティを擁護するアメリカ国内の運動は常に変化しているため、「長期にわたって市民の混乱が続くかもしれない期間に突入すれば、アメリカでも異なるポリシーが必要になるかもしれません」とザッカーバーグCEOは認めました。ザッカーバーグCEOはFacebookが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する誤報を削除するために行動したことを挙げ、武力を行使した過度の取り締まりも、Facebookのポリシー変更を正当化する緊急事態だと述べています。
◆2:トランプ大統領と通話を行ったのは、「武力行使を示唆する投稿について何の検閲も行わない」と決めた後だった
トランプ大統領が武力行使を示唆する投稿を行った直後の5月29日の午前中に、ザッカーバーグCEOはトランプ大統領と直接電話で話したと報じられており、この点でも批判の的となっています。「Facebookの対応はトランプ大統領から直接の指示を受けたものではないか」との疑念もあったそうですが、トランプ大統領との電話はFacebookの対応が決まった後に行われたものだとザッカーバーグCEOは主張しました。
by Gage Skidmore
◆3:トランプ大統領の投稿に関する決定に関与した黒人従業員は1人しかいなかった
黒人暴動とトランプ大統領の発言に関する今回の意思決定は、マイク・シュロープファーCTO、シェリル・サンドバーグCOO、マキシーン・ウィリアムスCDO、ジェニファー・ニューステッド法務顧問、モニカ・ビッカートグローバル管理担当副社長などのFacebookの重役と協議して決定したとザッカーバーグCEOは説明しています。
従業員側はこの説明に対し、協議者の中に黒人がマキシーン・ウィリアムスCDOただ1人だと指摘。ザッカーバーグCEOは先に挙げた人物のほかに、ポリシーチームやインテグリティチームに黒人の従業員がいると説明しましたが、従業員は意志決定により多くの黒人従業員を加えるべきだったと主張しました。
◆4:Facebookはトランプ大統領の投稿に関する「7個の計画」で従業員の懸念に対処しようとしている
ザッカーバーグCEOは従業員からの懸念に対処するため、以下の7個の計画があると述べています。
・Facebookは武力の行使を示唆する国家の脅しに関するポリシーを再検討する。
・「投票に行くとCOVID-19に感染する」という投票抑制を目的とした脅しが可能なポリシーを再検討する。
・Facebookのコミュニティ規定に違反していなくても、何らかの形で不快なコンテンツにラベル付けすることを検討する。
・ポリシーの決定について内部でよりよくコミュニケーションする。
・ポリシー決定チームにより多様な従業員を含める。
・Facebookで人種的正義を推進する新しい取り組みを従業員から募集する。
・COVID-19の情報をハブにした新製品を作り、人々が投票するのを助ける。
◆5:ザッカーバーグCEOはトランプ大統領の投稿を残すことがFacebookのダメージになる可能性を認めている
トランプ大統領の投稿を残し続ける決定を下したザッカーバーグCEOですが、プラットフォームのCEOという立場を離れた個人的意見としては、武力行使を示唆する投稿内容に動揺しているとコメント。「おそらく正しいステップだと考えることを実行した今回の決定により、会社に多大な損害が発生しました」と述べています。
◆6:ザッカーバーグCEOは従業員に対し、言論の自由の保護を重視するように奨励した
ザッカーバーグCEOは一連の抗議活動のきっかけとなった、黒人男性のジョージ・フロイド氏が死亡する様子のムービーがFacebookにも投稿され、世界的な動きに成長したことを指摘。この点をFacebook従業員は誇りに思うべきだと述べ、たとえ道徳的に見ると人々にとって有害だと思われる投稿でも、それが人々の目に触れることで大きなメリットが発生することもあると訴えています。「これは、以前はニュースに触れることができず、ニュースについて話すことができなかった人々に、声を与えるものです。痛みを伴うものが目に触れるようになります。これも重要なことです」と、ザッカーバーグCEOは述べました。
◆7:トランプ大統領に関連するものでもFacebookは削除したことがある
2020年3月、Facebookはトランプ大統領のキャンペーンサイトへ遷移する広告を削除しました。これは、広告が一見すると2020年度のアメリカ国勢調査であるかのように装っていたことが原因でした。従業員はFacebookがトランプ大統領の動きに対して何も対処できないのではないかと懸念していますが、少なくとも対処を行った事例が存在するとのこと。
◆8:ザッカーバーグCEOは言論の自由が次第に制限され、やがて後悔することを懸念している
「一般的に、私たちは物事を制限するためにポリシーを追加する傾向があります」とザッカーバーグCEOは指摘。物議を醸す事柄について人々は規制を設けることをためらいませんが、次第に制限される範囲が拡大し、やがて人々にとって有益なものまで制限され、自分たちの手で言論の自由が失われてしまう危険性があるとザッカーバーグCEOは懸念しています。
◆9:従業員は必ずしもザッカーバーグCEOの言葉に賛成していない
ザッカーバーグCEOとの会議についてニュートン氏と話したFacebook従業員は、直接話し合う機会に感謝はしているものの、結局の所ザッカーバーグCEOはハッキリした答えを出さなかったと非難しています。この従業員は表情や声のトーンから、ザッカーバーグCEOは従業員の離反を恐れているように感じたと語ったとのこと。別の従業員は「ザッカーバーグCEOの決定は多くの従業員によって支持されていた」と述べましたが、無神経な発言を恐れた結果としてそうなったに過ぎないとも指摘したそうです。
ソーシャルメディアについては、「社会が協力する新しいツールであり、以前であれば見過ごされていたかもしれない黒人男性の死に注意を向け、大きな活動につなげるなどのメリットがデメリットを上回る」という楽観主義者と、「社会の不均衡を強化して悪意を持った力のある人物が不都合な動きを取り締まるのに使われる」という悲観主義者がいるとニュートン氏は指摘。楽観主義者は今の状況を静観する余裕がありますが、悲観主義者は悠長に構えていないかもしれないと述べました。
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