中国でいまだに石炭火力発電所が増え続けているのは一体なぜなのか?
持続可能なエネルギー政策について研究している非営利団体Rocky Mountain Instituteで論説委員を務めるクリスチャン・ローゼルンド氏が、「なぜ環境への負荷が大きく、経済的でもない石炭火力発電が根強く利用され続けているのか?」について考察しています。
Zombie Coal - The Energy Transition Magazine
https://theenergytransition.org/article/zombie-coal/
◆石炭はもはや安価なエネルギーではない
石炭は、古くは古代ギリシアで鍛冶屋の燃料に使われたとの記録が残っていますが、本格的にエネルギー源として使われるようになったのは18世紀に蒸気機関が発明されたのがきっかけです。産業革命の原動力となって以来、約200年間にわたり人々の暮らしを支えてきた石炭ですが、ドイツが2038年までに国内の石炭火力発電所すべてを閉鎖する計画を発表するなど、近年では石炭の利用を縮小したり停止したりする動きが強まっています。
石炭が使われなくなっている最大の要因は、環境への負荷です。石炭を燃焼させると、窒素酸化物、硫黄酸化物、水銀などの有害物質が発生し、大気汚染の原因となります。また、石炭が燃焼した後に残る大量の灰も問題となります。
また、石炭は非常に多くの炭素を排出します。ローゼルンド氏によると、石炭火力発電により二酸化炭素だけでなくメタンガスも発生することを考慮すると、石炭は気候変動にとって最悪の化石燃料だと考えられるとのこと。
それでも石炭が使われてきた背景には、石油などのエネルギー源に比べて低コストだという事情がありました。しかし、2020年4月に原油の先物価格が史上初のマイナス価格を記録したことが象徴しているように、近年では石油の価格が下落の一途をたどっており、石炭は相対的に高価なエネルギーとなりつつあります。
そのため、国際エネルギー機関(IEA)は、「2020年第1四半期における世界の石炭需要は、前年同期に比べて8%減少する」との予測を発表しています。
コスト面での競争の激化に対し、石炭業界は火力発電の排熱を利用してさらにエネルギーを生み出すコンバインドサイクル発電により従来より飛躍的に効率的な発電を行うなどして対抗していますが、台頭する再生可能エネルギーに押されてますます厳しい立場に追いやられています。
ローゼルンド氏によると、太陽光発電にかかる費用はここ10年で7分の1未満にまで減少したとのこと。「再生可能エネルギーは、燃料費がかからず発電所の建設にかかる費用と最小限の保守費用だけで運用が可能となるため、仮に電力の価格がゼロに近くなっても電力を売ることができます。これは、燃料費がかかる火力発電所にとっては非常に不利です」とローゼルンド氏は指摘しています。
◆中国で石炭火力発電所が増えている
石炭のコスト面での優位性が失われつつあるにもかかわらず、世界で新たに建設される石炭火力発電所の数は閉鎖される石炭火力発電所の数を上回っており、全体としては増加傾向にあります。
以下は、アメリカの調査団体Global Energy MonitorとイギリスのシンクタンクCarbon Trackerが共同で分析した、2020年時点で新規建設中もしくは建設が予定されている石炭火力発電所の発電容量のグラフです。グラフは左から中国、南アジア、インド、トルコ、日本、EU、アメリカ、その他の地域を表していて、青色の棒グラフは建設中、黒色の棒グラフは建設計画が発表された火力発電所を示しています。EUやアメリカではほとんど石炭火力発電所が建設されていないのに対して、中国をはじめとするアジア地域では盛んに石炭火力発電所が新設されていることが一目で分かります。
ローゼルンド氏によると、中国で石炭火力発電所が増え続けている要因は、大きく分けて3つあるとのこと。最初の要因は「エネルギーの安全保障」です。中国は国内で消費している石油の大半を輸入に頼っている世界最大の石油純輸入国ですが、石炭は国内で大量に生産することができます。そのため、石炭はエネルギーの輸入依存度を下げる手段と見なされています。また、世界最大の石炭生産国として、採掘から発電所の運営に至るまで膨大な人数の雇用を抱えているため、石炭火力発電には国内経済を守るという意味合いもあります。
日本の資源エネルギー庁も、石炭火力発電を行う理由について「安定供給が可能なエネルギー資源に乏しい日本としては、(中略)石炭を一定程度活用していくことが必要となります」と説明しています。
なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/qa_sekitankaryoku.html
2つ目の要因は「政策決定の仕組み」にあります。中国では長い間、石炭火力発電所の新規建設に関する権限は中央政府が独占していましたが、この権限が2014年に中央政府から省に移譲されました。これに飛びついたのが、各省の地方政府です。常に中央政府から経済成長を求められている地方政府は、安易に雇用を拡大する方法として、石炭火力発電所の建設許可を乱発しました。その結果、2016年に石炭火力発電所の建設が制限されるまでの間に、中国各地で石炭火力発電所の建設ラッシュが発生していまいました。
3つ目の要因が、「環境政策」です。中国の経済的発展に伴い、都市部では大気汚染の問題が深刻化するようになり、一時は「きれいな空気を封入した缶詰」が飛ぶように売れたほどでした。そこで、中央政府は大都市の近くにある石炭火力発電所の閉鎖に乗り出しましたが、それを補うために農村部にある石炭火力発電所を増やしたため、石炭火力発電所の建設ラッシュに拍車がかかったとのことです。
こうした状況について、Carbon TrackerのアナリストであるSriya Sundaresan氏は「中国では、建設プロジェクトの現実性より、成長目標やエネルギー安全保障、石炭関連の雇用が優先されています」と指摘しました。
また、ローゼルンド氏は「私たちは、気候問題と石炭に依存する経済という、2つの壮大な規模の災害に直面しています。この状況を好転させる時間はまだ残されていますが、石炭火力発電所の建設に資金を投じている投資家や政府は、自分たちが取ろうとしているリスクを真剣に考え直す必要があります」と述べました。
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