貧困国では発電された電力の半分が「送電網」の途中で失われ大量の二酸化炭素が無駄に排出されている
by Miguel Á. Padriñán
近年では地球温暖化を食い止めるため、世界中で二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの削減が叫ばれています。しかし、多くの人々が化石燃料の利用停止や再生可能エネルギーによる発電について言及する一方で、「送電網の改善」について訴える人はほとんどいません。新たな研究では、「特に送電網に焦点を当てた電力部門の無駄を削減することで、大量の二酸化炭素排出量を削減できる」ことが明らかとなりました。
The climate mitigation opportunity behind global power transmission and distribution | Nature Climate Change
https://www.nature.com/articles/s41558-019-0544-3
We calculated emissions due to electricity loss on the power grid | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2019/12/we-calculated-emissions-due-to-electricity-loss-on-the-power-grid/
一般的に電気は大規模な発電所で作られますが、生み出された電気がそのまま家庭で使えるわけではありません。発電所で作られた電気は高圧の送電線を介して長距離を移動し、変電所などを経由してローカルな配電ネットワークに送られ、個々の家庭に送電されます。この過程では電力の移動に伴って送電網の各所で熱が発生し、電気エネルギーの一部が熱エネルギーとして失われているとのこと。
メリーランド大学とジョンズ・ホプキンズ大学の研究チームは、この送電網における電力ロスによる二酸化炭素排出量を定量化し、142カ国における「送電網における電力ロス」を分析しました。
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分析の結果、送電中に発生した電力ロスの割合は、国によって大きく異なることが示されました。たとえば、2016年に各国で発生した電力ロスはインドで19%、ブラジルでは16%でしたが、ハイチ、イラク、コンゴ共和国といった貧困国では50%を超えていました。これはつまり、発電された電力のうち各家庭に届く割合が50%に満たず、半分以上が送電の途中で失われていたということを意味します。
貧困国における電力ロスが深刻な一方で、先進国では送電中に失われる電力が非常に少ないことも示されています。2016年におけるアメリカの送電に伴う電力ロスはわずか6%、ドイツでは5%、シンガポールではなんと2%だったとのこと。これらの数値は国土の広さにも影響を受けているそうで、発電所から住居まで長距離を送電する必要がある国土の広い国では、発電所から住居までの距離が短い国より送電中の電力ロスが大きくなると研究チームは指摘しました。
研究チームの計算によると、世界中で送電中に失われた電力を作り出すために必要な二酸化炭素排出量は、年間でおよそ10億トンに上るとのこと。この数値は世界中の全大型トラックが1年間で排出する二酸化炭素排出量や、化学産業全体が1年間で排出する二酸化炭素排出量に匹敵するそうです。
世界中の送電網を分析した研究チームは、非効率な送電網を改善することで、年間でおよそ4億1100万~5億4400万トンもの二酸化炭素排出量を削減できると主張。非効率な送電線をより効率的な送電線に置き換え、ローカルレベルの配電網をより効率的に配線するといった改善は、温室効果ガスの削減に大きな役割を果たす可能性があります。その一方で、極端な気候災害や貧困、紛争といった技術的解決が難しい問題によって送電網が貧弱な国もあり、電力ロスが50%を超える多くの国ではこうした国内の問題に加え、化石燃料による発電量が多いという問題を抱えているとのこと。
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研究チームは多くの国々で再生可能エネルギーを用いた発電が目指されている一方で、送電網の改善に注力する国は依然として少ない点を指摘。たとえ再生可能エネルギーによる発電が実現したとしても、送電網での損失が大きければ結果として投資が無駄になってしまうため、クリーンな発電方法と効率的な送電網の両方を組み合わせることが重要だと主張しました。
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