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ロシアのウクライナ侵攻に揺れるヨーロッパで「原発」の議論はどうなっているのか?


気候変動対策として温室効果ガスを排出しない原子力発電が大きく注目を集める一方で、ロシアのウクライナ侵攻に端を発する不安定な国際情勢により原子力発電の必要性と危険性の両方が改めて意識されるようになるなど、ヨーロッパの原子力政策が大きく揺れています。そんなヨーロッパの原子力エネルギー政策をとりまく議論について、国際関係を専門とする独立系シンクタンクのCouncil on Foreign Relations(CFR)が分析しました。

Could Nuclear Power Cut Europe’s Dependence on Russian Energy? | Council on Foreign Relations
https://www.cfr.org/in-brief/could-nuclear-power-cut-europes-dependence-russian-energy

France to build up to 14 new nuclear reactors by 2050, says Macron | France | The Guardian
https://www.theguardian.com/world/2022/feb/10/france-to-build-up-to-14-new-nuclear-reactors-by-2050-says-macron

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は2021年11月に、原子力発電を拡大する方針を発表。2022年2月には、2050年までに最大14基の原子炉を新しく建設する具体案を公開しました。このことを報じたイギリスの大手一般新聞・The Guardianによると、フランス国内の全ての原発を所有するフランス電力が最低6基の原子炉を新たに建設することが決まっているほか、さらに8基の建設計画が進められているとのことです。

マクロン大統領は、就任当初に公約に掲げた脱原発の方針を大きく転換するこの発表を「フランスの原子力産業のルネッサンス」と位置づけ、化石燃料への依存をなくして2050年までにカーボンニュートラルを達成する上で重要だと主張しています。


ヨーロッパでは、気候変動対策に加えて地政学的な理由でも原子力が再評価されています。ロシアによるウクライナ侵攻に端を発するエネルギー問題を受けて、ベルギーは2025年の廃炉が決まっていた原子炉2基の稼働期間延長を発表しました。また、フィンランドも40年ぶりの原子炉の新規稼働に踏み切っています。

フィンランドで約40年ぶりに原子炉が新規建設され試験運用が開始 - GIGAZINE

by IAEA Imagebank

ヨーロッパ諸国が原発の稼働や増設を急いでいるのは、ロシアへのエネルギー依存への危機感が高まっているためです。CFRによると、EUが輸入している石炭および固形燃料の47%、天然ガスの41%、原油の27%がロシア産とのこと。そのため、ウクライナ侵攻に対する制裁への報復として、ロシアがEUへのエネルギー供給を遮断した場合、深刻なエネルギー危機に発展するおそれがあると懸念されています。

以下は、EUにおける原発の稼働状況を表すマップです。稼働可能な原発を保有する国が濃いオレンジ色で、再稼働が検討されている原発を保有している国が薄いオレンジ色で示されています。EUが原子力エネルギーの見直しを進めている理由について、CFRは「EU諸国の約半分が原子力発電所を持っています。通常、ほとんどの原子炉はフル稼働していないので、既存の原子炉の発電量は比較的すぐに増やすことができます。これは、国際エネルギー機関(IEA)がヨーロッパにおけるロシア産天然ガスの依存度を下げるために提案した解決策の1つでもあります」と述べました。


一方で、EUの中には原発の推進に反対する姿勢を崩していない国もあります。例えば、2011年の福島第一原子力発電所事故を契機に国内の原子炉の全廃を決めたドイツでは、ウクライナ侵攻を受けて廃炉の期限を延長する案が浮上しましたが、最終的に却下されました。CFRによると、ドイツの他にオーストリア、ルクセンブルグ、ポルトガルなども原発に対して慎重な態度を示しているとのこと。こうした国々では、原発の建設と維持にかかるコストや、放射性廃棄物の問題が原発反対の主因となっています。

ロシアのウクライナ侵攻はまた、原子力災害への懸念も引き起こしました。ロシア軍に占領されたウクライナのチェルノブイリ原子力発電所では、通信や外部からの電源供給が一時的に途絶える事態が発生したほか、同国にあるヨーロッパ最大の原発であるザポリージャ原子力発電所ではロシア軍の砲撃による火災も発生しています。

ブリティッシュ・コロンビア大学公共政策・世界問題研究所のアリソン・マクファーレン所長はCFRに対し、「戦争によって誰もが目を覚まし、原発が戦火に耐えられるよう設計されていないことに気づきました」と話しました。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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