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気候変動に対処するためには原子力発電に投資するべきではないと専門家が指摘


原子力発電は発電時に二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギー源として期待されていましたが、近年では原子力発電事故によるリスクや放射性廃棄物の処理が問題視されています。世界の原子力産業に関する年次報告書「World Nuclear Industry Status Report(WNISR)」の編集者を務めるマイケル・シュナイダー氏は、ドイツの国営放送事業体であるドイチェ・ヴェレのインタビューの中で、「温室効果ガスを削減したいのであれば原子力発電に投資するべきではない」と主張しました。

Every euro invested in nuclear power makes the climate crisis worse′ | Environment| All topics from climate change to conservation | DW | 11.03.2021
https://www.dw.com/en/nuclear-climate-mycle-schneider-renewables-fukushima/a-56712368

シュナイダー氏は気候変動に対処する上で、単純な温室効果ガス排出量の削減に加えて「一定のコストでどれだけ速く温室効果ガス排出量を削減できるか」という観点も重要だと指摘。コストや実現可能性に加え、排出量の削減を達成する時間的な面も考慮する必要があるとしています。


この点を考えると、「気候変動に対処するために原子力発電所を建設する」という選択肢は除外されるとのこと。原子力発電所は発電にかかるコストが高い上に原子炉の建設に長い時間を要するため、たとえ建設後はクリーンな発電が可能になるとしても、建設中に気候変動の悪化を食い止めることはできません。そのため、新しい原子力発電所に投資するくらいなら、より早期に結果が出る効率的な気候変動対策に投資するべきだとシュナイダー氏は述べています。

また、すでに建設された原子力発電所に関しても、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーを用いた発電方式と比較して基本的な運用コストが高いとシュナイダー氏は指摘。以下のグラフは縦軸が1kWh(キロワット時)当たりの発電コストをアメリカセントで示しており、横軸が年を表しています。原子力発電のコストを示す赤色の線の動きを見ると、2009年の時点では原子力発電は太陽光発電(黄色)や風力発電(水色)よりも安価だったものの、2020年の時点では太陽光発電や風力発電の方が圧倒的に発電コストが安価であることがわかります。


シュナイダー氏によると、ポルトガルでは太陽光発電による1kWh当たりの発電コストはわずか1.1セント(約1円)だそうで、スペインでも太陽光・風力を合わせた発電コストは1kWh当たり2.5セント(約3円)だとのこと。これらの値は、世界中に存在する多くの原子力発電のコストを下回っているそうです。

また、再生可能エネルギーを用いた発電では「時間に応じて発電量を変えることができない」という問題もありますが、基本的な運用コストが低いため、電力貯蔵のためにコストをかけても原子力発電より安価だとシュナイダー氏は述べています。

すでに多くの再生可能エネルギー発電が原子力発電のコストを下回っているにもかかわらず、依然として各国は新たな原子力発電所の建設計画を発表しています。この理由についてシュナイダー氏は、「業界が原子力発電所の建設を進めなければ原子力産業が衰退してしまう」という業界の意図や、「原子力産業の維持は軍事戦略上のメリットがある」といった政治家の狙いが介在していると指摘。また、中国をはじめとする一部の国家は、影響力を強めたい国へのインフラ支援として原子力発電所の建設を進めているとのこと。


電力会社にとっても、すでに建設した原子力発電の稼働をやめることは困難です。原子力発電所を廃止すれば発電量が減る上に廃炉コストもかさむため、その分だけ負債が増えてしまいます。そのため、廃止を決定してからも、実際に稼働を止めるまで数年以上かかることは珍しくありません。

シュナイダー氏によると、すでに建設してしまった原子力発電所を解体するには、原子炉1基あたり10億ユーロ(約1300億円)以上のコストがかかるとのこと。ただでさえ経済的な問題を抱える電力会社がこのコストを捻出するのは難しく、原子力発電所を維持せざるを得ない事情があるとシュナイダー氏は述べています。

また、原子力発電に伴う問題として指摘されているのが、発電により発生する放射性廃棄物の処理問題です。放射性廃棄物は人が触れる危険がない地下深くに埋める地層処分が最も適切だと考えられていますが、実際に恒久的な地層処分施設が運用されている事例はありません。

フィンランドやスウェーデンでは処分地の選定も済んでおり、施設の建設計画も進められているそうですが、本当に試運転までこぎ着けられるのかどうかは不明だとシュナイダー氏は指摘。他の国はさらに遅れており、放射性廃棄物を処理する明確なスタンスはいまだに共有されていないのが現状だと述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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