原子力発電所の事故はどれほどの人々に影響を与えるのか
教育を目的とした科学的な分野のビデオを作成しているYouTubeチャンネル「Kurzgesagt」が、「原子力発電は何人の人々を殺したのか?」という題材について解説しています。
Sources – How Many People Did Nuclear Energy Kill?
https://sites.google.com/view/sources-nuclear-death-toll/
How Many People Did Nuclear Energy Kill? Nuclear Death Toll - YouTube
1951年12月20日、アイダホ州の原子炉「EBR-I」が世界で初めて稼働に成功し、4つの電球を点灯させて原子力の歴史に新しい時代をもたらしました。しかしこの日以来、世界中で約30件の原子力事故が発生することとなります。
原子力事故は、事故によって放出された放射性物質や化学物質の量、死傷者数などのさまざまな基準に基づいて「国際原子力事象評価尺度(INES)」という事故の大きさの尺度が定められています。INESは0から7までに分類されており、0は運転制限範囲内の事故、7は深刻な事故とされ、これまで尺度7には1986年に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故と、2011年に発生した福島第一原子力発電所事故の2件のみが分類されています。
by Silver Spoon
チェルノブイリ原子力発電所事故は多くの理由で史上最悪の原子力事故だとみなされています。原子炉技術は古く、緊急事態への備えが不十分だった上、政府の対応は遅く、被害の管理よりも対外的なイメージの維持を重視していました。チェルノブイリ原子力発電所事故の結果31人が死亡し、約140人がさまざまな放射線障害に苦しむことになりました。
また、チェルノブイリ原子力発電所事故によって発生した放射線は数千を超える人々のがんなどのリスクを高め、その寿命に影響を与えたとされています。被ばくによって死亡、または将来死亡する可能性のある被害者の数はこれまでさまざまな機関による算出がなされてきま したが、最も悲観的な見積もりを行ったのは欧州緑の党が2006年に発表したTORCHレポートで、このレポートによると被害者の数は3万人から6万人だとされています。TORCHレポートはその後何度か議論と改訂が行われ、2016年時点で被害者数の中央値を40000人と定めています。
史上2番目に大きい原子力事故とされているのが、福島第一原子力発電所事故です。ただし、この発電所はチェルノブイリ原子力発電所よりもはるかに優れた技術とセキュリティ対策が使用されており、職員や政府による対応も迅速で的確だったとKurzgesagtは述べています。福島第一原子力発電所の警戒区域と避難指示区域はチェルノブイリのそれよりも狭く、政府による迅速な避難指示もあり、予測される健康への影響はチェルノブイリ原子力発電所事故よりも低いとされています。
しかし、福島第一原子力発電所事故も多くの死者を出しました。2012年に読売新聞が発表した調査結果(PDFファイル)によると、福島第一原子力発電所周辺の13市町村が被害を受け、573人の死亡が確認されたとのこと。一方で死因は放射線による直接的なものではなく、災害によるストレスなどの精神疾患によるものだったとされています。
福島第一原子力発電所の周囲20km以内の人々は東日本大震災のパニックの中、体系化されていたとはいえない避難プロセスによって避難しなければならず、人々は高齢者を中心に危険にさらされることになりました。周囲20kmで命を失った人々の65%は60歳以上だとされています。
一方で、福島第一原子力発電所事故で発生した被ばくによる死亡者、および将来死亡する可能性のある被害者の数は、チェルノブイリ原子力発電所事故よりもはるかに少ないとされています。コロンビア大学で原子核物理学の博士号を取得したジャン・ベイエ氏らによる研究によると、将来的な死亡者数の予測最小値と最大値の平均は1000人程度だとされています。
また、福島第一原子力発電所事故の際には、「放射線によって子どもの甲状腺がんが多発するのでは」と話題になりました。WHOが2013年に行った調査では、実際に甲状腺がんの発生リスクは他の種類のがんに比べて70%高いという結論が下されましたが、同時にWHOは、「事件発生以降、18歳以下の福島県民を対象とした甲状腺検査が毎年実施されるようになったため、生命に影響を与えない程度のリスクまでもが検出されている可能性がある」とも記しています。なお、2018年の調査では、事故当時18歳以下であった32万4301人のうち、甲状腺がんを患ってたのは187人でした。
ちなみに、Kurzgesagtは参考として、火力、風力、水力などのその他の発電方法が人々に与える影響についても記述しています。統計データを掲載しているウェブサイト「Our World in Data」などの調査によると、水力発電は過去半世紀で数十万人、化石燃料による大気汚染は約1億人の人々を死亡させたと推定されています。
Kurzgesagtは「原子力発電の利用にはさまざまな主張がある」と述べ、原子力発電所の安全利用には核廃棄物の貯蔵が重要な課題だと論じています。
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in Posted by log1p_kr
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