世界最大のECサイト・Amazonに反旗を翻す「反Amazon同盟」とは?
ビジネスブログのStratecheryを運営するベン・トンプソンさんが、世界最大級のオンラインショッピングサイトであるAmazon.comに対抗すべく「反Amazon同盟」が成り立ちつつあると指摘しています。
The Anti-Amazon Alliance – Stratechery by Ben Thompson
https://stratechery.com/2020/the-anti-amazon-alliance/
アメリカ人心理学者のエドワード・ストロングが提唱した、消費者の購入までの意識の遷移をモデル化したAIDAモデルは、顧客が商品を購入する際の心理的な変化を以下の4つの段階に分けたものです。
1:Attention(注意:顧客の注意を引く)
2:Interest(関心:顧客に商品を訴求し関心を引く)
3:Desire(欲求:顧客に商品への欲求があり、それが満足をもたらすことを納得させる)
4:Action(行動:顧客に行動を起こさせる)
AIDAモデルを取り入れた例として、1999年に公開されたSwifferのTVCMをトンプソンさんは挙げています。
Swiffer ad, 1999 - YouTube
まず最初に、掃除機やホウキといった従来の掃除方法では家の中を完璧に掃除できるわけではなく、汚れを悪化させてしまうことをアピールし、「顧客の注意を引き」ます。
この問題を解決するには汚れをすべて取り除く必要があり、その手段としてSwifferを提示。これが「顧客に商品を訴求し関心を引く」という段階。
Swifferならば家中を手軽に掃除可能。
そのまま拭き掃除に使ってもOK。
最後はSwifferを捨てるだけで掃除が完了。商品の強みをアピールして「顧客の商品への欲求」をあおります。
最後は再び商品をアピールしてTVCMは終了。
最後の「顧客に行動を起こさせる」段階は、TVCMではなくスーパーマーケットなどのSwifferを販売する実店舗で行われます。店舗の棚に並んだSwifferを見て、顧客は最後の「顧客に行動を起こさせる」段階に移行するというわけです。SwifferのプロモーションはTVCMだけで成功したわけではなく、複数のメディアでの広報活動やクーポンの配布など、さまざまな要因が合わさった結果ではあるものの、「AIDAモデルを45秒のTVCMに圧縮したという事実はこのモデルを説明するのに非常に役立つと思い、例として挙げました」とトンプソンさんは述べています。
Swifferの販売元であるP&Gはスーパーマーケットの商品棚を支配することでSwifferを一躍人気お掃除道具のひとつに仕立て上げましたが、インターネットというほぼ無限のリソースを支配することはできないため、インターネットが繁栄する現代に同じような手法で商品のPRを行うことは非常に難しいと言わざるを得ません。
インターネット上で商品を売るには顧客にブランドを認識してもらい、ブランド名を検索ボックスに入力してもらう必要がありますが、これは「スーパーマーケットの棚を独占する」よりもはるかに難しい課題であり、ブランド認知に必要な時間と資金ははるかに莫大なものとなります。また、例えば「洗濯用洗剤」と検索した見込み顧客を取り入れるには検索結果の上位に商品が並ぶ必要がありますが、そのためには多くの商品を売る必要があり、言い換えると「多くの商品が存在するカテゴリでは売り上げが下がると検索結果も悪化し不利になる」という問題があるとのこと。
そんなインターネット時代に、商品販売戦略で激しいしのぎを削る各ブランドにとって「最も巨大なブランドはAmazonである」とトンプソンさんは主張。その理由はとても単純で、インターネット上で買い物を行う多くの人々がAmazonで商品を検索・購入しているからです。市場調査企業・eMarketerの調査データによると、オンラインショッピングを行う際、ユーザーの実に49%がAmazon上でワード検索を行っており、Google上で検索を行う人はわずか22%しかいないとのこと。
オンラインショッピングという分野だけに絞るとAmazonはGoogle以上の検索エンジンであり、それでいて商品の販売・配送まですべてを担っています。そのため、「Amazonが数年前からプライベートブランドの販売に力を入れている理由も理解できる」とトンプソンさんは述べています。
なお、「Amazonはマーケットプレイス上の販売データを基に取扱製品を決めている」と報じられたように、Amazonは自社の販売データだけでなくサードパーティ業者の販売データも収集し、プライベートブランドで取り扱う製品を決めていると報じられています。
Amazonはマーケットプレイス上の販売データを基に取扱製品を決めていると報じられる - GIGAZINE
これらの事実を総合して、トンプソンさんは「このような巨大な力を有するAmazonにオンラインショッピングという分野で対抗することはほとんど不可能」と指摘しています。
しかし、そんなAmazonに対抗する「反Amazon同盟」とも呼べる存在をトンプソンさんは指摘しています。反Amazon同盟の筆頭としてトンプソンさんが挙げているのが、eコマースプラットフォームを提供するShopifyです。一見するとShopifyはAmazonの競合相手には見えません。なぜなら、顧客がShopifyの公式サイト上で商品を購入することはないから。しかし、「Shopifyという存在すら知らずにShopifyから製品を購入したユーザーが2億1800万人もいる」とトンプソンさんは指摘。Shopifyは顧客と直接やり取りするのではなく、82万件ものサードパーティの販売業者のためにオンラインショッピングサイトを提供するプラットフォームで、このサードパーティ販売業者から商品を購入したユーザーが2億人以上いるというわけ。
最強の捕食者Amazonを打ち負かすのは多様性を持った「真のプラットフォーム」だという指摘 - GIGAZINE
しかし、ShopifyのようなECサイト構築を手助けするサービスや、ウォルマートのような大手スーパーマーケットチェーンが単体でAmazonと競合しようとしても、「検索」と「販売」を一度に担うAmazonのようなプラットフォームに対抗することは非常に困難です。そこで重要になってくるのが、「オンラインショッピング時の検索」で22%のシェアを有するGoogleです。
2020年4月21日、Googleは商品価格検索サービスであるGoogleショッピングに表示される商品を無料で登録できるようにすることを発表しました。ITmedia NEWSによると、2012年以降はGoogleショッピング上に商品を表示するには小売業者がGoogle Merchant Centerに有料で商品を登録しなければいけなかったそうです。
List your products on Google Shopping for free - The Keyword
Googleは「新型コロナウイルスのパンデミックにより実店舗の多くが臨時休業しており、オンラインショッピングは小売業者にとってのライフラインとなりました。また、消費者はオンライン上での買い物を増やしており、日用品だけでなくおもちゃやアパレル用品、家庭用品などの需要も高まっています。これは消費者との関係を維持することに苦労している企業にとってチャンスですが、多くの企業にはオンライショッピングを始める余裕がありません。そこで、Googleは無料で検索結果に商品を表示できるようにする計画を進めています。具体的には、来週からGoogleのショッピングタブ上に表示される検索結果に、無料でしょう品を登録することができるようになります。販売者がGoogle上で広告を掲載しているかどうかに関係なく、消費者に商品をアピールすることが可能です」と記し、新型コロナウイルスの影響でオンラインショッピングの需要が高まる中、小売業者が無料で商品を登録できるようにすると発表しました。
Googleはあくまでも新型コロナウイルスの影響を受けた変更であるとしていますが、トンプソンさんは「これは新型コロナウイルスとは何の関係もありません。この変更が本当に意味するところは、反Amazon同盟に欠けていた重要な部分を補うという点です」と説明しています。
GoogleはGoogleショッピングで表示される商品情報を無料で登録できるようにしただけでなく、ShopifyやWooCommerceといった企業と提携することで、小規模な小売業者でも簡単にGoogle経由で商品を顧客にアピールできるように協力しています。この協力関係は「Amazonの影響力が高まっていることの表れ」とトンプソンさんは指摘。
2017年にGoogleショッピングは欧州委員会から独占禁止法に違反したとして制裁金の支払いを命じられました。しかし、トンプソンさんは「オンラインショッピングにおいてはよりAmazonが独占的に市場を支配している」として欧州委員会の判断を「間違ったもの」と批判しています。
なお、トンプソンさんは差別化された製品やブランドを持つサードパーティ業者に対して「Amazonというプラットフォーム上から早く離脱すべき」と指摘。Googleショッピングが商品の登録を無料化したことから、この流れはこれまで以上に簡単になったとしています。
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