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Amazonはどうやって欠陥品や偽造品に対する法的責任を免れてきたのか?

by Claudio Toledo

Amazonといえば世界最大級のECサイトというイメージが強いですが、音声認識アシスタントのAlexaや電子書籍リーダーのKindleを開発・販売したり、クラウドコンピューティングサービスのAWSを提供したりと、さまざまなビジネスを展開しています。それでも小売り分野の売上高の約58%は、Amazonというプラットフォームを利用して第三者が商品を販売できる「Amazonマーケットプレイス」の売上が占めているのが現状。AmazonマーケットプレイスはAmazonにとって「莫大な利益を生み出す、なくてはならない存在」ですが、命の危険につながる禁止品・リコール品・偽造品の温床になっているという指摘もあり、長らく問題視されています。なぜ批判の的となりながらもAmazonは危険な商品を販売し続けることができるのかについて、海外メディアのThe Vergeがまとめています。

How Amazon escapes liability for the riskiest products on its site - The Verge
https://www.theverge.com/2020/1/28/21080720/amazon-product-liability-lawsuits-marketplace-damage-third-party

ウェンディー・ワイントローブさんは、2016年に200ドル(約2万2000円)の比較的高価なヘアドライヤーをAmazonで購入しました。ワイントローブさんは安全に配慮し、ドライヤーが常にコンセントにつながった状態にならないよう、気を付けて使用していたそうです。しかし、2018年のある日、ワイントローブさんはドライヤーで髪の毛を乾かしながら仕事の準備をしていた際に、煙のような焦げた匂いに気づきます。次の瞬間、ドライヤーから小さな金属片のようなものが飛び出し、そこから寝室に炎が広がっていったそうです。ワイントローブさんはパニックになりつつも消火器で炎を消火しようとしますが、煙は既にかなり広がっており、すぐに呼吸するのが難しいレベルにまで至ったと語っています。


その後、消防士が駆けつけワイントローブさんを家から助け出したそうです。その頃には家の窓から炎が立ち上るほど火災が広がっていたとのこと。ワイントローブさんは当時を振り返りながら、「ものはものと交換することができます。しかし、命は交換することができません」と、命の危機を感じたことを語っています。

ワイントローブさんは火災にあったものの、保険会社が建て直しの費用と、建て直し中の仮の住まい費用を負担してくれたそうです。そして、ワイントローブさんに保険金を支払った保険会社は、火災の原因となったヘアドライヤーを製造するメーカーと、ドライヤーを販売したAmazonの両方を訴え、85万ドル(約9300万円)以上の支払いを求めています。

by Daniel Tausis

この訴訟案件は記事作成時点では法廷で係争中となっており、判決次第ではAmazonの今後に大きな影響を及ぼす可能性があります。

Amazonはこれまで自社のプラットフォーム上で第三者が販売するものについては責任を負わないとしてきました。実際、ほとんどの訴訟で裁判所はAmazon側の主張を認めてきたため、AmazonはAmazonマーケットプレイスで販売されるものにについて大きな規制を加える必要がなく、その結果、サードパーティ業者の販売する禁止品・リコール品・偽造品から莫大な利益を得ることが可能となっていました。

Amazonはサードパーティ業者の販売する禁止品・リコール品・偽造品により莫大な利益を得ているという指摘 - GIGAZINE

by chuttersnap

ウォール・ストリート・ジャーナルが独自に行った調査により、Amazon上で販売されている偽造品やリコール品の数は4000個以上、その半数が子どもを深刻な危険にさらす可能性があることが明らかになっています。こういった安全基準を満たしていない偽造品や、安全基準を満たしていないためリコールされたはずの商品がAmazonマーケットプレイスでは当たり前のように販売されており、時には消費者の致命的な怪我につながることもあります。

Amazonで購入可能な偽ブランドのチャイルドシートは安全基準を全く満たしていないとの検証結果 - GIGAZINE


The Vergeが訴訟記録を調べたところ、Amazonは過去10年間で、製造物の責任をめぐり60件以上の訴訟に直面してきたそうです。訴訟内容はさまざまで、「Amazonで購入したホバーボードが財産を焼き払ってしまった」と主張する人や、「Amazonで購入したアークペンがポケットで爆発して重度のやけどを負った」と主張する人などが、Amazonを相手に訴訟を起こしていたとのこと。

例えばホームセンターが欠陥のある商品を販売した場合、製造元の会社と共に、ホームセンターを訴えることができます。商品を販売するホームセンター側は、「小売業者は在庫する製品に注意を払う必要がある」ためです。つまり、店舗の棚に並ぶ商品は、少なくとも最も基本的な製品安全要件を満たしていることを確認してから販売されるべきというわけ。アメリカの各州では、製造物責任法のもとさまざまな判決が下されていますが、どの判例も商品を販売したホームセンター側が製造業者以上の責任を負わされているそうです。

これに対して、Amazonは「サードパーティの商品を販売する店舗」として機能すると同時に、「サードパーティが商品を販売するためのAmazonマーケットプレイスというプラットフォーム(場)を提供する企業」と識別することもできます。このどちらとも取れる非常にあいまいな法的地位を駆使することで、Amazonは状況に応じて訴訟を和解で収めたり、反論したりと立場を変えている、とThe Vergeは指摘。

by Daniel Eledut

AmazonはAmazonマーケットプレイスを、「ホームセンターのザ・ホーム・デポというよりは、Craigslistに似ている」と主張しており、買い手と売り手を結び付ける「場」であると主張しています。そのため、取引において問題が発生した場合は、Amazonではなく買い手と売り手の当事者同士で解決すべきというスタンスを取っており、裁判所側もこれまではAmazonの主張を認めてきました。これについて、ニューヨーク大学の民事訴訟の専門家であるマーク・ガイスト教授は、「確かに現状ではAmazonに責任はないといえる」とコメントしています。

しかし、最近になって「Amazonはサードパーティ業者の販売する商品に責任を持つべきだ」という意見が多くなっており、2019年には「Amazonはサードパーティ業者が販売する製品についても法的責任を負う必要がある」という判決が下されました。裁判ではペンシルベニア州の州法に基づけば、Amazonは「売り手」としての条件を満たしているということで、製造物責任法に基づき販売した商品に責任を負う必要があるとされています。

Amazonはサードパーティ業者が販売する製品についても法的責任を負う必要があるという判決 - GIGAZINE

by Christian Wiediger

また、法律関連の学術誌であるBrooklyn Journal of Corporate, Financial&Commercial Lawで2021年に発表予定の学術論文の中で、研究者たちは「一般消費者のマーケットプレイスでの商品購入に、Amazonは密接に関わっている」と主張しています。論文の中で研究者は、「我々の見解では、裁判所はAmazonマーケットプレイスで起きている問題の規模や状況を正確に把握していない」とまで指摘しており、「Amazonの『売り手と買い手の間に存在する中立なプラットフォーム』という主張はまやかしです」と、Amazonおよびあいまいな法的地位を取るAmazonに肯定的な判決を下し続けている裁判所を批判しています。

この論文の共著者のひとりであるブルックリン・ロースクールのアーロン・ツエルスキ氏は、「Amazonは販売の最初から最後まですべてを握っています。ほとんどの人にとって、Amazon経由での商品購入は、Amazonからの購入そのものを意味するのです。実際に起きていることを詳細に理解しているのは天才だけです」と語り、販売元が不透明なシステムそのものに問題があると指摘しています。

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in ネットサービス, Posted by logu_ii

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