サイエンス

「新型コロナウイルス感染症が完全に治った」と宣言するための定義とは?


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、重症化すると肺炎を引き起こす可能性はあるものの、人によっては発症して1週間ほどで発熱やせきなどの症状が治まるケースもあります。しかし、熱が下がってせきが出なくなっても、体内にウイルスが残留しているケースが存在します。インディアナ州保健省の公衆疫学プログラムディレクターであるトム・ダシンスキー氏が、「COVID-19が完治した」といえるための基準を解説しています。

What does 'recovered from coronavirus' mean? 4 questions answered about how some survive and what happens next
https://theconversation.com/what-does-recovered-from-coronavirus-mean-4-questions-answered-about-how-some-survive-and-what-happens-next-134883


ウイルスに感染すると、「抗原」と呼ばれるウイルスのタンパク質を基に、体内の免疫システムが「抗体」を産生。この抗体がウイルスを不活化して複製を妨げることで、感染しにくくなったり、感染の症状が抑えられたりします。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した人の体内で抗体がうまく産生されれば、発症して1週間ほど体調が悪化した後、回復する傾向にあります。しかし、あくまでもウイルスを不活化して複製を妨げているだけなので、体調が回復しても体内にウイルスが残っている可能性があります。そのため、体調がよくなってもさらに3日間は自己隔離に努め、確実にウイルスをばらまかなくなるまで待つ必要があると、ダシンスキー氏は注意を促しています。


ダシンスキー氏は、アメリカにおいて「COVID-19から回復した」と正式に宣言するためには、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が提示する医学的基準検査基準の両方を満たす必要があるとしています。

CDCは医学的基準として、「解熱剤を投与していない状態で発熱が少なくとも3日間連続で見られない」かつ「せきや息切れといった呼吸器症状が見られない」かつ「発症してから少なくとも7日間が経過」を満たすべきだとしています。


また、CDCは検査基準を「新型コロナウイルスのPCR検査を最低24時間間隔で2回行い、どちらでも陰性と判定されること」と定義しています。「CDCの医学的基準と検査基準のどちらも満たした患者だけが『COVID-19から回復した』と正式に宣言できます」とダシンスキー氏は述べています。

ただし、検査基準に必要なPCR検査は、医療現場の人員や検査キットの数が不足していることもあり、COVID-19感染と重症化が疑われる人に対して優先的に行われています。そのため、記事作成時点では回復した可能性のある人がPCR検査を行える機会はなかなか得られません。しかし、こうした状況を鑑みて多くの医療企業や研究組織が新しい検査を開発しており、2020年3月にはたった10分で検査可能でコストはわずか1ドル(約110円)という新しい検査キットも開発されています。

わずか10分で新型コロナウイルス感染症の検査が可能な「100円の検査キット」が登場 - GIGAZINE


また、SARS-CoV-2に免疫システムがどれだけ反応するかはまだよくわかっていません。SARS-CoV-2は、2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)を世界的に流行させたSARSウイルスの亜種といわれており、SARSウイルスは免疫システムによって抗体が産生されることが確認されています。しかし、COVID-19から回復した人のうち3分の1はSARS-CoV-2の抗体レベルが低いという研究もあり、完治しても再感染してしまう可能性もあります。

新型コロナウイルス感染症から回復した人のうち3分の1で抗体レベルが低いという報告 - GIGAZINE


それでも、今後の研究によって人間の免疫システムがSARS-CoV-2にも十分対応可能であることが示されれば、回復した人が感染者のサポートに回ることで、医療体制をサポートすることができる、とダシンスキー氏は主張しています。

ダシンスキー氏は、社会全体の感染リスクが下がるまでに数カ月はかかるとしながらも、「コミュニティが流行のピークを過ぎると、新規感染者の数は減少し、回復した人の数は増加するでしょう。このような傾向が続くと、感染のリスクは低下していきます。感染リスクが十分に低下すると、コミュニティレベルでの隔離と社会的距離感が緩和され、経済が再び回るようになるでしょう」と述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
新型コロナウイルスの流行に乗じて「パンデミックを生き抜くための電子書籍」を売りつけるスパムメールが登場 - GIGAZINE

新型コロナウイルスは働き方や学び方を永久に変えてしまったというMicrosoftの見解、「もう元には戻れない」 - GIGAZINE

新型コロナウイルス感染症のワクチン開発はどれだけ進んでいるのか? - GIGAZINE

なぜ中国の市場から世界中に脅威を及ぼすウイルスが広まってしまうのか? - GIGAZINE

パンデミックの中心地イタリアの医療現場と市民の生活に迫ったムービー「Into the Red Zone」が公開中、「これは音のない戦争」 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1i_yk

You can read the machine translated English article here.