パンデミックの中心地イタリアの医療現場と市民の生活に迫ったムービー「Into the Red Zone」が公開中、「これは音のない戦争」
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、イタリアでは13万人以上が感染し、死者は1万7000人以上の上っています。火葬が追いつかずに葬儀場が閉鎖するほどの状態にあるイタリアの実情に、イギリスのメディア「Sky News」が迫っています。「爆弾もないし、路上に血は流れていないが、これは『音のない戦争』だ」と語られる、衝撃の映像が公開中です。
ムービーは以下のページから見ることができます。
Special report: Into the Red Zone | World News | Sky News
ムービーに映し出されるのは人気のないローマの町。COVID-19が猛威を奮うイタリアに、かつてのような日常はもはやありません。
取材班が向かったのは、最前線でCOVID-19と戦うローマの病院。病院の敷地内に入ろうとすると、マスクをつけた警備員たちが入館を厳重に管理していました。
次々に救急車がやってきます。
救急救命室に人があふれてしまわないように、やってくる救急車も管理されています。
病院の外に設置されているのはトリアージ用のテント。
中はこんな感じ。
まだこの病院は「管理可能な状態」だそうですが、それでも1日に何人もの病人が運ばれてきます。救急車を運転する救命士は防護服をまといます。
特に症状が深刻な患者やプラスチック製のシールドで覆われて運ばれてきます。
イタリアは2020年4月の時点で国内全てがロックダウンの状態にありますが、特に事態が深刻だと考えられているのは北部。取材班は、イタリア北部にある首都ミラノにも向かいました。
ローマからミラノへ向かう道路には車が走っていますが、メインはトラック。
美しいミラノの町も、人の気配が感じられません。ミラノは遺体が急増して火葬が追いつかず、火葬場を閉鎖する事態にまで発展しています。
市民にCOVID-19について警告する車が常に走行しているとのこと。
町を遠くから撮影しても、まるで映画に出てくる終末後の世界のような静けさです。
取材班はミラノ近郊の町、ベルガモ知事のもとを訪れました。Giogio Gori知事はイギリスに留学している娘を呼び戻したいと語りました。「ここは疫病の中心地ですが、それでもイギリスよりは安全だと考えています。イギリスがなぜ市民を守るための決断を今すぐに行わないのか、私にはわかりません」とGori知事。なお、この取材が行われた時期は不明ですが、2020年3月23日に、イギリス全土の都市でロックダウンを行うことがが発表されました。
続いて、取材班が訪れたのは病院。ここでは無菌室に入るため、防護服をまといます。
マスクだけでなく、手袋や……
ゴーグルも装着。
そして中へ。
施術室は今や満杯のため、通路にも患者があふれています。
以下はより症状が深刻な患者の治療室。
患者はみんな呼吸器で顔を覆われています。
入院患者の中には、呼吸器をつけながらもスマートフォンを触る余裕がある人もいました。
医師は常に動き回り、患者の様態が悪化すると駆けつけています。
既に患者であふれる病院に、さらに患者が運ばれていきます。
SARS-CoV-2は当初インフルエンザのようなものだと考えられていましたが、「これはインフルエンザというよりも、肺炎に近い病気です。しかも非常に深刻な肺炎です。毎日50~60人の患者がここに運ばれてきますが、ほとんどが深刻な肺炎で、多くの酸素を必要とします」とRoberto Cosentini医師は語りました。
病院内には研究施設も存在し、ワクチン開発が行われています。ワクチン開発は進んでいるものの、まだ長い道のりが必要とのこと。
イタリアから世界へのメッセージは非常にシンプルで「備えよ」ということ。
取材を終え、施設から出る際には、何度もアルコール消毒を繰り返しながら防護服を脱いでいきます。
ゴーグルを外し……
消毒。
防護服を脱いで、また消毒。
そしてマスクを一気に体から離すようにして外します。
再び町へ。町がロックダウンされていても、人々が生活必需品を得るためには外出する必要があります。
スーパーでも人が建物の中に入りすぎないように、入口で管理が行われていました。
新聞には……
亡くなった人の情報が何ページにもわたって記されていました。多くは70~80代ですが、40代など若い人ものっています。
人の気配がない町で……
一人の女性に遭遇。友人や親戚たちがゆっくりと死んでいくのを目の当たりにしたという女性は、「さよならを言えなかったのがすごくつらいです。人々を救おうとする重要な仕事についている人たちを見ることや、彼らが命を救えなかった様子を見るのもつらいです」と目に涙を溜めながら語りました。
また、誰もいない広場では、高齢の夫婦が座っていました。
共に73歳だというこの夫婦は、今日1日で初めての太陽を浴びていたとのこと。
「私たちは、今この瞬間も感染者や死者が増加している場所にいます」「すごく怖いですが、パニックを起こさず、普段通りに生活しようと試みています」と夫婦は語りました。
しかし、混乱の中で、コミュニティでは助け合う姿も見られています。
外出ができない人や既に病気を患う高齢者のために食料や生活必需品を届けるボランティアたち。
教会では食料や物資を配っています。ロックダウンにより、ホームレスが受ける影響が問題視されているためです。
飲み物を受け取る人々。
本来であればCOVID-19によって入院しているはずなのにできない人々のために、神父はホステルを運営しているとのこと。
またValentino Tribbia氏は、病気で苦しむ人々の家を訪れ、薬を配っています。
「ありがとう」と扉の向こうからTribbia氏に声をかける女性。
伯父をCOVID-19で亡くしたばかりだというTribbia氏は、なぜボランティアをするのかという問いに対し、「なぜって……。多くの人が困っているという声があって……。家にいると気が狂いそうになるんです。何か少しでも助けになることがしたいんです」と途切れ途切れに語りました。
Gori知事もCOVID-19に対処するため、1日20時間働き、疲労しています。
Gori知事は「実際の致死率」を知ろうと奔走しています。2020年4月時点でデータに含まれるのは高熱・せきといった症状のある人だけが検査を受けて、新型コロナウイルスの診断を受けています。症状がなく、呼吸ができていれば、病院には行けず薬もなく自宅で過ごすことになります。その状況で死亡したとしてもCOVID-19患者としてはカウントされないという問題があり、Gori知事は「実際のCOVID-19による死者はもっと多いと考えています」と述べました。
より症状が深刻な人が入るICUの様子も映し出されました。医師や看護師が行える治療はもはやなく、ただただ命をつなごうとするのみだとのこと。
チューブでつながれた人も多いこの病院では、既に医療への圧迫が起こっているそうです。
しかし、医療従事者のおかげで、快方に向かう患者もいました。
集中治療医師のLeonor Tamayo氏は「家に帰れるのは2~3時間のみで、患者のためにすぐに病院に戻らなければなりません」と状況の過酷さを語りました。
またEmanuela Catenbassi医師はCOVID-19の過酷な点として、「誰にも会えないこと」を挙げています。「感情的にもすごく難しい状況です。ここで死ぬ人は誰にも会えず、たった一人で死んでいきます」とCatenbassi医師は語り、世界に向けて「ロックダウンすること」というメッセージを発しました。
Gori知事は「イタリアは元どおりに戻ると思いますか?」と尋ねられ、「いいえ」と回答。「我々の誰一人として、そうは考えていません。父や母は戦争について懸念していました。ここには爆弾もないし、路上に血が流れているわけでもありませんが、その影響は戦争と同じです。これは多くの死者を伴う『音のない戦争』なのです」とGori知事は語りました。
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