なぜ中国の市場から世界中に脅威を及ぼすウイルスが広まってしまうのか?
世界中に混乱と脅威をもたらしている新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、中国の湖北省武漢市内にある武漢華南海鮮卸売市場が発生源との見方が有力です。市場が発生源と見られるアウトブレイクは過去にも存在し、2003年に中国南部を中心にアウトブレイクを起こしたSARSコロナウイルスも、中国の動物市場で売られていた動物が感染源と見られています。「一体なぜ中国の市場から世界中に脅威を及ぼすウイルスが発生してしまうのか?」という疑問について解説するムービーが、アメリカに本拠を置くニュースサイト「Vox」の公式チャンネルで公開されています。
How wildlife trade is linked to coronavirus - YouTube
中国の保健当局が湖北省武漢市で検出された病因不明の肺炎について世界保健機関(WHO)に報告したのは、2019年12月31日のことでした。
新型コロナウイルス感染症と呼ばれるこの病気は世界中に広がり、記事作成時点では全世界の感染者数が150万人を突破。死者数も8万7000人を超える事態となっています。
患者たちは肺炎を起こす前に乾いたせきや発熱といった症状を見せており……
時には死に至ります。
新型コロナウイルスの発生源を探ったところ……
中国の湖北省武漢市内にある武漢華南海鮮卸売市場が有力な発生源として浮上しました。
最初に確認された41人の感染者のうち、実に27人が市場の関係者であることがわかっています。
市場が新型コロナウイルスの発生源であるという明確な証拠が発見されたわけではありませんが、中国当局は市場を閉鎖して立ち入りを禁じました。
同様の事態は2003年に中国広東省でSARSが流行した際にも発生。
SARSの発生源は「広州新源蛇鳥禽畜総合市場」であるといわれており、この際も中国当局は市場を閉鎖する措置を執りました。
SARSは全世界に拡大し、2003年7月までに37カ国で774人が死亡しました。
新型コロナウイルス感染症はSARSを超える勢いで感染が拡大しており、2020年3月3日までに71カ国で3127人が死亡し、4月11日時点での総死者数は10万人を超えています。
一体なぜ、中国の動物市場で新型感染症が発生してしまうのでしょうか。
人間の脅威となるウイルスの多くは元々動物が持っていたものであり、鳥インフルエンザや豚インフルエンザといった動物の名前が付いたものもあります。
また、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)はチンパンジーから、エボラウイルスはコウモリから人に感染したと考えられています。
新型コロナウイルスは元々、コウモリが持っていたウイルスと見られていますが……
それがセンザンコウに感染し、センザンコウから人に感染したとの見方が強まっているそうです。
これらの動物を結び付けた場所が、武漢の動物市場である可能性が高いとのこと。
中国の動物市場ではさまざまな動物がその場で殺されて消費者に販売されています。
中国における動物取引の専門家であるピーター・リー准教授は、武漢華南海鮮卸売市場のような市場で新型感染症が発生したことに驚きはないと述べています。
中国の動物市場では動物が入ったケージがいくつも積み重ねられているため……
下層のケージに入った動物は上層の動物が垂れ流す糞尿や血を浴びることになります。こうした状況下で、複数種の動物間でウイルスが容易に感染し、変異する可能性があるとのこと。
この動物が人間と接触したり、人間に食べられたりすると、ウイルスが人間の体内に取り込まれて感染するおそれがあります。
動物市場は世界中にありますが、中でも中国の市場は幅広い種類の動物を提供することで知られています。武漢の動物市場で売られていた動物のリストといわれる画像がこれ。ウシなどの比較的一般的な動物だけでなく、ラクダやダチョウ、ヘビ、サンショウウオなど、世界中から集められたさまざまな動物が取り引きされていた模様。
世界中で捕獲された動物が中国の市場に集まってくるのは、中国当局が築き上げたシステムが理由だとのこと。
中国では1960年前後に実施された大躍進政策により、3600万人を超える餓死者を出したといわれています。
政策の失敗を反省した中国当局は、1978年に人民公社を解体し、生産責任制の導入を始めました。これにより農家は一定量の農作物を除いた余剰農作物について、自由市場で販売することが許可されました。これにより、まずは巨大な企業が豚や鳥などの主要な動物の飼育を始め……
小規模な農家は野生動物の捕獲と飼育という道を選んだとのこと。
小さな農家が飼育するのはカメやヘビ、コウモリなどの動物であり……
農家は次第に豊かになっていきました。
農家たちが自らの力で貧困から抜け出していく方法として、中国当局は農家による野生動物の売買を認めたとリー氏は指摘。
1988年、中国は「野生動物保護法」を制定しましたが、この中では動物の売買に従事する農家が動物を「所有資源」として取り扱うことが認められました。
法律は野生動物を家畜化して繁殖することを奨励したため、中国の巨大な野生動物市場が産業として成長していくことになりました。
地元の小さな農家が巨大な野生動物飼育工場へと発展し、大量の動物が1カ所に集められて病気が広まりやすい状況が生み出されたとのこと。
飼育された多種多様な動物は市場に卸されるようになりましたが……
同時に密猟されたトラ、サイ、センザンコウといった希少な動物も、中国の市場へ密輸されるようになったそうです。
結果として多種多様な動物が集まる市場でSARSが発生し、中国当局は市場を閉鎖して野生動物の流通・販売を禁じる措置を執りました。
ところが、数カ月後に中国当局は再び野生動物の売買を許可したため、動物市場は復活を果たしたとのこと。
2004年までに野生動物産業は推定1000億元(約1兆5000億円)もの市場となっており、ロビー活動も活発に行われています。そのため、中国当局は長年にわたって野生動物産業を支援し、2018年には1480億元(約2兆3000億円)の市場規模に成長しました。
リー氏によると、中国で野生動物を食べる人々は実際のところ少数だそうですが、多くはお金持ちで権力がある人々だとのこと。そのため、ロビー活動を通じて中国当局に働きかける力も強い模様。
記事作成時点では、中国当局が野生動物の取引と消費を禁止しており、動物市場も閉鎖されています。
中国のソーシャルメディアでは、野生動物の取引禁止を恒久的なものにしてほしいとの声があふれており、国際社会からも野生動物の売買を禁じる圧力が強まっています。
野生動物の取引が再び解禁されてしまった場合、新型コロナウイルスのような新しいウイルスが世界中に広がる事態が発生する可能性も高まってしまうとのことです。
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