動画

専門家が「新型コロナウイルスから予想される感染症の未来」について語るムービー


国際保健の専門家であるアラナ・シェイク氏が、さまざまな分野の専門家たちがプレゼンテーションを行うTEDで、「新型コロナウイルスから予想される感染症の未来」について語っています。

Alanna Shaikh: コロナウイルスから予想される感染症の未来 | アラナ・シェイク | TEDxSMU | TED Talk
https://www.ted.com/talks/alanna_shaikh_coronavirus_is_our_future?language=ja

プレゼンテーションの様子は以下のムービーで視聴できます。日本語字幕も用意されているので、ムービープレイヤーの左下にある「字幕」をオンにして、「設定」→「字幕」→「日本語」を選択すればOKです。

Why COVID-19 is hitting us now -- and how to prepare for the next outbreak | Alanna Shaikh - YouTube


プレゼンターは国際保健の仕事を始めて20年のシェイク氏です。同氏が専門としているのは医学・医療制度分野で、パンデミックなどでこれらが深刻なダメージを受けた際に、どのような対処が可能かを専門にしているそうです。シェイク氏は国際保健の報道に従事したことや、国際保健と生物テロに関する安全措置についての記事をメディアに寄稿したこともあるとのこと。さらに、シェイク氏は自身がこれまでに支援・主導してきた疫学に関する取り組みとして、「エボラ出血熱治療センターの評価」「医療施設内における結核伝染の分析」「鳥インフルエンザ対策」などを挙げています。


国際保健の修士号を持っているというシェイク氏ですが、自身について「医者でも看護師でもありません。あくまで私の専門は患者や個人に対する個別のケアではなく、国民と医学・医療制度との関わりを調べ、大規模な疾病が発生するとどうなるかを調べることです」と話し、これから話すのはあくまでも「国際保健という分野目線での意見」であることを強調しています。また、医療情報を国際保健に関する専門性の観点から10段階で評価するなら、「無名の誰かのFacebook上での投稿が1」で「世界保健機関(WHO)からの情報が10」であり、シェイク氏のプレゼンテーションは「7か8程度と考えてください」とのこと。

まずは「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する質の低いメディア情報のせいで失われているように感じられる基本的な情報から」おさらい。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はあるウイルスの特定の亜種で、ウイルスの中でも変わった特徴を持っており、遺伝物質としてDNAではなくRNAを使います。SARS-CoV-2はウイルス表面がぐるっと突起で覆われており、人間の細胞に侵入する際にこの突起を利用します。この突起は王冠(corona)のような形状をしていることから、「コロナウイルス」と呼ばれているわけです。

また、SARS-CoV-2がなぜ「新型コロナウイルス」と呼ばれているのかについては、2019年12月まではコロナウイルスは6種類しか知られおらず、SARS-CoV-2が7種類目のコロナウイルスだからです。SARS-CoV-2は新しいゲノム構造を有しており、新しく名前がつけられたばかりだったため「新型」と呼ばれているわけです。COVID-19以外のコロナウイルスが原因となる感染症としては、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)が挙げられます。どちらも呼吸器症候群と呼ばれているように、コロナウイルスの特徴は「肺を攻撃する」という点にあります。おう吐や眼球からの出血、その他の形での出血は起こりません。代わりに肺が深刻な損傷を受けます。これはCOVID-19も同じで、幅広い呼吸器症状を引き起こし、痰(たん)のない乾性の咳や熱に始まり、致命的なウイルス性肺炎を引き起こすということで、症状の幅広さが対処の難しさにもつながっているとのことです。

世界中で多くの人がCOVID-19に感染していますが、症状が軽いため医療機関で受診することのない人も多くいます。特に子どもはCOVID-19の影響をほとんど受けません。しかし、コロナウイルスは動物由来感染症といって、動物から人へと伝染するウイルスです。また、COVID-19などの一部のコロナウイルスから発症する感染症は人から人へと伝染します。人から人へと伝染するウイルスは移動速度が速く、移動範囲も広大になります。

また、動物由来感染症の撲滅は非常に困難です。その理由は簡単で動物というウイルス源が存在するからです。例えば鳥インフルエンザは、七面鳥やカモなどの畜産されている鳥獣を殺処分とすることが拡散防止に有効ですが、それでも毎年流行するのは野生の鳥から感染するためです。一方で大々的に報じられないのは、人から人へと伝染しないためです。そのため、世間一般に広く知られていないだけで毎年世界の畜産業界では鳥インフルエンザのアウトブレイクが起こっているとのこと。COVID-19の場合、中国の武漢にある野生動物市場で「動物から人間へ伝染した」というのが発生経路と考えられています。ここまでがCOVID-19の基本情報とのこと。


地球上で発生する大規模なアウトブレイクはCOVID-19が最後というわけではありません。今後も繰り返し起こることは確実。シェイク氏は「『起こるかもしれない』ではなく『起こる』です」と、必ず今後もアウトブレイクが起こると強調しています。

必ずアウトブレイクが起こる理由として、シェイク氏は「我々人間の地球との関わり方がもたらした結果」と語っています。「人間が取る選択こそが、今後もアウトブレイクが繰り返される状況へと私たち人間を追い込んでいるのです。その一因が気候変動です。つまり 気候の温暖化は地球をウイルスや細菌が住みやすい環境に変えてしまいます」と語り、今後もアウトブレイクが起こる理由のひとつとして気候変動を挙げています。


さらに、シェイク氏は「アマゾンの熱帯雨林を焼き耕す時、あるいは農場を作るための土地を安価で手に入れようとする時、アフリカ最後のかん木地が農場へと転換される時、中国の野生動物が絶滅するまで狩猟される時、人類はこれまで接触したことがなかった野生動物の集団と接触することとなります。このような野生動物の集団は新種の疾病を持っているケースがあります。細菌やウイルスなどの、人類が対策を持たない何かを」と語り、人類による開発が進めば進むほど新しい細菌やウイルスにさらされることとなると指摘。その中でも特に危険な動物が「コウモリ」です。なぜなら、コウモリは人間に感染しうる病気を保有していることが多いためです。

加えて、検疫や渡航制限といった措置ではアウトブレイクを食い止めることはできないとシェイク氏は指摘しています。直感的に多くの人が「人が移動しなければアウトブレイクを防げるはず」と考えるかもしれませんが、現実では効果的な検疫の仕組みを整えるのは非常に困難で、渡航制限を設けることも非常に困難だとシェイク氏。公衆衛生の整備にしっかり注力してきた国であるアメリカや韓国でさえ、ウイルスの感染拡大に伴う渡航制限を設けてもアウトブレイクを直ちに食い止められるほど迅速に行動を起こすことはできませんでした。


また、COVID-19でいえば、感染してから全く症状のない期間が最長で24日もあることがわかっています。そのため、多くの人々がウイルスに感染したものの、症状がないので自身が感染しているとは知らずに外を歩き回るというケースが多くあるわけです。また、検疫や渡航制限は経済的な損失を生み出すという問題もあります。加えて、人間は社会的な動物なので、そもそも拘束したり隔離しようとすることに抵抗するという特性もあります。

エボラ出血熱が大流行した時、検疫の方針が決定されるや否や、多くの人々が検疫を逃れようとし始めました。厳しい検疫手順が設けられていることを知っている患者は、医療機関を避けるかもしれません。医療制度に抵抗がある人や治療を受けるお金がない人、家族や友人から隔離されたくない人など、検疫を逃れようとする理由はさまざまです。

さらに、政治家や政府関係者はアウトブレイクや事例を公表したりすれば検疫が起こるとわかっているため、検疫措置が発動されるのを恐れて実態に関する情報を隠蔽しようとするかもしれません。もちろんのことながら、この種の回避行為や不正こそが、アウトブレイクの追跡を困難にする一因です。ただし、「検疫や渡航制限を改善することは可能であり、すべきことです。しかし、それが唯一の対策ではないし、このような状況に対処する最善の方法でもありません」とシェイク氏は語っています。


アウトブレイクの深刻化を防ぐための長期的な対策としてシェイク氏が挙げているのは、「国際的な医学・医療制度を築き、世界中すべての国における基本的な医療の仕組みを整える支援を行い、貧しい国であっても世界各国で新たな感染症が現れ次第、迅速に特定・処置できるようにすること」です。

「中国はCOVID-19への対処法について多くの批判を受けました。しかし、もしもCOVID-19がチャドで発生していたらどうなっていたでしょうか?チャドは10万人あたりの医師数が 3.5人という国です。あるいはコンゴ共和国で起こっていたらどうでしょう?コンゴは最後のエボラ出血熱患者の治療が最近やっと終わったという国です。現実は、このような国々には感染症に対処するリソースがなく、患者を治療できず、世界に役に立てるための報告を素早く行えないというものです。私はシエラレオネにあるエボラ出血熱治療センターの評価を行いましたが、事実を言うと、現地の医師たちはエボラ出血熱による危機をいち早く認識していました。まず、危険な伝染性の出血性ウイルスであること、続いてそれがエボラウイルスであることを現場の医師たちは特定していました。しかし、それに対処するリソースがなかったのです。医師の数も病床数も不足しており、治療法についての情報も、感染防止対策の実施法についての情報も、何もかもが不足していました。エボラ出血熱の流行でシエラレオネでは11人の医師が亡くなりました。エボラ出血熱の危機が始まった当初、シエラレオネには120人しか医師がいませんでした。比較のために言うと、アメリカのダラスにあるベイラー医療センターでは1000人以上のスタッフ・医師が働いています。このような不平等が死者を出しているのです。まず、アウトブレイク初期に貧しい人々が死亡します。そして アウトブレイクが広がると、世界中で死亡者が出ます。我々が本当にアウトブレイクを緩和し、被害を最小に留めたいと考えるなら、世界中すべての国が新たな疾病を特定・治療し、情報共有のための報告能力を備えるように手を尽くす必要があります」とシェイク氏は語り、今後起こるアウトブレイクに備えるためには貧しい国の医療を見直すことが重要であると主張しています。

COVID-19は医療・医学研究機関に甚大な負荷をかけています。また、COVID-19のおかげで国際医療のサプライチェーンにおける深刻な弱点があらわになりました。既存の「在庫を最小にするための発注システム」は、世の中が平穏無事な間は素晴らしいものの、危機的な状況では蓄えがないということを意味します。ある病院、もしくは国でマスクや個人用保護具の在庫が無くなった場合、在庫が多数ある巨大な倉庫から補充するということは不可能です。納入業者に補充の注文をし、生産・発送されるまで待たなければなりません。このようなタイムラグは、素早い対応が重視される時期に起こります。

シェイク氏は「もしもCOVID-19を迎え撃つ準備が万端だったなら、中国はアウトブレイクをもっと早期に認識していたでしょうし、病院を新設せずとも感染者に対応するための準備ができていたでしょう。正しい情報を隠さず国民に開示していたでしょうし、中国のSNS上でとんでもない噂が広がることもなかったでしょう。国際保健当局とも情報を共有することが可能で、中国国内の医療情報システムへの記録やウイルス流行への準備を開始できていたでしょう。それに応じて国営医療機関は必要な分だけ保護具を大量備蓄し、医療従事者向けに処置と感染予防の訓練を実施できていたでしょうし、様々な状況の対応手順も科学に基づいて整えられたはずです。例えばクルーズ船で感染者が出た場合などにも対応できたはずです。そして、正しい情報を世界中のすみずみまで届けることができ、外国人に対する嫌悪が事件となるという恥ずべき事態も起きなかったはずです。例えば、フィラデルフィアでアジア系の人々が暴力を受けるなどの」と語っています。


しかし こういった準備が万全だったとしても、アウトブレイクは起こります。地球にどのように住むかという我々の日々の選択の結果として「アウトブレイクは避けられないことなのです」とシェイク氏。COVID-19について、専門家の見解が一致していることは「アメリカでも全世界でも、状況が改善する前に、今よりも悪化するだろうということ」です。渡航歴のない人から感染が広がる事例が地域社会で起きており、他にもCOVID-19の感染者の感染経路がわからないケースもあります。

これはアウトブレイクが深刻化している兆候で、抑え込めているとは言えない状況です。これについてシェイク氏は「気が滅入る状況ですが驚くようなことでもありません。国際保健の専門家が新型ウイルス発生シナリオの話をする時、このようなシナリオは出てきます。誰もが簡単な解決を願いますが、専門家がウイルス対策計画をする場合、現在のような状況、SARS-CoV-2のようなウイルスの動き方は想定内」だそうです。

最後にシェイク氏はとにかく手を洗うことを推奨しており、手を洗う頻度を増やし、手洗い習慣を生活の中に加えていくことを勧めています。「建物に入る時、出る時、毎回手を洗いましょう。会議室に入る前も出た後も手を洗いましょう。携帯電話を消毒しましょう。皆さん洗っていない汚い手でしょっちゅう携帯電話を触りますよね。トイレに持って行っていることもお見通しです。なので、携帯電話を消毒し、公衆の場での使用を控えましょう。TikTokやInstagramは自宅に限定するなどでしょうか」とシェイク氏は語りました。また、顔を触らない、目をこすらない、爪を噛まない、手の甲で鼻をこすらないなども挙げられています。

加えて、COVID-19の症状が疑われる時は、家を出ずにかかりつけの医者に電話で相談し、COVID-19陽性と診断された場合は、通常はとても軽症であるということを思いだすことが重要です。また、喫煙者に対しては「今こそタバコをやめる絶好の機会です」と語り、COVID-19が心配ならばタバコをやめることはCOVID-19から被る可能性のある「最悪の影響から身を守る最善の方法となる」とシェイク氏。

さらに、「地味だけど有効な選択肢」として、医療の改善に地元のあらゆる場所で取り組むこと、医療の基盤整備に力を入れて新しい疾病が発生したらすぐにわかるように、疾病の実態調査に力を入れること、全世界で医学・医療制度を整えること、サプライチェーンの強化を検討して緊急事態の需要に備えること、そしてわけもわからずパニック状態に陥らないように疾病のリスクについて数字で話ができるように教育の質を上げることなどを挙げています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
ローマ教皇がTEDに登場し「科学技術によってもたらされる社会」などについて語る - GIGAZINE

TED代表のクリス・アンダーソンが「TEDはなぜ偉大なスピーチを生み出すのか」という秘密を明かす - GIGAZINE

TEDのトークの元ネタとなった論文を探してくれる「Iris AI」 - GIGAZINE

TEDの高画質ムービーと字幕を無料でダウンロードしてオフラインで再生する方法まとめ - GIGAZINE

TEDのプレゼンは素晴らしい説得力だが本当に理解されているのか? - GIGAZINE

すごい講演で有名な「TED」から学ぶ統計的に最高&最低プレゼンの条件 - GIGAZINE

in 動画, Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article here.