新型コロナ感染症の後遺症が長期化するのはヘルペスウイルスと関連している可能性があるという研究結果

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は感染しても無症状で済む人もいれば、長期的な後遺症に悩まされている患者も多くいることも明らかになっています。このCOVID-19の後遺症が長期にわたるケースを分析した結果、ヘルペスウイルスやホルモンレベルの低下が関連している可能性が明らかになりました。

Could long COVID be linked to herpes viruses? Early data offer a hint
https://www.nature.com/articles/d41586-022-02296-5

COVID-19の長期にわたる後遺症は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したのち、数カ月から数年にわたり続くといわれており、時には患者を衰弱させるほど影響を与えます。COVID-19の長期的な後遺症は、COVID-19患者の5～50％に影響を与えるという研究結果もありますが、どのような人が長期的な後遺症に苦しめられることになるのかについては、これまでほとんど手がかりがありませんでした。

そこで、コネチカット州ニューヘブンにあるイェール大学の医学部に在籍する免疫生物学者の岩崎明子氏が率いる研究チームは、215人の被験者からそれぞれ数千ものデータポイントを収集し、COVID-19の長期的な後遺症に悩まされる患者とそうでない健康な人の免疫学的特徴の違いを分析しています。

研究では被験者を「COVID-19に感染したことがない、あるいは感染後にすぐに回復した人」を「健康な被験者」(116人)、「COVID-19の長期的な後遺症に悩まされた人」を「後遺症に悩まされる被験者」(99人)に分類。分析の結果、「後遺症に悩まされる被験者」は炎症・血糖値・睡眠サイクルの調整に役立つストレスホルモンの一種であるコルチゾールのレベルが、「健康な被験者」よりも約50％も低いことが明らかになっています。

また、「後遺症に悩まされる被験者」は単核球症を引き起こす可能性のあるEBウイルスや、水痘や帯状疱疹を引き起こす水痘・帯状疱疹ウイルスが、最近になって「再活性化」した可能性があることも明らかになりました。これらのウイルスはどちらもヘルペス科に属しており、感染後も体内に無期限に存在し、一定期間休止したのち再び増殖を始める可能性があります。

これに加えて、「後遺症に悩まされる被験者」は特定の種類の血液と免疫細胞、機能不全の免疫細胞で異常があることが明らかになっており、これは免疫システムが長時間働いていることを示唆しています。

この分析結果について、岩崎氏は「コルチゾール値の低下やヘルペスウイルスの活性化がCOVID-19の長期化を引き起こすことを示唆するというものではなく、症候群との関連性をさらに研究する必要があることを警告している」と述べました。なお、過去の研究でもコルチゾール値の低さやEBウイルスがCOVID-19の後遺症の長期化と関連していることが示唆されています。

ただし、岩崎氏が主導した今回の研究は比較的小規模なものである点が指摘されています。例えば、コルチゾールレベルに関する分析では「後遺症に悩まされる被験者」は99人でしたが、「健康な被験者」はわずか40人しか対象となっていません。COVID-19の長期的な後遺症について研究するメリーランド州べセスダにあるアメリカ国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の専門家であるミカエル・スネラー氏は、「COVID-19の長期的な後遺症に苦しむ被験者と比較して、対照群の数が少ないことは問題です」と指摘しています。

もうひとつの問題は、今回の研究が被験者のEBウイルスと水痘・帯状疱疹ウイルスの存在をそのまま分析せず、代わりにウイルスに対する抗体レベルを測定している点です。ただし、研究では「COVID-19の長期的な後遺症を患う被験者は、健康な人よりもEBウイルスと水痘・帯状疱疹ウイルスの抗体レベルが高い」と言及されています。

スネラー氏は、「この論文の主な弱点はサンプルサイズが非常に少ない点です」と注意喚起しました。しかし、本研究には関与していないインペリアル・カレッジ・ロンドンの免疫学者であるダニー・アルトマン氏は、COVID-19の長期にわたる後遺症に関する研究は、コミュニティがまさに必要としていたものであると主張。新型コロナウイルスのパンデミックが長期化する中で、「どの薬をテストすればよいのか、現場では本当に必死に取り組んでいます。この種の研究が増えるほど、適切な無作為対称試験を計画することがより可能になっていきます」と語っています。

なお、本研究はmedRxivで公開された査読なしの研究です。