腸内細菌に影響を与える「プレバイオティクス」を含む食品を食べると睡眠の質が向上する可能性がある
近年では腸内細菌が人々の健康や気分を左右することが知られるようになり、人体によい影響を与える微生物を含むプロバイオティクス食品にも注目が集まっています。コロラド大学ボルダー校の研究チームが行った実験では、それ自体は微生物ではないものの腸内細菌に影響を与える成分「プレバイオティクス」を含んだ食事を摂ることで、「睡眠の質」が向上する可能性があると示されました。
Dietary prebiotics alter novel microbial dependent fecal metabolites that improve sleep | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-020-60679-y
Better sleep? Prebiotics could help | CU Boulder Today | University of Colorado Boulder
https://www.colorado.edu/today/2020/03/03/better-sleep-prebiotics-could-help
プレバイオティクスは一般的に、動物の消化管を消化されることなく通過して大腸まで到達し、腸内細菌を活性化してよい影響を与える食物繊維とされています。必ずしも全ての食物繊維がプレバイオティクスというわけではなく、アーティチョークやタマネギ、リーキ(セイヨウネギ)、一部の全粒穀物などにプレバイオティクスが豊富に含まれているそうです。
消費者の多くは微生物そのものを含むプロバイオティクス食品に注目しがちですが、コロラド大学の生理学研究者であるロバート・トンプソン氏をはじめとする研究者は、腸内細菌の栄養源として役立つプレバイオティクスに注目しているとのこと。「重要な点は、プレバイオティクスは単に消化器系を通過し、便のかさを増すだけではないということです」と、トンプソン氏は指摘しています。
トンプソン氏らの研究チームはプレバイオティクスが動物の体に与える影響を調べるため、オスのラットを2グループに分けて、一方には標準的なエサを、もう一方にはプレバイオティクスを含んだエサを与え続けました。研究チームはラットの生理学的なデータを測定しながら、一定期間が経過したところでラットにストレスを与え、さらにデータを測定したとのこと。
以前の研究からわかっていた通り、プレバイオティクスを含んだエサを食べたラットは、睡眠時におけるノンレム睡眠の割合が増加しました。そして、ストレスが与えられると、今度はストレスの回復に必要とされているレム睡眠に費やす時間が増加したとのこと。
一方で、通常のエサを与えられたラットでは、ストレスを与えられると1日における体温の変化が健康な時よりも乏しくなり、腸内細菌叢の多様性が低下しました。ところが、プレバイオティクスを含んだエサを食べたラットでは、こうしたストレスによる影響が緩和されたそうです。
研究チームは、プレバイオティクスを含んだエサがストレスを受けたラットに影響を及ぼす仕組みを調べるため、ラットの便に含まれる化学物質を分析しました。便の中にはラットの腸内細菌が生成する代謝物などが含まれているため、エサの違いが腸内細菌が生成する代謝物をどのように変化させたのかを知ることができます。
ラットの代謝物を分析した結果、研究チームは通常のエサを食べたラットとプレバイオティクスを含んだエサを食べたラットの間で、代謝物の構成が異なっていることを発見しました。腸管神経系を通じて動物の行動に変化を及ぼす脂肪酸、糖、ステロイドといった代謝物の量が、通常のエサを食べたラットよりプレバイオティクスを含んだエサを食べたラットの方が多かったとのこと。
また、代謝物の構成はストレスを受ける前と後でも違いがみられました。たとえば、通常のエサを食べたラットでは、ストレスを受けた後でアロプレグナノロン前駆体やケトンステロイドといった睡眠を阻害する代謝物が劇的に増加していました。しかし、プレバイオティクスを含んだエサを食べたラットでは、これらの物質の急激な増加がみられなかったそうです。
研究チームのモニカ・フレッシャー准教授は、「私たちの研究結果は、ストレスからの回復と睡眠の調整に関わる可能性がある、腸内細菌からの新たなシグナルを明らかにしています」とコメント。トンプソン氏は「プレバイオティクスは、私たちの腸内に住んで脳と行動に影響を与える細菌を養い、共生関係を築いています」と述べています。
プレバイオティクスを含んだサプリメントは既に自然食品店などの棚に並んでいるとのことですが、プレバイオティクスが健康に与える影響は腸内細菌の構成に応じて変化する可能性があります。そのため、全ての人にとってプレバイオティクスが安全で効果的かどうかは、現時点ではわからないとのこと。フレッシャー氏は、「プレバイオティクスは重大な神経活性効果を持つ強力な分子であり、人々は注意を払う必要があります」と指摘しています。
研究チームは、プレバイオティクスが人間に及ぼす影響についても、実験を進めているとのこと。フレッシャー氏は最終的に、プレバイオティクスを利用して「睡眠薬を使わずに不眠症の人々を眠らせる方法」の開発につながる可能性もあると考えています。「プレバイオティクスの研究で得られた情報を活用して、ストレスを和らげる分子をブーストし、睡眠を妨害する分子を抑制できる治療薬を開発できるかもしれません」と、フレッシャー氏は述べました。
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