脳には「死」を「人ごと」として処理する防衛機構が備わっている

by John Hain

テレビやインターネット上では災害や事故で死者が出たというニュースが引きも切らずに流れてきますが、そういった「死」はどこか遠く離れた場所の不幸な出来事なように思えるもので、「自分も同じように死ぬかも」と考えながら生きている人は少ないはず。この理由として、脳には「死は人ごと」だと考えて自分を守る防衛機構があることが、最新の研究により突き止められました。

Prediction-based neural mechanisms for shielding the self from existential threat - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1053811919306688

Your Brain 'Shields' Itself from the Existential Threat of Death | Live Science
https://www.livescience.com/brain-shields-idea-death.html

Doubting death: how our brains shield us from mortal truth | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2019/oct/19/doubting-death-how-our-brains-shield-us-from-mortal-truth

自分の死を考えないようにする脳の機能を発見したのは、イスラエルのバル・イラン大学ゴンダ脳総合研究センターで脳について研究しているヤイル・ドル＝ザイダーマン氏らの研究グループです。「脳には生物を生存させるための予測機能がある」と考えているドル＝ザイダーマン氏は、脳の予測メカニズムが自分の死をどう処理するかを研究するため、24人のボランティアを集めて脳波を測定する実験を行いました。

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この実験は、被験者に対して被験者自身の顔写真や赤の他人の顔写真を、「墓」「埋葬」「葬式」といった死と関連した単語と共に見せるというもの。研究者は、モニターを使って被験者に写真や単語を見せながら被験者の脳波を測定し、脳がどのような反応を示すかを調べました。

最初の実験では、いくつかの「顔」と「死を連想させる単語」を被験者に見せて両者の関係性を学習させた後に、別の人物の顔を示しました。すると、研究者の予想通り、予想外の顔を見せられた被験者の脳からは「驚き」を示す脳波が示されました。これは、被験者が「死を連想させる言葉」と「特定の他人」との間の関係性を学習し、新しい顔が出た時に驚いたことを意味します。

次の実験でも被験者はまず「自分自身の顔」と「死を連想する言葉」を見せられ、両者の関係を学習しました。1つ目の実験と同じであれば、次に「新しい顔」と「死を連想する言葉」の組み合わせを見せられた時に脳波は驚きを示すはずですが、被験者の脳は驚きを示さなかったとのこと。これは、「自分自身」と「死を連想する言葉」に関しては、脳が持つ予測のメカニズムが機能していないことを意味する、と研究者は考えています。

by Prostock-studio

論文の共著者であるアヴィ・ゴールドスタイン氏は実験結果について、「自分の死を連想させる情報に直面すると、脳は予測メカニズムをシャットダウンさせ、他人のことだと分類していると考えられます」と述べて、脳の反応停止は防衛機構が働いた結果だと指摘しました。

また、ドル＝ザイダーマン氏は、「死が病院の中に隔離されている現代とは異なり、自然の中に生きていた人類の身の回りには死があふれていました。しかし、死の瀬戸際に直面したときに、死の恐怖にあらがって最善を尽くさなければ、生存競争を勝ち残ることはできなかったことでしょう」と話し、こうした防衛機構が人類が生き延びるのに役立ったとの見方を示しました。