サイエンス

人間の脳は心臓が止まった後も数分はまだ「生きている」ことが確認される


一般的に、人は心臓または脳の活動が停止した時に「死を迎えた」と認識されます。しかし最新の研究では、心臓が止まって脳への血流が止まってからも3分間から5分間は脳の細胞がまだ活動を続けており、実際に「脳の活動が停止した」と言うべき瞬間があることが明らかになってきました。

Terminal spreading depolarization and electrical silence in death of human cerebral cortex - Dreier - 2018 - Annals of Neurology - Wiley Online Library
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ana.25147/abstract

Does a Dying Brain Mean Death? Some Cellular Changes May Be Reversible, New Evidence Shows
http://www.newsweek.com/does-dying-brain-mean-death-some-cellular-changes-may-be-reversible-new-820355

Human brain still active minutes after heart stops beating, new research finds | The Independent
http://www.independent.co.uk/life-style/human-brain-conscious-heart-stops-beating-death-neurology-research-a8232921.html

この研究を行ったのは、ドイツのベルリンにあるシャリテー大学病院の脳科学者らによる研究チームです。この研究チームでは、生前に延命処置を希望しないというリビング・ウィルを示していた人物で、脳に大きな損傷を受けた9人の被験者の協力のもとで人が死に至るまでの段階で脳にどのような変化が起こるのかを詳細に調査しました。

研究チームでは、被験者の頭に電極を取り付け、脳の活動の変化をモニタリングしました。一般的に、心臓が停止して血流が止まると、血液に乗って脳に運ばれる酸素の供給がストップします。脳は多くのエネルギーを消費するために、酸素が欠乏するとすぐに大きな損傷を受けることになるのですが、心停止から数分の間は血中や脳に蓄えられている酸素が残っているため、しばらくの間はまだ脳の活動が継続するとのこと。


論文の第一著者である、ベルリン心臓発作センターのJens Dreier医師はNewsweekの取材に対し、「(心停止から)3分以内に、脳に蓄えられているエネルギー源は枯渇します」と語ります。そしてその状態になると、脳の細胞の中では活動を機能させるために必要な電位差を生み出すイオンの働きが弱まり、次第に電気的活動の鎮静化「拡延性抑圧」が起こります。この段階こそが、脳が真に機能を停止した段階であると捉えることができるそうです。Dreier氏によると、このイオンによる電位勾配の崩壊は、大きな電気化学的エネルギーの波が「熱」の形で、大脳新皮質やその他の脳の部位を伝わるとのことです。

しかし、この電気化学的エネルギーが喪失された状態は、一定のレベルで「巻き戻す」ことも可能であるとのこと。研究チームの一員で、シンシナティ大学医学部の脳神経学者であるJed Hartings氏は、少なくとも短い時間の間は、充電がなくなってしまったバッテリーと同じようにもとのような電気化学的エネルギーを持つ状態に戻すことが可能であると述べています。

しかし、その状態に置かれた脳に果たしてどれだけの時間が残されているのか、どの程度の時間であれば脳は生き永らえることができるのか、についてはまだまだ解明しなければならない点が残されているとのこと。Hartings氏は「死を引き起こす化学変化は、電位差の喪失と共に始まります」と語っており、電位差が失われた後は文字どおり最終段階へのカウントダウンが着実に進むことになるとのこと。


興味深いのは、この変化は「脳波」と一致するものではないという点にあります。脳の活動が停止すると脳波の波が消え、脳死を迎えたとされるのですが、この研究ではそれを覆す内容が示されているとのこと。Hartings氏は「ここに根本的な洞察があります」と語ります。心停止を受けて脳でどのような変化が起こるのかを知ることで、臓器提供を行う際の手続き手順をより良いものにすることにもつながります。

実際に「脳がいつ死んだのか」を確認することは必ずしも容易ではありません。Hartings氏は「これまで、脳の死を診断する手段はありませんでした。そして、脳を覚醒させる能力が失われたことが確実に把握できる方法も存在しません」と語ります。


臓器移植の手続き手順の多くは、提供者の心臓が停止し、血圧が失われてから5分が経過した段階で初めて臓器の摘出が認められるように定められています。これは、死後5分が経過すると脳機能が完全に失われる、という理解に基づくものです。しかしDreier氏は、過去の動物実験のデータをもとに「5分が経過しても神経細胞はまだ死んでいません」と述べ、この「5分間」という区切りは必ずしも確実ではないと指摘します。

過去の動物実験のデータをもとにDreier氏は、心停止から5分後に血液の循環が再開された場合にでもその人物が蘇生する可能性は「非常に高い」と述べています。ただし、心停止以前の脳の状態に完全に戻ることができるかについては、まだまだ不明の点が多いとしています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by darkhorse_log

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