サイエンス

死にゆく人間の脳では脳波が急増しているという研究結果、「臨死体験」の正体か?


終末期医療における生命維持装置を外すことを選択した患者を対象とした研究において、一部の患者の脳で、機能停止直前に脳波が急増することがミシガン大学の研究チームによって確認されました。この発見は、心停止から回復した多くの患者が報告する「臨死体験」を示した可能性があると推測されています。

Surge of neurophysiological coupling and connectivity of gamma oscillations in the dying human brain | PNAS
https://doi.org/10.1073/pnas.2216268120


Surges of activity in the dying human brain could hint at fleeting conscious experiences | Live Science
https://www.livescience.com/health/neuroscience/surges-of-activity-in-the-dying-human-brain-could-hint-at-fleeting-conscious-experiences

Mysterious Surge of Activity Detected in The Brains of Dying People : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/mysterious-surge-of-activity-detected-in-the-brains-of-dying-people

ミシガン大学の神経科学者であるジモ・ボルジギン氏をはじめとする研究チームは、2014年以降に回復の見込みが見えずに人工呼吸器を取り外すことになった4人の患者を対象として脳活動の計測を行いました。


人工呼吸器を患者から取り外してから30秒から2分後、4人の患者のうち2人の脳で「ガンマ波」と呼ばれる特定の脳波の急増が計測されました。その後これらの患者は心停止または脳出血に伴って死亡したことが報告されました。

2人の患者から検出されたガンマ波は、通常の健康な人の脳で観測されるレベルよりも高いレベルで検出され、これまでの患者の最大300倍にも達したことが報告されています。

検出された脳活動を示した図が以下。脳活動が黄色やオレンジ、赤色で示されており、黄色から赤色に近づくにつれて、脳活動が活発になっていることが視覚的に確認することができます。今回の研究での調査結果ではS2からS11の期間にかけて、特にS7の区間で脳活動が活発であることを示す赤色の領域が広がっていることが確認できます。


ガンマ波が最も検出されたのは、「側頭頭頂接合部」と呼ばれる脳の部位です。ボルジギン氏は「側頭頭頂接合部は、人々が体外離脱体験や夢を見た時に活性化することが知られています」と述べています。

この測定結果を受けてボルジギン氏は「死に近づく患者の脳内では、生命の危機に際して、現代の科学技術で検出できない意識的な体験が繰り広げられている可能性があります」と推測しています。また、ボルジギン氏はこの反応について「睡眠時無呼吸症候群の患者が回復するために無意識に行う、意識を目覚めさせる認知的な活動の急増と同様の反応である可能性があります」と述べています。


さらにボルジギン氏は「脳には、体内の酸素レベルを感知する非常に敏感なメカニズムがあります。そのため心停止に伴って血液の循環が止まった時、脳活動が活発になると推測されます」と述べています。

ボルジギン氏らの研究チームによる発見は、死の瀬戸際で説明のつかないことを見たり聞いたりすると報告される「臨死体験」につながる発見であることが指摘されています。

しかし、ガンマ波の急増が観測された患者は全員死亡していることから、死の瀬戸際で見たことや感じたこと、経験したことを知る余地はありません。そのため、ボルジギン氏らの研究では実際に「臨死体験」が存在していることを証明することは困難です。


ボルジギン氏は「死の瀬戸際の脳の活性化は、これらの患者の意識処理の上昇を示唆していますが、臨死体験を実証するものではありません」と述べています。また「ガンマ波の急増は、死にゆく段階で特有の病理学的プロセスの兆候であり、意識的な処理とは無関係である可能性があります」と報告しています。

一方でボルジギン氏は「この研究は、心停止中の脳活動や意識のさらなる調査の基礎を築き、人間の意識のメカニズムを探求するためのモデルシステムとして役立つ可能性があります」と述べています。

脳神経科学者のラウル・ビセンテ氏は「今回は2人という小規模なデータでしたが、十分なデータを収集すれば、いつかさまざまな条件で昏睡(こんすい)状態にある人々が何を考えているかを解読できるようになる可能性が開かれます」と推測しています。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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