看護師の減少は患者とスタッフの現実のやりとりにどう影響するのか？

by Ani Kolleshi

高齢者が増加しているにもかかわらず看護師が減少すると、一人あたりの看護師の仕事が増加してケアの質が落ちてしまうことは想像に難くありませんが、一方で「技術の発達や効率化によって看護師数の減少を補える」という声も。看護師数の減少は現実にはどのような影響があるのか？ということを調査すべく、イギリスの病棟で患者とスタッフのやりとりを実際に観察した調査結果が報告されています。

Hospital nurse staffing and staff–patient interactions: an observational study
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The Human Impact Of Having Too Few Nurses – Research Digest
https://digest.bps.org.uk/2019/07/03/the-price-of-austerity-new-observational-research-suggests-lower-nurse-patient-ratios-really-do-result-in-poorer-health-care-interactions/

イギリスのサウサンプトン大学に勤める研究者・Jackie Bridges氏らのチームは、イギリスのNHSによって運営される6つのヘルスケア病棟において、スタッフと患者のやりとりを実際に観察するという方法で調査を行いました。この調査での観察期間は238時間におよび、270名の患者とスタッフの間で行われた3000ものやり取りが対象となったとのこと。

この結果、全体としてやりとりの10％に対して「呼びかけなしで患者が動かされる・患者が叱りつけられる」あるいは「患者の待ち時間が長すぎる」といったネガティブな評価が下されました。研究者が注目したのは、このような「ネガティブなやりとり」が「看護師1人あたりが抱える患者数」が増加するにつれて増すということ。

この時の「看護師」とは有資格の公認看護師のことであり、資格を持たないサポートスタッフの数に関わらず、「看護師の数が少なくなるほどネガティブなやりとりが増える」という傾向がみられたそうです。サポートスタッフの増員が役立つのは、サポートスタッフを監督する看護師が十分にいる場合のみだということも示されています。

この研究は実験を用いるものではなく、純粋な観測によるものであり、「直接因果関係を導けるものではない」と研究者は述べています。一方で、看護師は長年「十分なケアを行うには十分な数の看護師でシフトを組むこと」を主張しており、今回の研究結果はこの主張と一致するものとなっています。

by travisdmchenry

この研究結果は、サポートスタッフを過小評価するためのものではありません。また、看護師がサポートスタッフを見張っているべきだと示唆するものでもありません。重要なのは、熟練の看護師がサポートスタッフから求められる問いかけに答え、何をすべきかを示し、対話を行い、見本となる振る舞いを示した時に、患者とスタッフ間のやり取りがポジティブなものになるということ。

研究結果を受けて臨床心理学者で作家でもあるLucy Maddox氏はNHSのメンタルヘルス病棟に勤めていた時について回想し、「メディアはNHSの個人、特に看護師を頻繁に責め立てます。もちろん不十分なケアは許容しがたいものですが、私たちは、不十分なケアは労働環境の悪さがかさなって起こる事態であるという認識を持つ必要があります。スタッフが足らないこと、リーダーシップのひどさなど、組織に存在するあらゆるネガティブな文化が引き起こすものなのです」と語りました。

ストレスがあること、疲れていること、感情的な抑圧があること、十分に時間がないことなどによって思いやりのある振る舞いが難しくなることは、過去の研究が示しているだけでなく、多くの人が経験から理解できるところ。このような問題に対処するために、組織的な解決策はもちろんですが、近年では個人レベルの解決策も示されています。ヨガや瞑想(めいそう)、運動といった介入を通して個人のウェルビーイングに関わっていくことも有用だと考えられています。

by Patrick Malleret