F1での暴言禁止令はドライバーに悪影響を及ぼすという指摘

by Joe McGowan
F1世界選手権を運営する国際自動車連盟(FIA)がF1のマネジメントに対して「無線での暴言を最小限に抑えるように」と要請したことが報じられました。しかし、イギリスの言語学者であるキエラン・ファイル氏は、「F1ドライバーが悪態をつくことを禁止するとパフォーマンスに悪影響が出る可能性がある」と指摘しています。
Banning swearing in Formula One could be bad for drivers – a linguist explains
https://theconversation.com/banning-swearing-in-formula-one-could-be-bad-for-drivers-a-linguist-explains-251424
ドライバーとスタッフの間で交わされる無線通信は、F1世界選手権のレース中継でも流されることがありますが、Fワードなどは修正されることがあります。たとえば、2024年に行われたハンガリーGPでは、マックス・フェルスタッペン選手が無線通信で少なくとも7回も悪態をつき、そのうち6回は「ピー」という音で消されたことが報じられています。また、2024年のオーストリアGPでは、角田裕毅選手が公式予選中に暴言を吐き、4万ユーロ(約640万円)の罰金を科されています。
2025年1月、FIAは不正行為ガイドラインを更新し、ドライバーが悪態をついたり、運営団体を批判したりすることを厳しく取り締まることを発表しました。イドラインでは「不快、侮辱的、粗野、無礼あるいは虐待的な言語、身ぶり、サインを使うこと」と定義づけられており、身体的暴行だけではなくそれを扇動すると認められるような行為も不正行為に該当すると定められました。
このガイドラインに違反した場合の罰則も重く、2年以内に初めて違反した場合は罰金1万ユーロ(約160万円)、2年以内に2度目の違反をした場合は2万ユーロ(約320万円)~3万ユーロ(480万円)の罰金と1カ月の出場停止、2年以内の3度の違反を犯した場合は3万ユーロ~4万ユーロ(約640万円)の罰金と1カ月の出場停止、ならびに世界選手権でのポイント減点が科されるとのこと。このガイドラインはF1だけでなく、世界ラリー選手権を含むFIA主催のレースに適用されます。

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さらに2025年2月、FIAのモハメド・ビン・スライエム会長は、F1ドライバーが無線通信でも悪態をつくことを禁じるため、無線通信の検閲を強化する可能性があるとコメントしました。
F1ドライバーたちの”暴言”無線は減らそうよ! FIA会長、F1側に要請「見ている子どもたちにどう説明するんだ?」
https://jp.motorsport.com/f1/news/exclusive-fia-asks-f1-to-limit-swearing-in-television-coverage/10655642/
しかし、暴言を過度に取り締まるとF1ドライバーの集中力とパフォーマンスを下げる可能性がある、というのがファイル氏の主張です。
ファイル氏によれば、暴言は他の言葉と異なり、感情の処理・脅威の検知・生存反応をつかさどる脳の領域と関連付けられているという研究があるとのこと。F1ドライバーは、迅速な意思決定と脅威の評価が重要となるような「緊張感とリスクの高い環境」で活動していることを考えれば、大きなプレッシャーの下での罵倒は自然な反応である可能性があります。

by Takayuki Suzuki
また、暴言は闘争・逃走反応を活性化させ、心拍数の増加、呼吸の速まり、アドレナリンの放出などの生理学的変化を引き起こすことも研究で判明しています。闘争・逃走反応は人間が危険に反応するのに役立ち、極度のスピードで重大な決断を下しながら高い警戒心を維持しなければならないF1ドライバーにとっては重要な本能だといえます。
さらに、暴言はチーム内の人間関係のコミュニケーションにおいて非常に重要な役割を果たしている、とファイル氏。一瞬の決断がレースの結果を左右するF1では、ドライバーとエンジニアスタッフの間のコミュニケーションは簡潔で明確かつ曖昧さがないものでなければなりません。その点、暴言には、対人コミュニケーションにおいて「注目を集める」という機能があることが過去の研究で指摘されているほか、暴言が含まれるメッセージは優先度の高さを示す傾向があり、緊急時に中立的な言葉よりも相手が耳を貸しやすいと主張する研究もあるとのこと。

by pedrik
ファイル氏は、暴言が厳しく取り締まられるようになったのは、現代のF1をエンターテイメントに昇華する上で「チームの無線通信を一般に公開したこと」が大きな原因となっていると主張しています。
無線通信は本来チーム戦略と意思決定のためのプライベートなチャンネルでしたが、今ではエンターテインメントの一部となり、何百万人ものファンに向けて放送されています。これにより、観客はレースの激しさを垣間見ることができるようになりましたが、同時にドライバーのコミュニケーションの意味も変わり、機能的であるはずやり取りが公のパフォーマンスに変わってしまったとファイル氏は指摘しました。
ファイル氏は「チームの無線通信は娯楽のために作られたものではなく、レースイベント中に重要な双方向の情報の流れのために作られたものです。したがって、何を放送するかを話し合うべきであり、言論自体に方針を課すべきではありません。放送局が環境の規範に適応するべきであり、その逆は違います。FIAのアプローチは放送の問題ではなく規制の問題として扱い、プライベートな通信を一般のアクセス向けに管理する方法を再考するのではなく、競争相手に制限を課しています」と述べました。
また、ファイル氏は「悪態や罵倒を禁じることは、無線通信を『無害で演出されたもの』に感じさせ、F1レースを魅力的でエキサイティングにしていた感覚そのものを減衰させる危険性があります」と述べました。
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in 乗り物, サイエンス, Posted by log1i_yk
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