サイエンス

「ポピュラー音楽が年々劣化してきている」という研究結果

by Spencer Imbrock

音楽は時代と共に移り変わっていくものですが、音楽の中でも広く人々に受け入れられる「ポピュラー音楽」について長年調査を続けてきた研究者が、「ポピュラー音楽の質が年々低下している」という研究結果を発表しています。

Measuring the Evolution of Contemporary Western Popular Music | Scientific Reports
(PDF)https://www.nature.com/articles/srep00521.epdf

Is Pop Music Evolving, or Is It Just Getting Louder? - Scientific American Blog Network
https://blogs.scientificamerican.com/observations/is-pop-music-evolving-or-is-it-just-getting-louder/

何百万曲もの音楽を定量分析して、ポピュラー音楽が時間と共にどのような変化を遂げてきたのかを調査した研究が、Scientific Reportsに掲載されています。研究では「Million Song Dataset」と呼ばれる、約4万5000人ものアーティストの楽曲46万4411曲および、曲名・時間・テンポといったさまざまなデータが含まれたデータセットを分析しています。なお、データセットに収録されている楽曲は1955年から2010年までにリリースされたポピュラー音楽です。

研究を行ったのはスペイン・バルセロナにあるスペイン国立研究評議会人工知能研究所で働く、研究者のジョアン・セララ氏たち。研究チームは曲を「音色」「ピッチ」「音量」の3つに分け、定量分析しています。

by Natalie Perea

分析の結果、1960年代をピークに「音色」の多様性は現在に至るまで減少し続けていることが明らかになっています。これは機材や録音テクニックの多様性が低くなっていること、そして全体的に音色が均質化してきていることを意味します。

同じように、ポピュラー音楽における「ピッチ」にも良好な変化はみられないそうで、具体的には、基本的なピッチのボキャブラリーが減少こそしていないものの、数十年前に普及していたものと同じものが現在も広く使用されており、進化・変化がみられないとのこと。つまり、現代のミュージシャンは過去に活躍したミュージシャンが踏み込んだ道をたどるばかりで、新しい音色やピッチを模索するような挑戦を怠りがちな、保守的な傾向にあることがわかります。

最後に「音量」について。楽曲における音量は録音時のものであり、ユーザーが曲を聴く際の音量ではありません。何年もの間、オーディオファンは曲の音量を上げていくための「Loudness War」なる取り組みを行っており、その成果はしっかりと出ています。研究によると、1955年から2010年にかけて、曲の音量は8年ごとに約1デシベル増加していることが判明。ただし、曲そのものの音量を上げることはダイナミックレンジを犠牲にし、感傷的な感情を引き起こしづらくするものである、と研究チームは指摘しています。

by Juja Han

音色・ピッチ・音量という3つの要素で、ポピュラー音楽は良好な変化がみられていないように感じられますが、研究で使用されたデータセットのMillion Song Datasetは、収録楽曲に偏りがあるため、選択バイアスがかかっているのではと科学雑誌のScientific Americanが指摘しています。Million Song Datasetの収録楽曲のうち、1955年から1959年にかけてリリースされたものは2650曲であるのに対し、2005年から2009年にかけてリリースされたものはなんと17万7808曲で、同じ5年間でも明らかに収録数が異なることがわかります。

そもそも「音色の多様性が減少している点」や「限られたピッチしか使用されていない点」があるからといって、ポピュラー音楽の質が低下していると言い切ることはできません。しかし、仮にこれらを「悪い曲の定義」とした場合、2点とは異なる「斬新なメロディーや音色」を有する曲は、優れた楽曲ということになります。そして、優れた曲であるということは、多くの支持を集め、50年後にも残っているような名曲となり、Million Song Datasetに収録されるような曲になる可能性も高くなります。


つまり、Million Song Datasetに収録されている古い楽曲は「音色が多様でピッチも幅広い」という、研究における「良い曲の定義」を満たしたものばかりである可能性があり、対して新しい曲は曲数が多いため「悪い曲の定義」にあてはまってしまうものが多くなり、その結果、年々音色の多様性が減少し、限られたピッチしか使用されなくなってきているという分析結果が出た可能性がある、と科学雑誌のScientific Americanは主張しているわけです。

それでも、研究に携わったセララ氏は、「時間の効果が最小限に抑えられるようにしており、その影響は本当に小さなものです」と語っています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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