超音波と磁力を組み合わせて細胞内を自由に動き回れる微小ナノモーターの製作に成功

細胞内を自由自在に動き回れる自律推進型の極小モーターの製作にアメリカの研究チームが成功しました。この実験の成功によって人間の体内を自由に移動させ癌細胞などに狙いを定めて投薬するドラッグデリバリーシステムの実現に大きく近づきそうです。

Acoustic Propulsion of Nanorod Motors Inside Living Cells - Wang - 2014 - Angewandte Chemie International Edition - Wiley Online Library
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.201309629/abstract

Nanomotors Are Controlled, for the First Time, Inside Living Cells — Eberly College of Science
http://science.psu.edu/news-and-events/2014-news/Mallouk2-2014

BBC News - Tiny motors controlled inside human cell
http://www.bbc.co.uk/news/science-environment-26136979

アメリカのペンシルバニア州立大学のトム・マローク博士とその研究チームは、超音波と磁力を使うことで細胞内を自由に移動できるナノモーター(超音波ナノモーター)の開発に成功しました。

何はさておき、超音波ナノモーターの動きが一発で理解できるムービー集は以下の通りです。

A demonstration of very active gold nanorods internalized inside HeLa cells in an acoustic field. - YouTube


丸い細胞内で動き回っている金色の物体が超音波ナノモーター。細胞内部でドリルのように回転するものや細胞の内壁をぐるぐる動き回るものや、じっとその場で待機するものなど、さまざまな動きが見られます。

The interaction between gold nanorods and HeLa cells - YouTube


今度は細胞の外部をぐるりと取り囲む超音波ナノモーター。

The assembly of a rotating HeLa cell/gold rod aggregate at an acoustic nodal line in xy plane. - YouTube


回りにとりついた超音波ナノモーターに導かれるように運搬される細胞。

移動した先には数珠つなぎになった他の細胞が待ち構えていました。

合体。

ズームアウトするとこんな感じ。

数珠つなぎになった細胞はドリルのようにくるくる回転しながら推進力を得て進んでいます。

これは、無数の超音波ナノモーターが一直線に連なったもの。

超音波ナノモーターの先端が細胞に到達。

画面中央で回転している超音波ナノモーターが……

磁力に吸い寄せられ細胞の先端に合体しました。

団子状態の細胞は超音波ナノモーターに挟まれるように移動を続けています。

超音波ナノモーターは全長3マイクロメートルで直径が300ナノメートル(0.3マイクロメートル)と人間の髪の毛よりも細い極小サイズで、金-ルテニウムが材料として用いられており、超音波振動と磁場を変化させることで推進力を持たせたり、互いに接合したりできる仕組み。

マローク博士は「ナノモーターの自律的な運動能力は医学的に応用できる見込みがあります。私たちの一つの夢は、これまで空想だと考えられてきた、体内を自由に『航海』するスタイルの治療法です」と語っています。

これまで細胞内を自由に動き回れるナノモーターは駆動力として化学物質(化学燃料)が使用されており化学燃料が有毒なため体内で使うのに大きな障害がありました。今回開発された超音波ナノモーターは化学燃料を必要とせずに駆動でき、互いに接合できる性質を持つため、例えば特定の癌細胞を狙い撃ちして抗がん剤を投与するようなドラッグデリバリーや、癌細胞内に侵入させ内部から物理的に破壊する技術などへの活用が期待されています。

今回の実験にはHeLa細部が利用されており、生体内での実験はまだ先のようですが、1966年に公開されたSF映画「ミクロの決死圏」の実現に、人類はまた一歩、近づいたと言えそうです。