サイエンス

血中を移動して正確にがん腫瘍を攻撃できるナノロボットの開発に成功

By Kanijoman

近年の日本人の死因で最も多い「がん」には、「1度がんになると治らない」や「抗がん剤治療で長期にわたって苦しむ」などの暗いイメージがつきまといます。しかし、新しく開発された「血中を移動して正確にがん腫瘍を攻撃できるナノロボット」を使えば、抗がん剤による副作用を取り除くことができるようになるかもしれません。

Scientists Have Created Nanorobots That Can Travel Down the Bloodstream and Precisely Target Cancerous Tumors
http://sciencenewsjournal.com/scientists-created-nanorobots-can-travel-bloodstream-precisely-target-cancerous-tumors/


マックギル大学・モントリオール大学・モントリオール理工科大学などの研究者たちが、血中を移動してがん腫瘍を破壊できるナノロボットの開発に成功しました。研究チームのリーダーを務めたのは、NanoRobotics Laboratoryでディレクターを務めるシルバン・マルテル教授。マルテル教授によると、新しく開発されたナノロボットは1億個ものバクテリアを保持可能で、自力で推進することもできます。このナノロボットの持つバクテリアには大量の薬を持たせることが可能なので、ナノロボットを使えば体の中の腫瘍部分まで抗がん剤などの薬を直接運ぶことができるようになります。

ナノロボットは人体内の特定の腫瘍近くまで到達すると、自動で腫瘍を検知します。腫瘍環境では腫瘍細胞の増殖と血管から距離が離れることで低酸素状態が作り出されるのですが、この低酸素状態をナノロボットが検知することで、腫瘍がどこにあるのかを正確に検知できるようになっているそうです。

By AJC1

これまでの放射線療法を含む多数のがんの治療法は、この低酸素状態を有効に活用することができませんでした。これは、生理学上の複雑な微環境を横断し、小さな血球が通るのさえ難しいような経路の先に腫瘍が存在したからです。こういった状況を打破するため、マルテル教授たちの研究チームはナノテクノロジーを駆使したナノロボットの開発を行ったというわけ。

バクテリアは磁性ナノ粒子のつながりによって作り出される磁場の方向に引き寄せられるという性質と、腫瘍の活性領域に近づく性質を持っています。この特性を利用し、コンピューターで制御された磁場にバクテリアをさらすことで、ナノロボットを腫瘍の位置まで正確に移動させることが可能になるとのことです。


バクテリアが磁場の方向に引き寄せられる特性を用いた実験を行っているのが以下のムービー。この特性を応用して腫瘍をピンポイントで攻撃するナノロボットを開発したことがわかります。

Robotic Micro-Assembly Process - YouTube


磁気走性のバクテリアはべん毛と呼ばれるらせん状繊維を持っており、これを使って推進力を得ます。


磁場の向き(B)が変わると、磁気走性のバクテリアの動く方向も変わります。


この特性を駆使してバクテリアを動かしているのが以下のシーン。大きめの黒色の丸が「B」と書かれた矢印の方向に動きます。


さらに、磁場をコンピューターで制御することで……


バラバラに散らばっていた磁気走性のバクテリアを一カ所に集めることも可能。


磁気走性のバクテリアを集めることで、比較的複雑なミクロ操作を行えるようになります。


例えば、以下のシーンでは磁気走性のバクテリアを5000集め、小型のピラミッドを作成しようとしています。写真だと何が行われているのか理解しづらいですが、ムービーを見るとバクテリアの群れをかなり自由自在に操作していることがわかります。


化学療法は人体にとって有毒な物質を使用してがんを治療しようとするものです。しかし、今回発表されたナノロボットを使用すれば、腫瘍に直接抗がん剤を注入することも可能となるため、抗がん剤の副作用を取り除くことができるようになるかもしれません。

マルテル教授は今回発表されたナノロボットを応用したより革新的な技術が開発されることになるだろう、とコメントしています。

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in サイエンス,   動画, Posted by logu_ii

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