サイエンス

血管の主要な機能を模倣&血管の修復を促すことが可能な「電子血管」が開発される


近年では技術の発展に伴い、体の組織を人工的なもので再現する動きが進んでおり、酸素だけでなく抗がん剤なども運搬可能な合成赤血球や、実物に匹敵する強度や耐久性を持つ人工軟骨などが開発されています。こうした人工組織について、中国の研究チームが新たに「血管の主要な機能を模倣する埋め込み型の電子血管」を開発したと発表しました。

Electronic Blood Vessel: Matter
https://www.cell.com/matter/fulltext/S2590-2385(20)30493-8

Flexible and biodegradable electronic blood vessels | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2020-10/cp-fab092920.php

バイオエレクトロニクスの進歩は心臓や血管系の医学的問題に対処する大きな可能性を秘めており、病気の研究や腎不全の治療、閉塞した血管の交換などに役立つ人工血管の開発が、長年にわたり進められてきました。こうした人工血管について、中国の研究チームは液体金属と医療用ポリマーを組み合わせて、体内に埋め込んで血管の主要な役割を模倣可能な電子血管を開発しました。

新たに開発された電子血管は、生分解性と柔軟性を兼ね備えた金属ポリマー導体の膜で構成されており、3層の血管構造と統合することができるとのこと。実験室内でヒトの血管細胞や血液との生体適合性をテストしたところ、電子血管は高い生体適合性を示したと研究チームは述べています。


電子血管は単に血管としての役割を果たすだけでなく、さまざまな電子デバイスと組み合わせて血管細胞に電子刺激を与えたり、電子制御で薬剤を血管内に送達したりといったタスクを実行可能な回路が組み込まれています。ヒトの血管細胞を用いた実験では、電子血管を通じて傷ついた血管に電気刺激を与え、血管の内皮細胞が増殖・移動することが確認されたと研究チームは述べています。

別の実験では、電気パルスをかけることで細胞膜に微少な穴を開け、細胞内に物質を導入する電気穿孔法(エレクトロポレーション)用の回路が電子血管内に組み込まれました。血管細胞を使って電子血管によるエレクトロポレーションの性能を調べたところ、電気パルスの電圧や間隔をうまく調整することで、細胞内にプラスミド(染色体以外のDNA分子)を送達できたそうです。

さらに研究チームは電子血管をウサギの生体内に埋め込み、その影響を評価する実験も行いました。この実験はウサギの頸動脈の一部を電子血管に置き換えて3カ月間にわたって監視するというもので、ウサギの血流が電子血管の埋め込み後も平均の範囲内にとどまり、大きな問題も発生しなかったとのこと。また、電子血管を除去した後にウサギの臓器を調査したところ、臓器に炎症などが起きていないことも確認されました。

研究チームは今回の実験結果が有望だったことを受けて、さらにデバイスを研究して長期的な安全性を確立したいと考えており、ヒトに埋め込む場合は電子血管と組み合わせる電子デバイスの小型化が必要だと語っています。論文の筆頭著者であるXingyu Jiang氏は、「将来的にはバッテリーや制御システムを最小化して統合し、全てのパーツを生分解性にして機能部品を完全に移植可能にする必要があります」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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