サイエンス

本物と同性能で実用レベルの「人工軟骨」が開発される


デューク大学の研究者が、ゲルでできた新しい人工軟骨を開発したと発表しました。開発された新型の人工軟骨は本物の軟骨に匹敵する強度と耐久性を持ち、体重の2~3倍という力を吸収することができるとのことです。

A Synthetic Hydrogel Composite with the Mechanical Behavior and Durability of Cartilage - Yang - - Advanced Functional Materials - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/adfm.202003451

From the Lab, the First Cartilage-Mimicking Gel That’s Strong Enough for Knees | Duke Today
https://today.duke.edu/2020/06/lab-first-cartilage-mimicking-gel-strong-enough-knees


変形性膝関節症や関節リウマチなどで変形した膝関節を人工関節に置き換える人工膝関節置換手術は、毎年アメリカで80万件近く行われているそうです。しかし、現行の人工膝関節はおよそ20年しかもたないといわれており、特に膝へかかる力を吸収する軟骨については「滑りやすく、かつ衝撃を吸収し、近くの細胞に害を及ぼさない素材」の研究開発が進められています。

そんな中で、デューク大学化学科のベンジャミン・ワイリー教授と工学科のケン・ガル教授の率いる研究チームは、1970年代から人工軟骨の素材として有望視されているゲルに注目。ゲルは「滑りやすく衝撃を吸収する」という特性を持っていましたが、膝のように体重がかかる部位に使用するには強度が低過ぎることが問題とされていました。

そこで、研究チームは2つの高分子で構成したゲルを開発しました。このゲルは伸縮性のあるスパゲティのようなヒモ状構造の高分子が、頑丈で編み目のような構造の高分子に絡み合う構造となっており、さらにセルロース繊維がその高分子の編み目を補強しています。ゲルが引っ張られるとセルロース繊維によって形が保持され、押しつぶされると高分子の電荷によって水分子が付着し、元の形に戻ろうとする仕組みになっています。なお、このゲルのおよそ60%は水でできているとのこと。


研究チームがこの新型ゲルを他のゲルと比較しながら調査したところ、本物の軟骨と同じくらいの強度が得られたと判明。また、10万回に渡って新型ゲルを引っ張る実験を行ったところ、人工骨に使われる多孔質チタンと同程度の強度が確認できたそうです。さらに、45kgの重りを新型ゲルの上に載せても崩壊しなかったとのこと。研究チームの1人で大学院生のウィリアム・コシュート氏は「新型ゲルの強度は、私たちの当初の期待を超えていました」と語っています。


さらに、新型ゲルを100万回にわたって自然の軟骨にこすりつける実験を行ったところ、潤滑面の耐久性は本物の軟骨と同程度で、従来の人工軟骨よりも4倍高い耐摩耗性があるとわかりました。また、人の細胞に対しても無害であることが実験から示されています。

性能を見れば新型ゲル素材は非常に画期的ですが、記事作成時点ではまだ実験室レベルであり、臨床で利用可能なレベルにまで研究を進めるには少なくともさらに3年はかかるとワイリー教授はみています。研究チームは臨床試験に入る前に、このゲルを羊に移植して安全性を確認する予定だと述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
強化外骨格を使ったフードデリバリーの様子がまるでデス・ストランディングのようだと話題に - GIGAZINE

靴底にクッション性の高い素材を利用すると足の負荷が増えてしまう - GIGAZINE

拳や指をポキポキ鳴らす「クラッキング」音の正体とは? - GIGAZINE

なぜ6本指の人に関する研究が近未来のサイボーグにつながる可能性があるのか? - GIGAZINE

人間の下半身で最後に進化したのは「つま先」だという研究結果 - GIGAZINE

人体には「進化の過程で役割を失って退化した器官」の名残がいくつも存在する - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1i_yk

You can read the machine translated English article here.