サイエンス

人体には「進化の過程で役割を失って退化した器官」の名残がいくつも存在する


19世紀の生物学者チャールズ・ダーウィンは、生存競争を乗り越えて自然環境により適応したものが子孫を残すことで種が進化していくという「自然淘汰(とうた)説」を提唱し、「ヒトはサルと同一の祖先を持ち、その祖先もまた別の生物から進化したものである」という現代の進化論の礎を築きました。ヒトが進化する過程の中で必要がなくなった器官は退化するも、その名残は今でも人体に残されています。Voxチャンネルが、人間の体に残る「進化の証」について、ムービーで説明しています。

Proof of evolution that you can find on your body - YouTube


平べったいところに腕を置いて……


親指と小指をくっつけて、手首を内側に曲げます。この時、日本人では3~5%の人が以下の画像の右の人のように筋が表れません。


手首に表れるこの筋は「長掌筋(ちょうしょうきん)」と呼ばれ、人体に残された進化の名残の1つです。長掌筋の機能は別の筋肉でも十分代行されるので、この筋がなくても握力が弱くなるということはありません。


長掌筋がなくても手の動きに障害を与えないので、美容整形などで他の部位への移植に使われることも。例えば、野球の投手が受けることで知られるトミー・ジョン手術では、この長掌筋を肘関節の靱帯に移植する施術が多く行われます。


長掌筋は、地面に穴を掘って生活したり樹上で生活したりする哺乳類で発達しています。


キツネザルやサルは長掌筋が発達して長い一方で、木にあまり登らないゴリラやチンパンジーでは退化して短くなってしまっていることがほとんど。ヒトに至っては退化して失ってしまっている場合もあります。


他にもヒトには使わなくなって退化してしまった筋肉が存在します。例えば、耳の周囲にある3つ筋肉がその例。この筋肉は耳を動かすために存在する筋肉ですが、私たち現代人が耳を積極的に動かすことはありません。


元来、動物は音の方向へ耳をよく動かします。


聴力は、夜行性の動物にとって非常に重要な能力です。


しかし、現代人にとってもはや耳を動かす能力はほとんど役に立たないため、耳を動かす筋肉は退化してしまっています。それでも、わずかながら筋肉を使って耳を動かそうとしていることは、簡単な実験で確かめられます。まず、耳に筋肉の動きを探る電極を装着します。


そして、例えば左側からスピーカーで大きな音を突然鳴らします。


この時の電位を電極で読み取ってグラフに表したものが以下。左側の筋肉は、音がなった直後に大きく反応しています。ヒトはイヌやネコのように音の方向へ耳を動かすことはしませんが、進化の名残である筋肉はちゃんと反応しているというわけです。


また、鳥肌も進化の過程で失われた機能の名残です。


鳥肌は、表皮と真皮上層の間にある「立毛筋」と呼ばれる筋肉が収縮することで、毛根が引っ張られて毛が逆立つという現象です。


体温が低下すると、交感神経を通じて副腎髄質へ信号が送られ、アドレナリンが分泌されます。アドレナリンには運動器官への血液供給量を増加させるという働きのほか、立毛筋を収縮させる働きがあります。そのため、寒くなって体温が下がると体毛が逆立ち、毛根部が盛り上がって鳥肌が立つというわけです。


そもそも、なぜ体温を下げると体毛を逆立たせるように働くのかというと、体毛の長い動物の場合は毛を逆立たせることで断熱効果が高まるためです。以下の画像のように狐の毛皮がもふもふしているのは、寒さから身を守るため。


ハトなどの鳥類も、外気に体温を奪われないよう、羽をふくらませます。


また、交感神経が興奮すると分泌されるアドレナリンは「闘争か逃走か」のホルモンと呼ばれます。敵に遭遇したネコが敵を威嚇するために毛を逆立てる仕組みは、鳥肌と同じものです。


素晴らしい歌を聴いて心を揺さぶられた時に鳥肌が立つのは、感動によって交感神経が興奮し、アドレナリンが分泌されて立毛筋が収縮するためです。


進化した人類が捨ててしまった器官で最も有名なのが尻尾です。人間には尻尾はありませんが、はるか昔の祖先が尻尾を持っていたことは、尾てい骨と呼ばれる小さな骨が示しています。


また、妊娠4週目の胎児を見れば、人間にも尻尾があることが確認できます。


他の動物は、そのまま尻尾が残りますが……


ヒトを含めた現生類人猿(ヒト上科)は、尻尾の部分の細胞はプログラム細胞死によって数週間ほどで失われていきます。


ごくまれに、突然変異で尻尾を持ったまま生まれてくる新生児が報告されていますが、尻尾は人間にとって不要なため、進化の過程で失われてしまったといえます。


なお、ムービーのナレーションを務めるサラ・タービン氏によると、人間に残っている最もかわいらしい進化の名残は、赤ちゃんが手の平に置かれたものをぎゅっと握りしめてしまう「把握反射」とのこと。生まれてから生後5~6カ月までこの反射は見られるそうですが、その後自然と失われてしまうそうです。把握反射は、生後まもなくでも木にしがみつけるようにというサル特有の反射と握力の名残だと考えられています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
光合成を行うはずのバクテリアが太陽の光の届かない地底で発見され科学者が驚愕 - GIGAZINE

アフリカゾウの皮膚にある「シワ」はどんな役割を果たすのか? - GIGAZINE

たった1つの遺伝子変異がヒトを「長距離ランナー化」して繁栄させるきっかけになった - GIGAZINE

人間の下半身で最後に進化したのは「つま先」だという研究結果 - GIGAZINE

世界で初めて「ネアンデルタール人の母親とデニソワ人の父親を持つ子どもの骨」が研究で示される - GIGAZINE

人が動物とセックスすると何が起きるのか? - GIGAZINE

古代人のDNAを分析することで「人類が長い歴史の中でどのように変遷していったか」が明らかになりつつある - GIGAZINE

in メモ,   サイエンス, Posted by log1i_yk

You can read the machine translated English article here.