サイエンス

マダニ由来の「肉アレルギー」が増加、発症の仕組みや治療法にはなお多くの謎が残る


マダニにかまれたことをきっかけに発症する、牛肉や豚肉などを食べるとアレルギー反応を起こす「α-galアレルギー」が世界各地で増加しています。気候変動によるマダニの生息域拡大や、マダニを運ぶシカの増加が背景にあると考えられていますが、発症の仕組みや治療法には未解明の部分が多く残されています。

Meat allergy is on the rise — what scientists want to know | Nature
https://www.nature.com/articles/d41586-026-02362-2

α-galアレルギーは、マダニの唾液に含まれる「α-gal」と呼ばれる糖分子によって引き起こされます。マダニに繰り返しかまれると、体内でα-galに反応する免疫グロブリンE、いわゆるIgE抗体が作られ、その後にα-galを含む食品を摂取した際にアレルギー反応が起きることがあります。


α-galは牛肉や豚肉など哺乳類の肉のほか、乳製品にも含まれています。患者には発疹や腹痛、嘔吐などの症状が現れ、重症の場合は命に関わるアナフィラキシーを起こすこともあります。2025年にはすでにα-galアレルギーによって死亡した例が報告されました。

「ダニ由来の肉アレルギー」によって死亡した初の症例が報告される - GIGAZINE


このアレルギーの特徴は、マダニにかまれた直後ではなく、その後に肉などを食べた際に症状が出る点です。また、一般的なIgE型の食物アレルギーでは摂取から数分~2時間ほどで反応が起きるのに対し、α-galアレルギーでは症状が現れるまで最長8時間かかることがあります。

症状が遅れて現れる理由は完全には解明されていません。現在有力とされている説では、肉に含まれるα-galが脂質と結び付いた状態でリンパ系から血流に入り、数時間かけて小さな分子に分解された後、腸の組織に移動して免疫反応を引き起こすと考えられています。

症状が腹痛や嘔吐など比較的ありふれたもので、肉を食べてから発症まで時間が空くことから、原因を特定するのは困難です。さらに、マダニにかまれてから症状が確認されるまで数カ月かかる場合もあり、実際の患者数は診断件数より多い可能性があります。


α-galアレルギーの患者は複数の国で増えているとのこと。特にオーストラリアでは、マダニの多い一部地域で10万人当たり700人以上が発症しており、疑い例は2020年以降、毎年22%ずつ増加しています。

アメリカ疾病対策センターによると、アメリカでは最大45万人がα-galアレルギーを持っている可能性があります。2017年から2022年には毎年約1万5000人が新たに診断され、アメリカでの主な原因はローンスターダニとされています。

日本では、人口の2~4%に当たる最大約490万人がα-galにさらされ、抗体を作った可能性があると報告されています。ただし、これはα-galに反応する「感作」が成立していることを示すもので、抗体を持つ人の全員にアレルギー症状が出るわけではありません。

患者増加の要因の1つとして指摘されているのが気候変動です。気温の上昇によってマダニが生息できる地域が広がっており、オーストラリアでは以前はニューサウスウェールズ州の一部に限られていた生息域が、東海岸沿いを北上してクイーンズランド州まで拡大しています。


また、シカの個体数増加も、マダニとの接触機会を増やしていると考えられています。アメリカではローンスターダニの主要な宿主であるオジロジカが従来の生息域を越えて増加しており、ヨーロッパでもα-galアレルギーの原因となるマダニを運ぶノロジカが増えています。


記事作成時点では、α-galアレルギーを根本的に治す方法はありません。患者には哺乳類の肉を避けることが推奨され、アレルギー反応の危険を抑えるために、長時間作用する抗ヒスタミン薬が処方される場合もあります。

一方で、再びマダニにかまれないようにすると、時間の経過とともにα-galに対する抗体が減少する可能性も示されています。免疫系を数年間休ませることで、一部の患者は肉を少しずつ食事に戻せるようになる可能性がありますが、どの患者が回復するのかを予測する方法はまだ確立されていません。

診断に利用できるバイオマーカーの特定や治療法の開発には、発症の仕組みや患者ごとの違いをさらに詳しく解明する必要があります。研究者らは今後、患者の症状を長期的に追跡する登録制度を設け、α-galアレルギーの種類や重症度の違いを調べる計画を立てています。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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