サイエンス

オンライン書店はリアル書店を完全に代替するものではない、実店舗が閉店すると本の販売数は減少する


近年はさまざまな書籍をオンラインで注文できるようになったため、読書家の中にも「リアル書店が閉店してもオンラインで注文すれば問題ない」「棚が限られているリアル書店よりも無制限のラインナップをそろえたオンライン書店の方が便利」と考える人もいるかもしれません。しかし、ドイツの書店数や書籍販売数について調べた研究では、実店舗の書店が閉店すると本の販売数が減ってしまうため、オンライン書店はリアル書店を代替するものではないとの結果が示されています。

The substitutability between brick-and-mortar stores and e-Commerce: the case of books | Journal of Cultural Economics | Springer Nature Link
https://link.springer.com/article/10.1007/s10824-025-09544-2

Online stores do not fully replace closed bookshops, study finds
https://www.scienceofmoney.org/when-a-bookstore-closes-where-do-the-sales-go-a-german-study-counts-the-cost-644/

ドイツのギーセン大学やデュッセルドルフ競争経済研究所の研究チームは、オンライン書店とリアル書店が書籍販売においてどれほど代替的な関係にあるのかを調べました。研究対象となったドイツでは書籍価格が固定されていることから、同じ書籍であれば街中の書店で買おうがオンライン書店で買おうが価格は一定で、「消費者が価格に応じてリアル書店とオンライン書店を使い分ける」という現象は起こりません。


今回の研究を取り上げた販売心理学関連のウェブメディア・Science of Moneyは、「ほとんどの小売業における価格比較では、価格が最も重要な要素であり、消費者は節約のためにオンラインを利用することが多いです。ドイツの書籍市場では価格という要素を排除することで、研究者は人々が特定の販売チャネルを選択する他の理由を分離することができます。こうした理由には、膨大なオンライン在庫を検索できる利便性、配送にかかる待ち時間、そして購入前に実際に本を手に取って確認できることなどが含まれます」と述べています。

書籍は経済学者が「経験財」と呼ぶタイプの商品であり、消費者は実際に読んでみるまで書籍を楽しめるかどうかがわかりません。そのため、消費者は購入前の不確実性を軽減するためにタイトルやあらすじを吟味したり、書店員のアドバイスやオンラインのレビューを参考にしたりします。研究チームは、こうした購入前の判断要素がオンライン書店とリアル書店では異なるため、両者が完全に代替的な存在にはならない可能性があると考えました。


研究チームはオンライン書店とリアル書店の関係を調べるため、2011年~2017年の月次データセットを作成しました。このデータセットは、ドイツ国内の書店の実店舗数と実店舗およびオンライン書店の書籍販売数について、14の連邦州と9つの書籍ジャンルに分けて分析したものです。書籍の販売数は市場調査企業のメディア・コントロールが提供するスキャナー記録と、同じく市場調査企業のGfKが収集した消費者データから得られました。

データからは、2011年の時点で6300店以上あった実店舗の書店数は2017年の時点で4900店未満に減少し、絶対数で見ると約1430店が閉店したことが示されました。生き残った書店は平均して以前よりも多くの書籍を販売したものの、全体としては紙書籍の販売数も減っていました。

以下は2011年初め(左)と2017年末(右)における人口10万人あたりの書店数を地図上で示したもので、色が濃いほど10万人あたりの書店数が多いことを意味しています。ドイツ全土でリアル書店の数が減っていることがうかがえます。


2011年には実店舗とオンラインストアで約2億9720万冊の紙書籍が販売されましたが、2017年の販売数は約2億6400万冊にまで落ち込みました。この間に書籍の平均価格も上がったため、販売数の減少は部分的に価格上昇と相殺されたものの、販売数の減少も顕著であることがうかがえます。

以下の図は、2011年(左)と2017年(右)の人口1人あたりの紙書籍販売数を表したもので、色が濃いほど販売数が多いことを意味しています。やはりドイツ全土で紙書籍の販売数が減っていることがわかります。


これらのデータを分析したところ、実店舗の書店が1店なくなるごとに、平均的な州では月間の紙書籍販売数が約744冊減少することが判明。全国規模で見ると、2011年から2017年の間に約1430店の書店がなくなったことにより、月間の紙書籍販売数は約100万部減少したという計算になります。これは、同期間における月間紙書籍販売部数の減少のうち約37%に相当します。

研究結果を端的にまとめると、リアル書店の閉店による影響は近隣の他店舗やオンライン書店では完全に代替できず、紙書籍の販売に悪影響を及ぼしたということになります。この理由としては、実店舗で本を探して購入する習慣があった消費者の一部は、実店舗の閉店によってその習慣を失ってしまい、結果として書籍購入数が減ったという可能性が考えられます。

また、特定のジャンルでは実店舗の閉店により、オンライン書店での販売数まで減るという現象がみられました。小説と児童書は特にリアル書店の閉店による悪影響が大きく、リアル書店の閉店によって月間の紙書籍販売数は小説が約208冊、児童書は約210冊も減少し、オンライン書店での販売数も減少しました。

研究チームはこの現象が、実店舗はオンライン書店と競合するのではなく、むしろ実店舗の存在によってオンライン書店の販売が促進されていることを示す証拠だと考えています。たとえば、買い物客は実店舗を訪れた際に気になっていた本を家に帰ってから、あるいは経済的余裕ができてからオンライン書店で注文する可能性があります。また、「実店舗に本が置いてある」という状態が口コミでの拡散につながり、実店舗とオンライン書店双方での売上増加につながる可能性もあるとのことです。

一方、教科書に関してはリアル書店の閉店が販売数に有意な影響を与えていませんでした。この理由については、授業に必要な教科書の需要は書店の有無にかかわらず一定であり、実店舗がなくなったらオンライン書店で購入せざるを得ないからだと推測されています。


研究チームは紙書籍の販売数減少の穴を電子書籍が埋めているのかどうかを調べるため、消費者調査データを用いて電子書籍の販売数も分析に組み込みました。しかし、電子書籍を考慮に入れても主要な傾向は変わらず、実店舗の閉店による売上減少を補うことはできなかったと報告されています。

なお、今回の研究はあくまでドイツを対象に行われたものであり、他の国や文化圏でも同様の傾向が見られるかどうかは不明です。また、あくまで観察に基づいた研究であるため、実店舗の閉店がどのようなメカニズムで影響をもたらしたのかを知ることもできません。

Science of Moneyは、「読者がここから得られる教訓は至ってシンプルです。街角の書店は、ショーウィンドウに並べられた本を売る以上のことをしているようです。そのともしびが消えた時、他の場所で勝手に起こらなかったはずの需要を生み出していることがわかるのです」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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