一般的なニキビ治療薬が統合失調症のリスクを軽減する可能性

抗生物質のドキシサイクリン(ビブラマイシン)は、炎症性ニキビの原因となるアクネ菌や常在菌に抗菌作用を示すため、ニキビ治療薬として広く処方されています。新たな研究で、妄想や幻覚などの症状を呈する統合失調症の発症リスクをビブラマイシンが軽減する可能性があると判明しました。
Doxycycline Use in Adolescent Psychiatric Patients and Risk of Schizophrenia: An Emulated Target Trial | American Journal of Psychiatry
https://psychiatryonline.org/doi/10.1176/appi.ajp.20240958

Common acne medication linked to reduced schizophrenia risk
https://www.psypost.org/common-acne-medication-linked-to-reduced-schizophrenia-risk/
統合失調症は最も深刻な精神疾患のひとつであり、個人の身体的健康だけでなく社会生活や教育、職業生活などに多大な影響を及ぼします。統合失調症の根底にある生物学的メカニズムは完全には解明されていませんが、炎症とシナプスの異常が有力な説となっています。
統合失調症の発症に中心的な役割を果たしているとみられるのは、必要なシナプス結合のみを強め、不要なシナプス結合を除去するシナプス刈り込みというプロセスです。統合失調症の患者ではこのシナプス刈り込みが過剰になり、必要なシナプス結合まで除去されてしまうのではないかと考えられています。
ニキビ治療薬として広く用いられるビブラマイシンは、脳内に移行しやすいことが知られており、神経系疾患の実験モデルにおいて神経保護効果が実証されています。過去の実験では、ビブラマイシンが過剰なシナプス刈り込みを引き起こす免疫細胞を阻害する可能性があることが示唆されているとのこと。
そこで、エディンバラ大学のイアン・ケレハー氏やフィンランド保健福祉研究所の研究チームは、ビブラマイシンが人間の統合失調症リスクを軽減できるかどうかを調べました。研究チームはフィンランド健康登録簿の膨大なデータセットを活用し、1987~1997年にフィンランドで生まれ、13~18歳の間に青年期精神科医療サービスを受けたすべての個人を対象に研究を行いました。

研究では抗生物質の処方を受けた若者に焦点を当て、「ビブラマイシンを処方されたグループ」と「他の種類の抗生物質を処方されたグループ」を比較しました。この比較をすることで、感染症自体がメンタルヘルスに与える影響を考慮できました。被験者は合計5万6395人で、被験者全体の約29%がビブラマイシンを処方されていました。
研究チームはこれらの人々が30歳に達するか、死亡するか、国外に転出するまで追跡調査しました。主要な調査項目は統合失調症の診断記録で、性別や生まれた年、親の教育レベルといった変数を考慮して、統計モデルを調整したとのこと。
分析の結果、ビブラマイシン以外の抗生物質を処方されたグループでは、10年以内に統合失調症を発症する推定リスクが約2.1%だったのに対し、ビブラマイシンを処方されたグループでは推定リスクが約1.4%にとどまりました。これは、ビブラマイシンを処方されたグループでは統合失調症の相対的リスクが33%少なかったことを意味しています。
また、ビブラマイシンによる統合失調症の予防効果は薬剤の累積投与量に左右されず、累積投与量が比較的少ない人でもリスク軽減の恩恵を受けたと報告されています。統合失調症の1症例を予防するために必要な「治療必要数」を計算したところ、ビブラマイシンによる治療を受けた青少年132~160人ごとに、1つの統合失調症の症例が予防できると推定されました。さらに、10代の頃に精神科病院に入院した経験のある患者では、ビブラマイシンの使用が他の抗生物質と比較して、統合失調症リスクを40~50%低減することが示されました。

ケレハー氏は今回の研究について、「統合失調症を発症する人の半数近くが、他の精神疾患のために小児・青年期精神保健サービスを受診した経歴を持ちます。しかし現状では、こうした若年層における統合失調症リスクを低減する介入法は確立されていません。そのため、この発見は画期的なものです」とコメントしました。
なお、今回の研究はあくまで観察研究であったため、「ビブラマイシンが統合失調症のリスク減少を引き起こした」という因果関係を証明したものではありません。また、ビブラマイシンを処方されたグループは対照群よりも平均年齢が高く、女性が多いといった偏りもあったとのこと。また、一部の研究者からは、ビブラマイシン以外の要因が統合失調症リスクに影響したのではないかという疑念の声も上がっています。
ケレハー氏も因果関係に関する限界について言及し、「本研究は観察研究であり、無作為化比較試験ではないため、因果関係について確固たる結論を導くことはできません。しかし、この結果は思春期の精神科患者におけるビブラマイシンや、その他の抗炎症治療の保護効果をさらに調査し、成人期における重篤な精神疾患の発症リスクを低減する可能性を探る上で、重要な示唆をもたらすものです」と述べました。
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in サイエンス, Posted by log1h_ik
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