サイエンス

統合失調症の患者が「幻聴」を聞いてしまう脳のメカニズムが明らかに


思考や行動にまとまりがなくなる精神疾患である統合失調症の患者には、幻覚や妄想などさまざまな症状が現れます。統合失調症患者の中にも幻聴がある人とそうでない人が存在するとのことで、中国の研究チームが「統合失調症患者が幻聴を聴くメカニズム」を明らかにしました。

Impaired motor-to-sensory transformation mediates auditory hallucinations | PLOS Biology
https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3002836


What happens in the brain when a person with | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1059425

Scientists Identify Brain Signal Disruptions Behind Voices in Schizophrenia : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/scientists-identify-brain-signal-disruptions-behind-voices-in-schizophrenia

中国の上海交通大学医学部の神経科学者であるFuyin Yang氏らは、統合失調症患者が幻聴を聞くメカニズムについて調べるため、「幻聴のある統合失調症患者20人」と「幻聴のない統合失調症患者20人」の脳を調べる研究を行いました。

被験者となった統合失調症患者はいずれも抗精神病薬を服用しており、実験期間中は安定した状態にありました。また、研究チームは過去に収集された「統合失調症ではない人々のデータ」を、対照群として分析に用いたとのことです。

実験では、被験者に対して短い音節を聞かせて、それから同じ音を話すように求めました。この際の被験者の脳活動データを分析し、幻聴のある被験者とそうでない被験者の間にどのような違いがあるのかを分析しました。


分析の結果、「統合失調症ではない人」「幻聴のない統合失調症患者」「幻聴のある統合失調症患者」の間に、それぞれ明確な違いがあることが判明しました。

被験者の脳内では「音を聞く」という感覚刺激の処理が行われた後に、音を発する準備が行われます。この際、統合失調症ではない人の脳では、自分が発する予定の音の認識を抑制する「corollary discharge(随伴発射)」という信号と、体に対して音を発するように指示する「efference copy(遠心性コピー)」という信号が生じます。


しかし、すべての統合失調症患者では、自分が発する音の認識を抑制する「随伴発射」が失われてしまいました。これにより、統合失調症患者は自分が話した音を「外部から聞いた音」として認識しやすくなってしまうとのこと。この現象は統合失調症のマウスでも確認されているそうです。しかし、幻聴のない統合失調症患者では、遠心性コピーは正常に機能していました。


一方で幻聴のある統合失調症患者では、遠心性コピーが通常よりも強化されてしまい、自分の口から発するつもりがない「頭の中の発話」に対しても生じました。この随伴発射の低下と遠心性コピーの強化が組み合わさることで、統合失調症患者は頭の中の「内なる発話」を外部から聞いた音だと思い込みやすくなり、それが「幻聴」の原因となっている可能性があると研究チームは結論付けています。


研究チームは、「幻聴に苦しむ人々は、外部刺激なしで音を『聞く』ことができます。脳内の運動系と聴覚系の間の機能的接続の障害は、空想と現実を区別する能力の喪失をもたらします」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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