統合失調症は脳だけでなく体をも変える

by Edu Lauton

統合失調症は人の考えや感情、振る舞いに影響を与えるといわれていますが、最新の研究では脳だけでなく「体」も統合失調症によって変化することが示されました。

Is psychosis a multisystem disorder? A meta-review of central nervous system, immune, cardiometabolic, and endocrine alterations in first-episode psychosis and perspective on potential models | Molecular Psychiatry
https://www.nature.com/articles/s41380-018-0058-9

Schizophrenia could be physically changing the body, not just the brain
https://www.sciencealert.com/schizophrenia-might-affect-your-body-not-just-your-brain

これまでの研究で、統合失調症患者は一般人と比べて身体的疾患を患いやすいこと、それによって平均寿命よりも15～20歳早く亡くなることが示されていました。この理由について、抗精神障害薬の使用と体重の増加および2型糖尿病の間には関連性が認められていることから、統合失調患者の健康損失は病気の副次効果だと考えられてきました。

しかし、近年は抗精神障害薬を服用していないにも関わらず、免疫系の異常といった身体的な変化が見られる統合失調症患者の存在が報告されています。

そこで、South London and Maudsley NHS Foundation Trustの医師でありキングス・カレッジ・ロンドン精神医学研究所の臨床研究フェローのToby Pillinger氏らによる研究チームは調査を実施。過去に行われた複数の研究から初期の統合失調症患者の炎症の有無、ホルモンレベル、心臓疾患のリスク要素、グルコースやコレステロールのレベルといった身体的変化の兆候を調べ、それを患者の脳の変化の兆候と比較しました。また同時に、研究チームは脳内の化学物質のレベルや脳の活動状態といったデータも調べたとのこと。

その結果、初期の統合失調症は脳の構造や機能だけでなく、さまざまな身体的変化と関係性があることを研究チームは示しました。このとき、脳と身体での効果量(effect size)に相違はなく、統合失調症は脳だけでなく体全体に影響を及ぼす全身性疾患であることが示されており、今後の治療のあり方について見直しが必要になりそうです。

by Mariano Cuajao

統合失調症患者の脳における変化が身体的な変化とどのように関係しているのかについては明らかではないものの、Pillinger氏は3つの仮説を示しています。

1つは、身体的な機能不全が脳に変化をもたらし、最終的に統合失調症が引き起こされるのだとする説。ある種のガンは抗体を生み出し脳をターゲットにして精神障害を引き起こすことが知られており、これがひとつ目の仮説となります。ガンを原因とする場合、腫瘍を取り除けば精神障害の状態はよくなるとのこと。

2つ目は、統合失調症によって身体的な健康が損なわれるという考え方。精神障害のストレスはコルチゾールのレベルを上げ、体重の増加や糖尿病、血圧上昇と関連することが第2の仮説のベースとなる考え。

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3つ目は、統合失調症の症状と身体的な健康損失が別のメカニズムによってもたらされているとするもの。飢餓を経験した母親の子どもは、大人になってから糖尿病や統合失調症になりやすいと言われています。妊娠期の母親の栄養状態によって子どもの脳の発達具合が影響され、統合失調症の発生リスクは増加します。一方で、母親の栄養状態によって子どもがグルコースを代謝する能力も影響を受けます。このように、共通するリスクファクターによって、別々のメカニズムが影響されることが第3の仮説の根拠となります。

統合失調症患者が早期の死を迎える大きな原因の1つに心疾患があります。近年の研究をもってしても、統合失調症患者の寿命を延ばすことには成功しておらず、さらなる研究が求められているところです。