サイエンス

「自閉症の人にはテレパシーがある」と荒唐無稽な主張をするポッドキャスト「テレパシー・テープス」をなぜ人は信じてしまうのか?


自閉スペクトラム症(自閉症)は社会的なコミュニケーションに問題を抱えていたり、特定の人や行動に強いこだわりを見せたりする発達障害のひとつで、重度だと言葉を話したり文章を作ったりすることもできないケースがあります。ところが近年、「自閉症の人にはテレパシーがある」と荒唐無稽な主張をするポッドキャスト「The Telepathy Tapes(テレパシー・テープス)」が人気を集めているとのことで、自らも自閉症の兄を持つライターのメーガン・ボイラード氏が、テレパシー・テープの問題点やその背景にある歴史を解説しました。

The Perplexing Appeal of The Telepathy Tapes — Asterisk
https://asteriskmag.com/issues/12-books/paradigm-shifted-the-perplexing-appeal-of-the-telepathy-tapes


テレパシー・テープスのシーズン1では全10話・約500分にわたり、重度だと診断された自閉症患者の家族の証言を取り上げています。エピソードの中では、患者との言語的コミュニケーションは不可能だと告げる冷酷な医師らと、それに対抗してコミュニケーション手段を模索する親や家族の姿が描かれているとのこと。このように、苦境に立たされた人々が困難を乗り越えるエピソードが人気を集めるのは理解できますが、ボイラード氏はテレパシー・テープスにはさまざまな問題があると指摘しています。

テレパシー・テープスは2025年に多くの支持を集め、Spotifyの編集チームは7月に「2025年のベストブレイクアウトシリーズ」のひとつにテレパシー・テープスを挙げました。また、陰謀論の拡散や疑似科学への傾倒で批判されている著名ポッドキャスターのジョー・ローガン氏は、2月にテレパシー・テープスのディレクターであるカイ・ディケンズ氏を招いて、数百万人のリスナーに向けてスピーチをさせました。

ディケンズ氏はテレパシー・テープスの中で、言葉や非言語のコミュニケーションができないと思われている自閉症の人々でも、やり方を工夫すればコミュニケーションが可能だと主張しています。そして、言語を使えない自閉症の人々は単にコミュニケーションができるだけでなく、見えないはずのものが見えていたり、未来を予知したり、普遍的な集合意識にアクセスしたりする「テレパシー」を持っていると訴えています。


エピソードの中で、ディケンズ氏らのチームは重度自閉症患者とのコミュニケーション手段を見つけた人々に会い、コミュニケーション能力を検証するテストを行っています。テストでは自閉症患者に数字や文字が書かれたボードを渡し、メッセージをつづる様子を観察するだけでなく、「適当に選んだUNOカードの数字を当てさせる」「見えない場所に置かれたiPad上でランダムに生成された単語を書かせる」といった超能力的な実験も行われています。

テレパシー・テープスに登場する自閉症の人々らは、これらのテストで驚くほどの正答率をたたき出しています。そして、正解を知っている自閉症患者の保護者は、回答中の患者を熱心に励ましていたとのこと。ディケンズ氏は自閉症の人々が示した超能力的な力について、「自閉症患者が最も近しい人々と共有する、非常に明瞭なテレパシー通信によるもの」であるとの仮説を立てています。


エピソードが進むにつれ、ディケンズ氏は自閉症の人々が持つテレパシーによるコミュニケーション能力は、あくまで超能力の一部分に過ぎないとほのめかします。第3話では、世界中の話せない人々が「the Hill」と呼ばれる霊界に集まって会話しているという物語が展開されるほか、第7話ではエミリアという自閉症の少女が古代エジプトの象形文字を解読するというエピソードが登場します。ディケンズ氏らが、なぜ古代エジプトの象形文字を読めるのかとエミリアに尋ねると、文字盤を使って一文字ずつ、「神が教えてくれた」のだと答えました。

また、テレパシー・テープスには「電気技師から超心理学者に転身した博士が超能力について語る」「ケンブリッジ大学出身の研究者が人間と犬のテレパシーに関する実験を解説する」といったパートも挟まり、自称科学者らがこれらの現象を解明しようとする試みも行われています。ある場面では、量子もつれの概念がテレパシーの説明として提示されていたそうです。

ディケンズ氏自身もこれらの解説が荒唐無稽であることは認めていますが、そもそもテレパシー・テープスに登場する不思議な出来事の説明がつかないのは、「現実に対する人々の認識自体に深刻な欠陥があるため」だというスタンスを取っています。ボイラード氏は、「結局のところ、自閉症のテレパシーを主張する議論は信仰に依存しています。具体的には、非言語的思考を通して伝えられる思考はすべて正確であるという、ただひとつの仮定への信仰です」と指摘しています。


一般に発話困難な自閉症患者は、信頼できる様々な拡大・代替コミュニケーション技術(AAC)を使用しています。手話や鉛筆といった方法でコミュニケーションが可能な場合もあれば、触覚ボードやデジタルイラストボード、合成音声アプリといった方法でコミュニケーションを取る場合もありますが、補助的なAACは保護者や介護者にとって物足りない場合も多々あるとのこと。

たとえばボイラード氏の兄は、「シンプルなイラストが描かれたカードをマジックテープで順番に貼る」という方法を散発的に利用しており、何が食べたいかを尋ねると「エビ」や「チキン」のカードを貼るなどしてコミュニケーションを取っています。しかし、これでは食材をどのように調理してほしいのか、どういう付け合わせがほしいのか、家で食べたいのかそれとも外食したいのかといった細部は伝わりません。

一方でテレパシー・テープスに登場する自閉症の人々は、介護者が持った文字盤を指さし、その内容を介護者が読み取るという「Spelling(スペリング)」と総称される方法でコミュニケーションしています。これは一種の共同作業的なものであり、介護者はメッセージの解釈を手伝うだけでなく、メッセージの誤りを正したり、自閉症の人のガイド役を務めたりすることもあるそうです。

ボイラード氏は、これらのスペリングは「ファシリテイテッド・コミュニケーション(FC)」という、現代では科学的に否定されたコミュニケーション法を踏襲したものだと指摘しています。実際、ディケンズ氏もスペリングがFCの精神的な後継者であると認めていますが、FCは障害者差別主義者の大衆によって不当に無視されたとさりげなく示唆しており、テレパシー・テープス内ではFCにまつわる歴史的な問題点は都合よく無視しているとのこと。


FCはオーストラリアの教育者だったローズマリー・クロスリー氏が、1970年代半ばに発表したコミュニケーション法です。クロスリー氏は脳性まひと重度の知的障害だと診断された10代の少女を介護する中で、「不安定な少女の腕を支えながら、単語や文字ブロックを指で選ばせる」というコミュニケーション法を編み出しました。

すると、少女は正式な教育を受けていなかったにもかかわらず、わずか3週間で完璧な文章をつづれるようになりました。さらに、高度な数学や国際的な核政策についての話題にも精通していることが判明し、クロスリー氏は「漏れ聞いた会話やテレビを通してこれらの話題を学んだのだろう」と推測したとのこと。最終的に少女は劣悪な生活環境から脱出したいという願望を表明し、人文科学の学位を取得して、クロスリー氏との共著で回顧録を執筆しました。これらのエピソードはオーストラリアの人々を感動させ、精神病院や精神科で長らく続いてきた障害者への人権侵害について、多くの人々が考え直す機運をもたらしたとのこと。

一方、オーストラリアの科学界はFCについて懐疑的でしたが、「障害者らの自由に向けた有望なステップを邪魔してしまうのではないか」という不安から、長らく科学界は沈黙を続けたそうです。1987年になってようやく、オーストラリアのトップクラスのコミュニケーション専門家たちが結集して、FCについて「介護者の思考や偏見がメッセージに介入する恐れがある」との懸念を表明するに至りました。

しかしFCはオーストラリア国外にも広まっており、1990年代には北米でも熱狂的に迎え入れられ、FCの介護者を訓練するための施設も開設されました。その後、「言語的コミュニケーションができなかった子どもたちが予想をはるかに超える読み書き能力と知性を発揮した」という報告が相次ぎましたが、同時に「子どもたちが『家族や身近な人々から性的虐待や暴力を受けた』と証言した」という事例が急増したとのこと。

確かに、一般人口と比較して知的障害を持つ人の虐待率は著しく高く、その加害者が主要な介護者や障害者支援サービス提供者であることも事実です。それでも、FCを実践する人の少なさに対して事例の数は異常であり、非言語コミュニケーションを取ることが可能な自閉症患者による報告件数を圧倒的に上回っていました。


FCを通じた虐待報告を受けて、信頼されていた教師が解雇されたり、献身的な保護者らがレイプ疑惑をかけられたり、刑事告発に至ったりするケースが相次ぎました。そんな中、1993年には16歳のベッツィ氏という自閉症患者がFCを通じて「両親や兄弟、祖父母に至る家族全員」を性的虐待で告発するという事件が発生し、予防措置としてベッツィ氏は家族と離れ里親の元で暮らし始めました。ところが、家族と離れている間にベッツィ氏の体重は約4.5kgも減り、両目にあざができ、重度の耳の感染症を放置されるなど深刻な衰弱を呈したとのこと。

耐えがたい肉体的苦痛を示していたはずのベッツィ氏が、FCでは何ひとつ不快感を表明しなかったことで、捜査官たちは何かがおかしいことに気づきました。そこで地元の弁護士は「ベッツィ氏は本当にコミュニケーション能力があるのか?」と疑問を持ち、当事者間の合意を経て、ボストン小児病院のハワード・シェーン医師がベッツィ氏の検査をすることとなりました。

シェーン氏はFCを通じたメッセージを作っているのがベッツィ氏本人なのか、それとも介護者なのかを判定するため、客観的な二重盲検法を考案しました。この実験は、表向きは「ベッツィ氏と介護者に同じ写真を見せて、見た内容をFCで伝えるように指示する」というものでしたが、実はベッツィ氏と介護者に見せられた写真はそれぞれ異なっていました。つまり、真の実験内容は「ベッツィ氏にはカップ(cup)の写真を見せ、介護者には帽子(hat)の写真を見せた場合、FCを通じて伝えられるメッセージは何か」というものでした。

実験の結果、ベッツィ氏と介護者が同じ写真を見せられた場合、ベッツィ氏は正しい単語を伝えました。ところが、ベッツィ氏に「カップ(cup)」の写真を見せて介護者に「帽子(hat)」の写真を見せた場合、FCを通じて伝えられた単語は「hat」でした。これは写真が「ボート」と「サンドイッチ」、「犬」と「スニーカー」といった異なる組み合わせになった時も同じで、FCでは一貫して介護者が見た写真の単語が伝えられたとのこと。

結局ベッツィ氏の家族は無罪放免となりましたが、この実験結果は意図的かそうでないかにかかわらず、FCでは介護者がメッセージの内容に介入していることを示唆しました。この件をきっかけに、2014年までに合計360人以上を対象としてFCの正確性を検証する実験が行われましたが、シェーン氏が考案したような二重盲検法を突破した被験者はほぼゼロでした。この結果に最も驚いていたのは介護者自身であり、メッセージの捏造(ねつぞう)は本人たちも無意識のうちに行われていたと考えられます。


科学的に否定されたFCですが、隆盛から約30年が経過して歴史的な汚点を知る人も少なくなってきた現代で、再びテレパシー・テープスに登場する「スペリング」のような形で復活を遂げています。スペリングの手法はFCとやや異なるものの、介護者は手に持った文字盤を微妙に動かすことが可能であり、また無意識の動きや視線によって自閉症の人々の動きを誘導していることも考えられます。実際、テレパシー・テープスが有料コンテンツとして公開している「テレパシーの証拠動画」をボイラード氏が確認したところ、介護者がメッセージの作成に介入しているさまざまな証拠が確認できたそうです。

しかし、コミュニケーションが取れない自閉症の人々とコミュニケーションを取りたいという保護者らの思いは切実で、非難することは難しいとボイラード氏は認めています。ボイラード氏の祖母も、30年にわたり「ボイラード氏の兄とコミュニケーションが取れるように」と神へ祈っており、ある日「夢の中で兄と話すことに成功した」と確信を持って語ったことがあるとのこと。

ボイラード氏は、「夢の本質をより深く理解していると主張したり、祖母に抑えきれない喜びをもたらした信念に異議を唱えたりできる者が、私たちの中にいるでしょうか?」「真実を指摘する行為は、大多数には想像もつかない苦難を耐え抜き、何ひとつ過ちを犯していない人々の夢を、有望な代替案すら示さずに打ち砕く危険を伴います」と述べています。

それでもボイラード氏は、重度自閉症の患者が他の人々と同様にコミュニケーションを取ることが可能であり、さらに隠された能力まで持っているという説は危険だと指摘しています。ボイラード氏は、「兄の素晴らしさは、他人と同じであることに依存しません。彼は、恐怖をあおる人々が想定するすべての最悪の事態を象徴しています。彼が永遠に苦しみ続けることもあれば、私が決して知り得ないこともあります。そんなことはどうでもいいのです。彼は困難も含めて、魅力的で素晴らしい存在なのです」「私は、兄は人間でありそれ以上でも以下でもないと、世界に伝えたいのです」と呼びかけました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
アルツハイマー病治療薬が自閉症の子どもの社会的能力を改善する可能性があると臨床試験で示される - GIGAZINE

どうやって女性は自閉症をカモフラージュしているか? - GIGAZINE

自閉症の人は重大な違法行為や間違いを見逃さず「傍観者効果」に屈する可能性が低いとの研究結果 - GIGAZINE

「自閉症の人はボードゲームが好き」は本当なのか?が研究で判明 - GIGAZINE

自閉症の感覚特性の要因は「神経活動の過剰なばらつき」である可能性 - GIGAZINE

自閉症の謎に迫るさまざまな研究で膨らむ解明への期待 - GIGAZINE

自閉症の子どもを80%の精度で識別できるビデオゲームが登場 - GIGAZINE

自閉症の子どもたちの歩き方に特徴が現れるのはなぜか?どんな支援が有効なのか? - GIGAZINE

自閉症について改めるべき4つの誤解 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article Why do people believe the podcast 'Telep….