サイエンス

どうやって女性は自閉症をカモフラージュしているか?

by Talles Alves

脳機能障害の自閉症は男性よりも女性の方が発症率が低いとされています。そんな、自閉症を患う女性は、症状が治まるように病気について勉強するケースが多く、結果として、精神的に追い詰められてしまう事例が出ているそうです。

How Girls and Women "Camouflage" Their Autism - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/health/archive/2018/02/women-camouflaging-autism/553901/

45歳の時に自閉症だと診断を受けたジェニファーさん。親類や親しい友人を除き、周りの人々はジェニファーさんが自閉症であることを知りません。ジェニファーさんが変わった行動を取りそうなときには両親や友人らが強制的に止めてきたため、この年になるまで自閉症であることがわからなかったのではないかと、ジェニファーさんは自分自身のことを語っています。

The Atlanticの記者であるフランシーン・ルッソさんはジェニファーさんと数週間にわたってメールでやり取りを行う中で、ジェニファーさんが自身の自閉症を隠すために行っているトリックを一部教えてもらったそうです。そのトリックというのは、例えば誰かとコミュニケーションを取る際、相手の目の間を見つめるのではなく、目の奥を見つめるようにすることなどです。これはジェニファーさん自身は不快な気持ちになるそうですが、自閉症であることを隠すにはうってつけの方法とのこと。

by Clem Onojeghuo

メールでのやり取りのあと、ルッソさんとジェニファーさんはSkypeなどのビデオチャットを用いてコミュニケーションを取ることとなります。ジェニファーさんは顔を合わせてインタビューを受けることに緊張していると告白してきたそうですが、ルッソさんの目には緊張感がしっかり隠されているように映ったとのこと。しかし、実際には緊張を隠すためにジェニファーさんはガムを噛みながらカメラに写り込まない机の下で足をパタパタさせることで気を紛らわしていたそうです。ルッソさんから見てジェニファーさんが緊張しているとわかるサインは、「髪をかき上げるしぐさくらいだった」と述べています。

ビデオチャットでのインタビューは1時間以上にわたって行われました。その中で、ジェニファーさんが48歳の作家であることや、日常生活の中でコミュニケーションや社会的なつながりに難しさを感じていることも明かしています。ジェニファーさんは作家という職業上、文章で自身を表現することは簡単にできますが、顔を合わせてのコミュニケーションではそのようにうまくはいかないと打ち明けています。「即時性のある意思の疎通では私の中で起きる情報処理が混乱してしまうんです」とジェニファーさんは語っています。

また、ジェニファーさんは突然感情が爆発することがあるそうで、そういった場合のための行動方法も練習しているといいます。例えば、息子と誕生日パーティーに出席する場合、ジェニファーさんは自身の姿勢や習慣的な悩みを矯正するために自分自身を「オン」の状態にするとのこと。また、会話を続けるために「これは驚いた!」や「やるからには思いっきりやるんだ」などの聞き慣れたフレーズを使うようにしているそうで、これについてジェニファーさんは「私がうなずけば無関心だとは思われません」と述べています。

by Cory Gazaille

科学者によると、ここ数年間でジェニファーさんのように多くの女性が自閉症の兆候を隠しているそうです。自閉症は男性の方が女性よりも3、4倍も発症率が高いという研究結果が出ていますが、これは巧みに自閉症であることを隠す女性が多くいることと関係があるかもしれない、とThe Atlanticは記しています。また、若い女性が重度の自閉症の症状を示し、高度な学力を持った女性が年を取ってから自閉症であると診断される傾向にあることとも関係しているかもしれません。

ほぼ全ての人が社会的規範に合致したり社会基準に適合したりできるように、自分自身に細かな調整を加えて日々の生活を送っています。自閉症の女性はそういった調整を人間関係やキャリアを維持するためにも行っているわけですが、それによる利益もある一方で、身体的・精神的疲労も大きくなることは明らかです。


「自閉症を隠すこと(カモフラージュ)はしばしば絶望的で、潜在的な生存競争でもあります。これは重要なポイントです。カモフラージュは現実をナビゲートするための自然な適応戦略として発展することが多いと考えています。多くの女性にとって、自閉症が適切に診断・認識されるだけでなく、そのような自身が受け入れられることこそが重要」と語るのは、スウェーデンのリンショーピング大学で神経科学の助教授を務めるカイサ・イゲルシュトルムさん。

それでも自閉症であることを隠すすべての女性が早くに自身の症状について知りたいと思っているとは限らず、研究者たちはこの問題が複雑であることをしっかりと認識しています。正式な診断を受けることは女性が自分自身をより良く理解し、より大きな助けを得ることにつながりますが、女性にとってはこれが「自分を厄介者として捉える」きっかけとなり、自分自身を非難することにつながる可能性もあります。

by Mario Azzi

女性よりも圧倒的に多くの男性が自閉症であると診断されていることから、静かだったり社会的に苦しんでいる女性を見ても、「自閉症かもしれない」と医者が考えるとは限りません。ロンドンの臨床心理学者であるウィリアム・マンディさんやその同僚たちは、病院をたらい回しにされる女の子を日常的に見かけると話しています。しかし、時間が経過するにつれてマンディさんたちは自閉症の男の子と女の子では全く違って見えることに気づき始めます。そして、複数の女性や女の子を調査する中で、自閉症の兆候は見られないものの、自閉症の症状を巧みに「カモフラージュ」する様子も観察できるようになります。

実際、2016年に公開された研究では知能指数が高い自閉症の女性は、自身の症状をカモフラージュするのが一般的であることが判明しています。加えて、医者が自閉症の女の子を判別できない理由としては、自閉症の男の子は過活動で見分けやすいのに対して、女の子は不安が強くうつ病のように見るためであるとマンディさんは指摘。他にも、アメリカの研究者たちが自閉症の子どもたちを調査したところ、自閉症の女の子は他の女の子に近づく傾向があるのに対し、自閉症の男の子は自分ひとりで遊びがちであるという傾向も明らかになっています。これらの研究結果を見ても自閉症の女の子が見逃されがちになることは明らかです。

大人になってから自閉症であると診断されたデレーンさんは、幼少期から自身と他の女の子たちがあまりにも違っていると感じていたそうです。しかし、自分の好きな女の子たちについて学び、「相手が好きなものはすべて好きなふりをし、相手が行く場所にはすべてついて行けば、相手は自分を受け入れてくれるでしょう」と、自身の経験から自閉症でも周りに受け入れられるための方法はあると語っています。

また、幼少期に自閉症を見つけるための「自閉症診断観察スケジュール(ADOS)」などの手法は、男の子向けに設計されているので、女の子の自閉症は往々にして見逃されがちであるとワシントンDCの自閉症スペクトラム障害センターで働くリード・ラトさんは語ります。

by Erik Eastman

自閉症であることをカモフラージュする女性たちは、それぞれが独自の方法で対処方法を編み出しています。例えば、会話を始めることが苦手な場合は、話の始めに笑う練習をしたり、冗談を練習したりしたそうです。ジェニファーさんの場合、他の人の行動やジェスチャー、言葉遣いなどを学び、自分が思ったまま話せるようにしばしば鏡の前で練習するそうです。

また、デレーンさんは予定外の状況などでイベントが時間通りにスタートせず自分の中のイライラが爆発しそうな時などに、自分の不安定な状態を周囲に気取られないようにするため、あえて「怒ってるから集中できないの。だから今話すことはできないわ」と相手を突き放すそうです。

さらに、ライさんいわく「多くの自閉症の人にとって、自己刺激行動は自分を落ちつかせたり自制したり不安を和らげるための手段となっている」とのこと。この「自己刺激行動」には、手を振ったりその場で回ったりひっかいたり頭を叩いたりするというものがあります。

by Dmitry Ratushny

これらの方法はかなりの努力が必要なものであることは明らかです。ルッソさんがインタビューした自閉症の人々は、そのほとんどが精神的・身体的・感情的に完全に疲れ切っていると語っています。ある女性は長時間カモフラージュしたなら、しばらくの間回復するために胎児のポーズで小さく丸くなる必要があると語りました。

また、中には自分が周囲の人に対してウソをついていると感じており、自分たちの友情は本物のものではなく孤独を感じていると説明する人もいます。カモフラージュを巧みにコントロールするには、例えば数分間だけ浴室に逃げたりイベントから早めに離れたりと、休息を取ることが重要と考えられます。デレーンさんは「私は自分自身をより良く世話する方法を覚えた」と、自閉症をカモフラージュする手法との付き合い方について説明しています。

by Sydney Sims

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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