サイエンス

自閉症について改めるべき4つの誤解

by hepingting

ニュース雑誌TIMEの企画「2011年ベストTwitterフィード」に選ばれたこともあるライターのスティーヴ・シルバーマンさんが、「自閉症についての“神話”を払拭する時」と題して、自閉症について一般に持たれている誤解を1つ1つ解いています。

BBC - Future - It’s time we dispelled these myths about autism
http://www.bbc.com/future/story/20151006-its-time-we-dispelled-these-myths-about-autism


そもそも「自閉症」は、ジョン・ホプキンス大学の小児精神科医レオ・カナーが1943年に報告したものが始まりです。カナーは患者の症状についてはかなり正確に把握していましたが、一方でその発生原因については「母親が子どもに対して愛情や感情表現を示さなかったこと」と、大きな誤解をしていました。

そしてこの考え方は、のちに精神分析学者ブルーノ・ベッテンハイムが主張した「冷蔵庫マザー理論」へとつながります。今でこそ、自閉症は後天的な要素によるものではなく、脳機能の働きから来る先天的な発達障害であると考えられていますが、この「冷蔵庫マザー理論」は自閉症患者とその家族に払拭できないダメージを与えました。それでもなお、今でも改められていない間違いや誤解もあります。

◆1:「かつて自閉症は希なものだったが、今では一般的なものになった」という誤解
1970年代、自閉症の罹患率は1万人に1人でしたが、現在は1万人に68人が自閉症だといわれています。しかし、これは自閉症患者が増加したからではなく、自閉症だと診断される人が増えたためです。つまり、今になって一般的になったのではなく、昔から自閉症の人はいたがその診断が下されていなかっただけだというわけです。

レオ・カナーのもとには当時、遠く南アフリカからも自閉症の診断に訪れる患者がいましたが、「10人のうち9人には自閉症だという診断を下さずに帰ってもらっていた」ということを自慢していたそうです。カナーによる自閉症の診断基準は極めて厳しく、現代では自閉症患者が思春期になるとてんかんを併発することがあるということは知られていますが、カナーはてんかんを発症している患者は自閉症だとは診断しませんでした。しかも、自閉症は親に原因があるという主張をしていたため、親たちはよかれと思って子どもたちを施設に送り、そこで子どもたちはいわば「実験材料」として扱われる……という悲劇もあったとのこと。自閉症の診断を受けるためには何度も足を運ばねばならず、そんなことができるのは一部の人たちだけでした。

状況が改善されたのは、自身の娘が重度の自閉症だった精神科医ローナ・ウイングの登場によります。ウイングは同僚のジュディス・グールドとともに研究を進め、あまり広く知られていなかったオーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーによる「アスペルガー症候群」に関する論文を発見。これをふまえて、1981年に「アスペルガー症候群-臨床報告」という論文を発表しました。そして1990年代に入り自閉症スペクトラムを提案。自閉症スペクトラムの診断基準として「社会性障害」「コミュニケーション障害」「想像力(イマジネーション)障害」の3つを挙げました。ウイングとグールドはアメリカ精神医学会とともに自閉症の診断基準を広げ、自閉症スペクトラムの多様性が反映されるようになりました。カナーは自閉症を子どもが発症するまれな精神病だと考えていたようですが、ウイングらの研究により、自閉症は生涯続く発達障害である、ということが明らかにされました。

1988年にダスティン・ホフマンが自閉症の成人を演じ、その弟をトム・クルーズが演じた映画「レインマン」が公開されたのも大きな転機となっています。「レインマン」のおかげで専門的に研究をしている人以外にも自閉症のことが広く知られるようになり、自閉症の診断も多くなされるようになりました。


しかし1998年、消化器病学者アンドリュー・ウェークフィールドが「新三種混合(MMR)ワクチン予防接種で自閉症になる」という、この診断増加をワクチンに理由づけた論文を発表しました。この論文は2010年に撤回されていますが、一時はこの論文を信じた人の数がそれなりにいて、予防接種を受けなかったために麻疹が広がったという事例も起きました。

◆2:「自閉症患者は共感能力が欠如している」という誤解
1990年代にアスペルガー症候群を扱ったニュースの中で、自閉症の人たちは社会病質者と同じように無感情な機械人形のようであるという表現が用いられることがありました。同様のことは臨床文献やメディアの中にもたびたび登場し、MSNBCで朝のトークショー番組「Morning Joe」の司会をしている弁護士・作家のジョー・スカボロー氏は「大量殺人者の多くがスペクトラム障害(自閉症)である」とまで発言しています。

確かに自閉的特徴には、対人関係において相互的関係を作ることが難しかったり、意思疎通が困難だったりする点が挙げられます。しかし、だからといって「共感能力」がないというわけではなく、周囲の人たちの感情を読み取って、表情や身振り、声色などで理解しているという信号を発しようと努力しています。

反対に、ニューロティピカル(自閉症ではない人たち)の方からも、自閉症の人たちがどのように考えているのかを知ることが重要であるとシルバーマンさんは指摘しています。それは「共感」というのが一方通行で行うものではなく、双方向のものだからです。

◆3:全ての自閉症の子どもたちに対して、「自閉症だと気づかれないようにする」ということを目標にする過ち
発達障害への有効な療育・指導方法として「応用行動解析(ABA)」と呼ばれるものがあります。これは、1980年代にカリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学者オーレ・アイヴァー・ロヴァースが提唱した、自閉症の子どもたちにニューロティピカルな子どもたちならどう行動するかを「指導」していくというものです。

もちろん、これが効果を発揮したという人もいると思いますが、ロヴァース式ABAを受けて成人したジュリア・バスコムさんは、当時のことを「トラウマ」で「生涯に不安を与えられた」と振り返りました。バスコムさんは「静かな手」というエッセイの中で、「私は少女時代、自閉症でした」「あなたが自閉症であるなら、それ(ABA)は虐待ではなく、治療なのです」と、ABAを虐待のように感じていたことを匂わせる文章を書いています。

臨床学者のバリー・プリザントは、著書「Uniquely Human: A Different Way of Seeing Autism」の中で、自閉的行動を尊重するように親や臨床医に呼びかけており、「自閉的な振る舞いを正す」ということは、自閉症の子どもを「理解すべき個人」ではなく「解決すべき問題」と捉えているのと同じと指摘。もっと大事なことは、その自閉的な振る舞いが何に動機づけられたものなのか、その型(パターン)の基礎になっているのは何なのか、掘り下げていくことだと語っています。

プリザントがエミー・M・ウェザビーらと進めているのが、「社会コミュニケーション(自発的なコミュニケーションと人間関係の形成)」「情動調整(学習や行動のための情動の調整)」「交流型支援(自閉症スペクトラム障害児にかかわる家族・専門家等へのアプローチ)」の3つの領域で発達的向上を支援する、SCERTS(サーツ)モデル。子どもと家族を中心に置いたモデルにより、専門家や養育者が、障害のある人のコミュニケーションや相互関係などを様々な状況・相手において改善することに取り組めるとのこと。

SCERTSモデル(サーツモデル) 1巻 アセスメント|日本文化科学社
http://www.nichibun.co.jp/book/detail/?id=14


ただし、ABAにおいても大人の都合で子どもたちを動かすのではなく、子どもたちの主体性や意思を尊重し、バスコムさんのように「ABAが虐待である」のように感じないような方法で療育成果を上げているところもあり、また、SCERTSモデル以外にもいろいろな方法が試みられています。「自閉症」といっても中身がいろいろであるように、療育方法にもたった1つの正解があるわけではないので、シルバーマンさんとしては「療育方法はABA以外にもある」ということを示したいのだと考えられます。

◆4:子どもたちのことを"流行の病気"の自閉症であると「過剰診断」してしまっていること
自閉的特徴の中には「偏執的に興味を持つ」というものがありますが、こうした特性は程度こそ違えども、ニューロティピカルな人でも持っているものです。この「偏執的な興味」という表現も「偏執」という言葉がネガティブに見えますが、「趣味に情熱的に打ち込んでいる」と言い換えることも可能です。

ウイング氏が好きだったウィンストン・チャーチルの格言の1つに「自然は決して線を引かないが、しみを作る」というものがあるそうですが、この格言のように自閉症と非自閉症との間にははっきりとした線が引かれているわけではなく、大きなグレーゾーンが存在しています。重度の自閉症の人とは会えばわかるかもしれませんが、自閉症発現型(BAP)と呼ばれる極めて軽い自閉症の人の場合、そうだと知らなければ「ちょっと変わった人だな」と思われる程度の違いしかありません。

また、自閉的特徴の「偏執的な興味」が高じると超人的な能力につながることがありますが、超人的な作業能力を持つ人物としてYahoo!のマリッサ・メイヤーCEOが知られています。また、Facebookのマーク・ザッカーバーグもそうした特徴を持つ「変わり者」です。彼らが自閉症であるというわけではありませんが、自閉症と診断されていて特殊な能力を持っている人と区別するのは難しいかもしれません。

こうしたことをふまえて、シルバーマンさんは自閉症を障害ではなく「違い」ではないかと指摘しています。生活の全方面に影響が出るものの、車いすの人のために歩道と車道との境では縁石が低くされていたりスロープがつけられていたりするように、自閉症の人にとっての「スロープ」に相当するものを社会が用意することは不可能ではないはず。シルバーマンさんはTEDで、自閉症の女性ゾシア・ザックスさんの「人間性という船をまっすぐ進めるには船上にいる皆の助けが必要なのです」という言葉を引用しています。みんなが一緒に困難に立ち向かうことで、何らかの助けが見出せるかもしれません。

スティーヴ・シルバーマン: 忘れられていた自閉症の歴史 | TED Talk | TED.com
https://www.ted.com/talks/steve_silberman_the_forgotten_history_of_autism?language=ja

・2015/10/15
ABAとSCERTSについて追記を行いました。

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in サイエンス, Posted by logc_nt