サイエンス

自閉症の感覚特性の要因は「神経活動の過剰なばらつき」である可能性


社会性の障害や他者とのコミュニケーション能力に障害などが生じる「自閉症」を持つ約90%の患者には、音に対する感受性の高まりや、特定の匂いへの嫌悪感を示すといった、感覚に関する問題があるとされています。フランス国立衛生医学研究所(INSERM)の主任研究者であるアンドレアス・フリック氏らの研究チームが、これらの問題は「脳内の神経細胞における電気活動でのノイズが変動することが原因」という可能性を示しました。

Endogenous noise of neocortical neurons correlates with atypical sensory response variability in the Fmr1−/y mouse model of autism | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-023-43777-z

Noisy brain may underlie some of autism’s sensory features | The Transmitter: Neuroscience News and Perspectives
https://www.thetransmitter.org/spectrum/noisy-brain-may-underlie-some-of-autisms-sensory-features/


自閉症患者のうち、音に対する感受性の高まりや、特定の匂いへの嫌悪感など、感覚の問題を報告する割合は、約90%とされています。また、これらの感覚を味わうため、多くの自閉症患者が自ら大きな音を立てたり、前後に揺れたりする傾向があるとのこと。

一方で、これらの問題の原因は明らかにされておらず、これまで「神経が過敏になっている」「感受性が低下している」といった対立する2種類の考え方が主流でした。しかし、フリック氏は「これらの問題の要因はもっと複雑なものであることが明らかになりつつあります」と報告。

自閉症患者と健康な人を対象としたこれまでの研究では、映像を視聴した際の脳波に大きな違いがあることがわかっています。また、fMRIを用いた調査では、自閉症患者の中でも結果にばらつきがあることが報告されています。そのため、自閉症患者における感覚の問題は、脳の反応の一貫性のなさから生じる可能性が示唆されています。


フリック氏らの研究チームは、自閉症を発症する要因と考えられる「脆弱X症候群関連疾患」を引き起こす原因遺伝子である「FMR1」を欠損させたマウスを用いて調査を行いました。研究チームは健康なマウスとFMR1を欠損させたマウスに対し、「パッチクランプ法」を用いて足に繰り返し電気刺激を与えました。その際、研究チームはマウスが触覚を処理する脳領域である「体性感覚領野」のニューロンの活動のモニタリングも行いました。

調査の結果、健康なマウスは足に電気刺激が与えられるたびに同様の反応を示しました。一方で、FMR1が欠損しているマウスに電気刺激を与えると、その度に電気刺激の大きさと応答を行う時間に大きなばらつきが生じたことが報告されています。


続いて研究チームは、マウスの神経細胞膜の電気的活動がどのように変化するのかを測定しました。調査の結果研究チームは、FMR1を欠損させたマウスの電気的活動の変化量は、健康なマウスにおける変化量の2倍に上ることを報告しました。また、神経細胞のノイズが変動すればするほど、触覚に対する脳細胞の反応のばらつきが大きくなることが判明しています。フリック氏は「この『刺激に対するノイズの変動』が、自閉症患者における神経過敏につながっている可能性があります」と述べています。

加えて研究チームは、FMR1を欠損させたマウスの脳波と健康なマウスの脳波が大きく異なることや、神経細胞の反応の変動と相関関係があることを報告しています。これらの結果は、脳波の乱れが自閉症と関連していると考えられている「感覚障害」の一因となっていることを示唆しています。


研究チームによると、マウスによる実験で判明した「感覚処理のばらつき」が自閉症患者で見られる感覚の問題を引き起こしている可能性があるとのこと。フリック氏は「音楽が流れるパーティー会場で、友人と話しているところを想像してみてください。音楽が流れる中でも相手の声の響きと唇の動きをマッチングさせる必要がありますが、感覚処理にばらつきがあると、これらの行動が難しくなり、その結果自閉症患者の人付き合いが困難になってしまいます」と述べています。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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