自閉スペクトラム症(ASD)の兆候を示す赤ちゃんへの早期介入が将来的にASDと診断される割合を減らす可能性
自閉スペクトラム症(ASD)とは、かつて自閉症・アスペルガー症候群・広汎性発達障害といった分類がされていた発達障害をまとめて表現する診断名で、対人関係の問題や強いこだわりといった特徴を持ちます。新たに、早期にASDの兆候が確認された乳児に介入することで、将来的にASDと診断される割合を減らすことができるとの研究結果が報告されました。
Effect of Preemptive Intervention on Developmental Outcomes Among Infants Showing Early Signs of Autism: A Randomized Clinical Trial of Outcomes to Diagnosis | Autism Spectrum Disorders | JAMA Pediatrics | JAMA Network
https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2784066
Therapy for babies showing early signs of autism reduces the chance of clinical diagnosis at age 3
https://theconversation.com/therapy-for-babies-showing-early-signs-of-autism-reduces-the-chance-of-clinical-diagnosis-at-age-3-167146
A Landmark Autism Intervention Study Has Shown Dramatically Reduced Diagnosis Rates
https://www.sciencealert.com/landmark-autism-study-on-intervention-for-babies-reduces-clinical-diagnosis-by-two-thirds
ASDの診断基準は、社会的相互作用や感情の往復の持続的な欠陥、友人に対する関心の欠如、反復的な動きや会話、刺激に対する極端または異常な反応といったものです。これらの診断は早ければ2歳頃から行われ、診断後に治療が開始されます。一方、アイコンタクト・模倣・社会的微笑・使う言葉が少ないといった初期のASDの兆候は、2歳より早い時期から見られる可能性があるとのこと。
そこでイギリスやオーストラリアの研究チームは、生後9カ月~14カ月の時点でASDの兆候を示した103人の乳児を対象にランダム化比較試験を行いました。研究チームは103人のうち50人を無作為に抽出し、5カ月間にわたり「iBASIS-VIPP療法」という介入療法を受けさせ、残りの53人には心理学者や作業療法士によるセラピーなど地域社会で受けられる通常のケアを提供しました。
iBASIS-VIPP療法は、授乳や遊びといった日常的な状況で親と乳児が対話する様子をビデオ撮影し、訓練を受けたセラピストがビデオをもとに「赤ちゃんがどのようにコミュニケーションを取っているのか」を親に教えるというもの。これによって親は乳児とコミュニケーションする際の手がかりを得ることができ、ASDの兆候がある乳児の社会的コミュニケーション能力の発達を手助けできるとのこと。なお、ASDの傾向は生まれつきのものであり、「乳児と親のコミュニケーションがASDの原因ではない」という点を研究チームは強調しています。
iBASIS-VIPP療法を受けた乳児と受けなかった乳児は、生後18カ月、2年、3年の時点で発達度合いの評価を受けました。この際に評価を行った臨床医は、乳児がiBASIS-VIPP療法を受けているかどうかを知らず、自分で収集した情報に基づいて乳児がASDの診断基準を満たしているかどうかを調べました。
3歳時点でASDの検査を受けた合計89人の子どものうち、iBASIS-VIPP療法を受けなかった子どもは44人中9人(20.5%)がASDだと診断されたのに対し、iBASIS-VIPP療法を受けた子どもは45人中3人(6.7%)しかASDだと診断されませんでした。子どもたちの多くは依然としてある程度の発達障害を抱えていたそうですが、iBASIS-VIPP療法は明らかに社会的コミュニケーション能力の発達をサポートしており、ASDの判断基準から脱出する成果が見られたと研究チームは説明しています。
論文の筆頭著者を務めた自閉症研究者のアンドリュー・ホワイトハウス氏は、今回の研究結果が子どものASD研究における重要な進展だと主張。「私たちは新しい臨床モデルを提供し、可能な限り人生の早い段階で(支援が必要な)子どもを特定し、子どもを助けたい人に支援的介入を提供することで、実際に自閉症の臨床基準を3分の2に減らすことができました」と述べました。
今回の研究結果は、実際にASDだと診断される前に積極的な早期介入を行うことが、乳児の発達をサポートできる可能性を示しています。一方、今回の実験では子どもたちが3歳になるまでしか追跡されておらず、今後の人生でさらにASDの症状が現れる可能性もあります。また、ASDに関する研究では単にASDを「根治」することだけではなく、ASDを抱えながら暮らす人々の生活を向上させることにも焦点を向けることが重要だとのことです。
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