サイエンス

よく献血している人は血液のがんになりにくいかもしれない


輸血や血液製剤のために必要な血液は、基本的に善意のボランティアによる無償の献血でまかなわれています。献血は多くの人々の命を救うことができる意義のある活動であり、新たな研究では「よく献血をする人は血液がんのリスクが低いかもしれない」という結果も示されました。

Clonal Hematopoiesis Landscape in Frequent Blood Donors | Blood | American Society of Hematology
https://ashpublications.org/blood/article/doi/10.1182/blood.2024027999/535979/Clonal-Hematopoiesis-Landscape-in-Frequent-Blood


Frequent blood donations promote the regeneration of blood cells through genetic adaptation - German Cancer Research Center
https://www.dkfz.de/en/news/press-releases/detail/frequent-blood-donations-promote-the-regeneration-of-blood-cells-through-genetic-adaptation

Beneficial genetic changes observed in regular blood donors | ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2025/03/250311121703.htm

Giving blood could be good for your health – new research
https://theconversation.com/giving-blood-could-be-good-for-your-health-new-research-252052

造血幹細胞は骨髄に存在する幹細胞の一種であり、赤血球や白血球、血小板などを作り出す役割を持っています。この造血幹細胞には生涯にわたってさまざまな遺伝子変異が蓄積し、やがて異常な遺伝子変異を持つ造血幹細胞に由来する血液細胞が増殖するクローン性造血という状態になります。

クローン性造血は60歳以上の人の10%、80歳以上では半数以上にみられる現象であり、白血病をはじめとする血液がんの前段階であるといわれています。しかし、献血を繰り返すことがドナーの造血幹細胞やクローン性造血に及ぼす影響はよくわかっていませんでした。

新たに、ドイツがん研究センタードイツ赤十字献血サービス、イギリスのフランシス・クリック研究所などの研究チームは、生涯に100回以上の献血を行った217人の「頻繁な高齢ドナー」と、生涯の献血回数が10回未満である212人の「散発的な高齢ドナー」から血液サンプルを採取し、クローン性造血や造血幹細胞の違いについて分析しました。


分析の結果、クローン性造血の発生率については、頻繁な高齢ドナーと散発的な高齢ドナーの間に有意な差はみられませんでした。しかし、クローン性造血によって影響を受けることが知られており、白血病患者で頻繁に変異する「DNMT3A」という遺伝子に着目すると、両者の間に違いがみられました。

頻繁な高齢ドナーでよく観察されたDNMT3Aの遺伝子変異は、ケガや献血で血液を失った後に放出されて赤血球産生を刺激するエリスロポエチンというホルモンを含む環境で、細胞の増殖を促すことがわかりました。

この突然変異は正常な血液形成のバランスを乱すことなく、失血後の血液再生プロセスを改善したとのこと。論文の筆頭著者であるドイツ赤十字献血サービスのDarja Karpova氏は、「これはまるで体が献血後のストレスにうまく対処し、失われた血球をより速く入れ替える特定の遺伝子変異を好んだかのようです」と述べています。

実際に研究チームが、頻繁な高齢ドナーでよく観察されたDNMT3Aの遺伝子変異をマウスに導入し、献血によるストレスを模倣したところ、がん細胞化することなく正常に赤血球の産生を促進することが確認されました。


なお、今回の研究は比較的少人数のドナーを対象に行われたものであり、献血により白血病などの血液がんのリスクが減少すると断言することはできません。また、献血をするには一定の健康基準を満たさなくてはならないため、頻繁に献血を行っている人はもともと健康状態が優れており、それが造血幹細胞やクローン性造血にも影響している可能性もあります。

しかし、過去の研究では献血がインスリンの感受性を改善し、2型糖尿病のリスクを軽減する可能性があることが示唆されているほか、献血が血液中の鉄分濃度を調整して心臓病のリスクを減らすといった説もあります。また、献血前には血圧やヘモグロビン値、脈拍などのチェックを行うため、これが簡易的な健康診断としても機能しているとのこと。

さらに2022年の研究では、定期的に献血することが体内に蓄積した化学物質を減らすことが示されています。

定期的に献血をすると健康にいいことが示される - GIGAZINE


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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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