献血の見返りに金銭を支払っても献血量が増えるとは限らない
輸血や血液製剤のために血液を提供する「献血」は、需要に対する献血量不足がしばしば問題となっており、海外では献血の報酬に金銭を支払う国も存在します。しかし「献血に対する金銭の報酬が献血量の増加につながるとは限らない」と、カーネギーメロン大学の心理学教授であるグレッチェン・チャップマン氏が指摘しています。
Paying all blood donors might not be worth it
https://theconversation.com/paying-all-blood-donors-might-not-be-worth-it-130576
日本においては、血液を提供する見返りに金銭を受け取る「売血」は、記事作成時点では「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」によって禁止されています。しかし、アメリカは先進国で唯一売血が法的に認められており、低所得者が自分の血液を売って報酬を得ています。また、それによって一定の血液を供給できており、2017年度のアメリカの輸出収入の2.3%を人や動物の血液輸出が占めています。
チャップマン氏は、「他人を助けたい」という願望と「見返りに何かを手に入れたい」という渇望、そして「他人から寛大な人に見られたい」という欲望がかなえられるため、血液を提供する見返りに金銭を得るという献血のシステムは理にかなっていると考えました。
by Army Medicine
そこで、チャップマン氏は社会心理学者のジェフリー・ドゥウィット氏と共同で、ラトガース・ニュージャージー州立大学の教職員と学生4528名に対して、献血の報酬として10ドル(約1100円)のギフトカードを贈る実験を行いました。
チャップマン氏らは実験への招待メールの中で、被験者の半数には「ギフトカードは献血への単なる謝礼です」と、残り半数には「ギフトカードは毎年2月に行われるアメリカ心臓月間の宣伝の一環です」と記しました。チャップマン氏によると「ギフトカードはアメリカ心臓月間の宣伝の一環」と半数に説明したのは、対象の被験者に「献血は人を助けるために行うもので、ギフトカードはたまたまもらえただけ」というイメージを与える狙いがあったそうです。
さらに、両グループの半数だけは「献血の重要性の認識を広めるために、献血マークを大きくあしらった包帯が腕に巻かれる予定」と追加で説明されたとのこと。チャップマン氏は、この実験には「ギフトカードを渡す理由」「被験者が献血したことを他人が知り得る状況」が被験者の行動にどう影響するかを確かめる意図があったと述べています。
by Steve Bowbrick
チャップマン氏やドゥウィット氏は「献血がお金ではなく個人の寛大さによって行われると強調された上で、献血する人の寛大さが客観的に明らかになる状況」、つまり「アメリカ心臓月間の説明を受けて、献血マークの包帯を腕に巻くと説明された時」が最も献血に応じる割合が高いと、実験前に予想していたそうです。
実験の結果、「アメリカ心臓月間の説明を受けて、献血マークの包帯を腕に巻くと説明された人」の2.51%が献血したことがわかりました。しかし、「ギフトカードは単なる謝礼と説明されただけの人」は実際に献血した割合は2.4%で、「アメリカ心臓月間の説明を受けて、献血マークの包帯を腕に巻くと説明された人」と大きな差はありませんでした。一方で、「アメリカ心臓月間の説明を受けただけの人」が献血に応じた割合は1.65%でした。また、「ギフトカードは単なる謝礼と説明され、献血マークの包帯を腕に巻くと説明された人」が献血に応じた割合は最も低く、わずか1.33%だったことがわかりました。
by Judite B
この結果からチャップマン氏は、被験者が献血に金銭の見返りを期待しているかどうかは、実際に献血に応じるかどうかには影響しない可能性があると指摘し、「献血の報酬として金銭を支払う価値はないかもしれません」と主張しています。また、「献血の見返りに金銭を支払うのであれば、献血する人が他人から寛容とみなされるような言い訳を用意すると最も効果的です」と述べました。
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