約2000年前のローマ帝国による支配が現代人の幸福や性格に影響を及ぼしていることが判明

ローマ帝国は最盛期にヨーロッパから中東、北アフリカにまたがる広大な領域を支配し、現代でも幅広い地域でローマ帝国時代の遺構を確認することができます。新たな研究では、「ドイツの中でかつてローマ帝国に支配されていた地域とローマ帝国外だった地域では、人々の幸福や性格に違いがある」ことが判明しました。
Roma Eterna? Roman Rule Explains Regional Well-Being Divides in Germany - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666622725000012

Ancient Roman rule continues to shape personality and well-being in Germany, study suggests
https://www.psypost.org/ancient-roman-rule-continues-to-shape-personality-and-well-being-in-germany-study-suggests/
近年は過去の歴史的背景が、現代人の健康や精神に及ぼす影響についての研究が注目を集めています。たとえば、ドイツは第二次世界大戦で敗戦国となったことでドイツ民主共和国(東ドイツ)とドイツ連邦共和国(西ドイツ)に分割され、1990年に再統一されました。再統一から数十年が経過した時点でも、旧東ドイツ地域と旧西ドイツ地域ではいまだに経済格差や労働習慣の差が残っています。
今回、オランダのアムステルダム大学で経済経営学部教授を務めるマーティン・オブションカ氏らの研究チームは、約2000年前のローマ帝国時代が現代ドイツ人に及ぼしている影響について調査しました。オブションカ氏は、「歴史と心理学の接点は、心理学研究においてますます注目されるようになっています。しかしこの分野では、最近の歴史的出来事にだけ焦点を当てるのではなく、古代史を考慮したさらなる研究が必要です」と延べています。
研究チームは、ドイツのローマ帝国に支配されていた地域とそうでない地域を区別するため、かつてローマ帝国が張り巡らした長城であるリーメス(リメス)に着目しました。以下の図で、左側を流れるライン川と右側を流れるドナウ川を結ぶ黒い線が、ローマ帝国が築いたリーメスの遺構を元に再現したローマ帝国の境界線です。リーメスの南(下)がローマ帝国の支配地域で、北(上)が非支配地域となっていました。リーメスは西暦150年頃に築かれ、275~276年にゲルマン人の侵略で放棄されるまで、1世紀以上にわたってローマ帝国の境界線として機能したとのこと。

ドイツを結ぶリーメスの一部は、主に2つのローマ属州を最短距離で結ぶ必要性から築かれており、地域の経済的・地形的な考慮事項を反映していないとのこと。これにより、ローマによる支配以前の経済状況や地形がリーメスの形成に影響を及ぼした可能性がある程度排除できます。
ローマ帝国は高い文明を持っており、支配した地域に他の地域と結ぶ道路インフラを建設したほか、ゲルマン人の住んでいた地域にブドウ栽培を導入するなど、文化的・経済的・社会的な進歩をもたらしました。研究チームはローマ帝国が築いた道路の密度を調べ、市場や鉱山の位置をマッピングし、さまざまな支配地域における経済投資の程度を評価しました。
研究チームはこれらの歴史的なデータと、2003年~2015年にかけて7万3000人以上の被験者から収集された性格データを利用しました。被験者は非営利のオンラインウェブサイト・Gosling-Potter Internet Projectを通じて、「開放性」「誠実性」「外向性」「協調性」「神経症傾向」という5つの特性を評価するビッグファイブ性格特性のアンケートに回答し、居住地についても報告したとのこと。さらに、ドイツの社会経済パネル調査(SOEP)を通じて生活および健康満足度、平均余命といったデータを収集し、地域ごとの幸福度について調査しました。
データを分析した結果、かつてローマ帝国の一部だった地域とそうでない地域の間で、性格特性と幸福度などに大きな違いがあることがわかりました。旧ローマ帝国領に住む人々は、そうでない人々と比較して外向性と協調性で高いスコアを得た一方、神経症的傾向はスコアが低く、全体的な心理的幸福感が高かったと報告されています。また、生活や健康の満足度が高く、平均余命はローマ帝国の影響で約6カ月も増加したことも示されました。

研究チームは、ローマ帝国による支配が現代ドイツ人の幸福度や性格に及ぼす影響は、現代の経済的繁栄によって媒介されていることも発見しました。これは、ローマ帝国によるインフラ整備の恩恵を受けた地域が持続的な経済成長を経験し、それが心理的な幸福や適応的な性格特性を育んだことを示唆しています。
オブションカ氏はPsyPostに対し、「さらなる分析によると、ローマの道路・市場・鉱山といった貿易インフラへの経済投資が、この長期的な効果を生み出す上で非常に重要だったことが示唆されています」「古代史はこれまで考えていたよりも、今日の人々の心理に大きな影響を与えている可能性があります。ローマ帝国の支配は約2000年前に終わりましたが、その遺産は今日のマクロ心理学の風景にまだ見られます」とコメントしました。
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in サイエンス, Posted by log1h_ik
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