赤道からの距離が人の幸福・個人主義・攻撃性を大きく左右する

by Kyle Glenn

人の幸福を左右する最も重要な要素はお金でも地位でもなく人間関係であることが数十年間続くハーバード大学の研究から明らかになっていますが、一方で、人間の幸福には地理的な環境も大きく関わっているという主張もあります。オランダのアムステルダム自由大学の心理学者であるポール・ラング氏が新たな研究で、「赤道からの距離」がいかに人の幸福度・個人主義・攻撃性を形作るかを明らかにしました。

Latitudinal Psychology: An Ecological Perspective on Creativity, Aggression, Happiness, and Beyond - Evert Van de Vliert, Paul A. M. Van Lange, 2019
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/1745691619858067

Latitude Adjustment: Distance from the Equator Shapes Our Thinking - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/latitude-adjustment-distance-from-the-equator-shapes-our-thinking/

過去10年の研究で、人間の幸福と国の位置との関係にパターンがあることが示されており、赤道から遠く離れたデンマークやニュージーランドといった国は、赤道にほど近いベトナムやカンボジアよりも幸福度が高いことが示されてきました。人間の心理と文化を地図の上で展開する「緯度心理学」を研究するポール・ラング氏によると、赤道に近い場所で幸福度が低下するのは、熱帯の気候のせいで経済発展の機会が少なく、ゆえに個人的成長の可能性が限られているためとのこと。

緯度は気温や降雨量などと大きく関連し、文化的特徴を作ります。もちろん、気候は国の豊かさやウイルスのまん延といった生態学的リスク、自然災害とも相互関係にあるため、緯度だけが文化的特徴を作るたった1つの要因とすることはできません。これらが全て関係しあって幸福といった要素に影響を与えている、とラング氏は説明しています。

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いくつかの研究では、赤道から離れた国では、人々がより時間に厳密になることが示されています。一方で、赤道に近い国の人は時間ではなく「出来事」を重視する傾向にあります。前者では「時は金なり」という言葉が、後者では「時間をかけて」という言葉が重んじられるようになるとのこと。これは、赤道から距離のある国では季節の変化が大きく、農耕に時間と計画が大きく関係しているためだとみられています。

同じ国の中でも、赤道からの距離が違う場所で異なる文化が存在することがあります。中国南部の米農家が多い地域の人々は、小麦農家が多い北部に住む人々に比べ、個人主義の傾向が小さく、集団主義になる傾向が高いといわれています。これは、米農家が互いに協力しあうことで経済的利益を得やすいのに対し、小麦農家は個人として動くことがほとんどだからだと研究者は述べています。

ラング氏らの新たな研究では、赤道から離れた国では幸福度に加えて「個人主義」と「クリエイティビティ」の2つのレベルが高く、攻撃性が低いことが示されました。ラング氏は、分析により、この理由として2つの要素を明らかにしました。

1つは「豊かさ」です。赤道から離れている国は平均的にみて豊かになりやすく、高いレベルの教育を受け、自律性を持ち、個人的成長を得やすいとのこと。いずれの要素も人の幸福・個人主義・クリエイティビティと大きく関係する要素です。また生存競争や緊急事態、問題に対して紛争が起こりにくい環境にあったため、豊かな国では攻撃性が低くなったとも考えられます。

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2つ目は「自然の脅威」という要素だとラング氏は述べています。マラリアのような病原体や、ヘビなどの有毒な生き物、洪水といった自然災害があると、人の幸福度やクリエイティビティが下がるだけでなく、リスクから自分たちを守る指向、つまり「攻撃性」が生じやすいとラング氏は見解を述べました。

緯度心理学は、社会や国が異なる文化を持つ理由を説明するものの1つであり、互いが理解しあうために役立つとのこと。近年はさまざまな文化が密接に結び付くようになっているため、緯度心理学のようなものの見方が浸透する必要があるとラング氏は述べました。