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世界の言語の数は話者が亡くなると減る一方のはずなのに実際は増えているというパラドックスの正体とは?


言語は話者が全員亡くなってしまうと消滅します。ニカラグア手話のように新たな言語が生まれることはあっても数は少ないため、世界の言語の数は減り続けているはずですが、実際には年々増加しています。なぜそのようなことが起きているのか、YouTubeチャンネルのMinuteEarthがアニメーションで解説しています。

The Language Counting Paradox - YouTube


カリフォルニアの先住民であるユロック族の長老であるアーチー・トンプソン氏が、2013年に亡くなりました。トンプソン氏はユロック語を話す最後のネイティブ話者であったため、トンプソン氏の死去とともに、ユロック語のネイティブ話者は世界からいなくなったことになります。


このような「言語の絶滅」は、推定で毎年9つの言語で起きているとされています。しかし、公用語として認められている言語の数は、2020年で7117個、2021年は7139個、2022年は7151個、2023年は7168個と、年々増加しています。


言語のネイティブ話者は消滅していくばかりなのに総数は増えているというパラドックスの正体は、「公用語」という点にあります。例えば、パプアニューギニアの少数民族が用いているラクシュドゥマウ語は、古くから存在している言語であり、2020年時点で800人のネイティブ話者が存在していますが、言語の専門家によって理解されていませんでした。2020年の「ラクルマウ語の記録:パプアニューギニアにもう1つの言語が存在する理由」という論文で初めて独立言語として詳細に説明されたことで、「新しい言語」に数えられるようになっています。


存在は知られて観察もされていたものの、正式に取り上げられなかったことで新種として扱われてこなかったという例は、生物や植物でもしばしば起こります。主にフィリピンやアメリカの北部などで見られるトガリネズミというモグラに近い種の祖先と考えられるジムヌラは、古くから存在が知られていましたが、2000年頃に文書化されて初めて種として分類されました。


また、言語の数が増加する最大の原因がもうひとつあります。それは、長年「ひとつの言語」だと思われていたものが、実際には「似ているが異なる言語グループ」と認識されることで、言語としてカウントされる数が増加するというケースです。


例えば、2000年代初頭まで、10億人以上が話すことのできるアラビア語について、ほとんどの専門家は単一の言語だと考えていました。しかし、言語学者による研究が進むにつれて、アラビア語にはさまざまな「方言」があり、一部は非常に異なっているため、同じアラビア語話者でもお互いに理解できないことも多いとわかりました。結果として、もともとアラビア語というひとつの言語であったものは、現在では30以上の異なる言語として正式に認められています。


これも、生物の種で同様のことが起きています。単一の種で9つの亜種があるのみだと考えられていたキリンは、遺伝子学的研究により、ミナミキリン、アミメキリン、キタキリン、マサイキリンの遺伝的に別々の進化をした4種類のグループが存在すると2016年の研究で明らかになりました。ここでの分類は遺伝学的データのみで、身体的特徴などその他の要素を考慮していないという批判もありましたが、研究者らは公式に認められるキリンという種を4種類に増やすべきと主張しました。


世界に存在する言語の数や生物の種の数は、どちらも公式に認められる数が年々増加しています。それは、実際に数が増えているのではなく、分類することについてより研究が進み、文書化して区別することをより重要視するようになったことが原因となっています。


しかし、このような分類と文書化はどこかでピークを迎え、言語や種が失われる数の方が上回る時がくると考えられます。そうなると、公式に認められる言語の数はネイティブ話者の死去を顕著に反映するようになり、世界の言語数は減少していくことになります。


一方で、言語学の研究では、失われた言語を復活させる試みも進んでいます。ネイティブ話者は存在しないユロック語ですが、一部の高校ではユロック語の授業があり、2023年までに300人以上の子どもたちがユロック語を上手に話せるようになっているとのことです。

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in 動画, Posted by log1e_dh

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