「悪口」には異なる言語でも共通の特徴があるという研究結果
ロンドン大学の心理学者は、私たちが悪態をついたり誰かに悪口を言ったりする時に使用する言葉について、複数の言語間で共通する特徴があるという可能性を発見しました。異なる言語間で悪口の音声パターンが共通していることは、悪口が人間の脳内における共通のバイアスによって形作られていると示唆しています。
The sound of swearing: Are there universal patterns in profanity? | SpringerLink
https://doi.org/10.3758/s13423-022-02202-0
Most Swear Words Have a Common Feature, Even Across Different Languages : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/most-swear-words-have-a-common-feature-even-across-different-languages
心理学者のシリ・レフ・アリ氏とライアン・マッケイ氏によると、人をののしる悪口には世界中の多くの言語で共通して「接近音」というものが欠けているとのこと。接近音とは、唇や歯、舌や上あごをくっつけることなく近づけることで発せられる音で、「yes」と発音するときの「y」の音や、「war」の「w」の音などが該当します。接近音を含む単語の子音は、隣接する母音をかき消してしまう可能性が低く、また「p」「t」「k」などの「破裂音」に比べて柔らかい音になります。
「言語の音声と言語が表すものには直接的な因果関係はない」と考えられる一方で、特にオノマトペなどにおいては、音声と指示対象との因果関係に着目する「音象徴」という考え方があります。過去の研究では、20種類以上の言語話者に「ブーバ」「キキ」という意味のない単語を聞かせたところ、「ブーバ」を丸い形、「キキ」をとがった形と連想する傾向があると判明したことから、言語の音と視覚的印象に連想的な効果があることが「ブーバ/キキ効果」と命名されています。以下のムービーは、東洋学園大学の中村哲之教授がブーバ/キキ効果について解説したもので、大学内で行われた学生や教職員を対象にしたリサーチでも、ほとんどの人が丸っこい方をブーバ、とがった方をキキと回答しています。
心理テスト “ブーバ・キキ効果” とは? - YouTube
ブーバ/キキ効果も含めて、一部の子音は他の子音よりも鋭かったりとがったりしているイメージを人間に与えるものであり、それは悪口にも当てはまる可能性があります。悪口に使用される子音の傾向について調べるため、アリ氏とマッケイ氏は5種類のさまざまな地方の言語を話す20人の被験者に、できるだけ多くの悪口や罵倒の言葉を挙げてもらうよう依頼し、「ヘブライ語で34件、ヒンディー語で14件、ハンガリー語で14件、韓国語で17件、ロシア語で26件」のフレーズを分析しました。結果として、悪口のフレーズに破裂音が多く入っている兆候は見つからなかった一方で、「l」「r」「w」「y」を含む接近音がほとんど含まれていないことが発見されました。
さらに、音がどのように知覚されるかを確認するために、2つの実験が行われました。まず、「架空の悪口」を作成し、6つの異なる言語を話す215人の参加者に、そのフレーズの響きに基づいてその言葉が「不快な悪口」であるかどうか推測させました。この結果でも、接近音を含む単語よりも、接近音を含まない単語の方が不快な悪口であるとみなされる可能性が高くなっていたそうです。
2つ目の実験では、「穏やかな悪口」が遠回しな表現として機能しているのかを調査しています。英語には「Damn(クソッ!)」というスラングがありますが、同じ意味でより丁寧な言い回しとして、「Darn」というものもあります。これは「Minced oaths(えん曲的な悪口)」と呼ばれ、冒瀆(ぼうとく)的な言葉やタブー表現などを意図的なスペルミスや置き換えによって柔らかな印象に表現する手法で、特に英語では多く見られます。研究者らが「Minced oaths」として用いられるフレーズのリストを分析したところ、不快感を抑えるための置き換えとして接近音が多く使われているということを発見しました。
接近音がフレーズの印象を和らげる可能性について指摘しつつも、アリ氏とマッケイ氏は「この考えは確率論的であり、決定論的ではありません。私たちの研究が示しているのは、悪口の進化を形作る歴史的偶然と共働する形で、作用したであろう潜在的な認知バイアスという素因です。私たちが特定したパターンが全ての言語で、あるいは言語内の全ての条件で現れることが期待できるものではありません」と述べています。
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