サイエンス

「色が聞こえる」「時間を見ることができる」など共感覚はなぜ起こるのか?

By GPS

ある刺激に対して一般的な感覚だけでなく異なる種類の感覚をも生じさせる特殊な知覚は「共感覚」と呼ばれます。「音が色として見える」「色が音として聞こえる」といった共感覚を持つ人「共感覚者」は、全人口の4%と推測され、その多くは日常生活に支障をきたすことなく、むしろ芸術分野では共感覚が有利に働くこともあります。共感覚が生まれる明確な原因は科学的に特定されていませんが、最新の研究で新たな手がかりが発表され、脳が行う「知覚」のメカニズムの解明に近づいたとみられています。

Rare variants in axonogenesis genes connect three families with sound-color synesthesia | Proceedings of the National Academy of Sciences
http://www.pnas.org/content/early/2018/02/27/1715492115

Why Can Some People 'Hear' Colors?
https://www.livescience.com/61930-synesthesia-hear-colors-genes.html

共感覚には無数に種類があり、共感覚者により共感覚を感じる引き金や、起こる反応は、それぞれ異なります。共感覚の引き金は聴覚や視覚に限らず、例えば「文字を見て色や味を感じる」など他の五感で共感覚が引き起される共感覚者もいます。そして、同じ種類の知覚が引き金になる共感覚者でも、発生する共感覚が違う場合があります。例えば、音により色を感じる共感者が2人いた場合、2人が同じ音を聞いても、片方の共感者は赤を、もう一方の共感者は青を感じるというケースも。


この共感覚のメカニズムを解明する新たな手がかりは、オランダのAmanda K. Tilot氏らが2018年3月5日にNational Academy of Sciencesで発表した論文に記載されています。共著者の1人であり、マックス・プランク心理言語学研究所の所長でもある言語学・遺伝学教授Simon Fisher氏は、「私たちは、共感覚を生物学的な現象と認識しています。例えば、音に関する共感覚者が音を色として認識している時に脳をスキャンすると、その共感覚者の脳は視覚と聴覚に関連する部分が両方とも活発になっていることがわかります」と述べました。なお、1つの音に対して各共感者が異なる色を認識した場合、脳で活性化する部分はそれぞれ違います。これらのことは、Fisher氏が以前に行った別の研究で示しました。

新しい研究では、「同じ種類の共感覚者でも認識が異なり、脳の異なる部分が活性化する」ということに関して発見があり、Fisher氏は「共感者により別の複数箇所が活発化する原因は、それぞれが形成する脳のネットワークが異なることだとわかりました」と述べました。

By ZEISS Microscopy

Fisher氏ら研究チームは、この「同じ種類の共感覚者でも認識が異なり、脳の異なる部分が活性化する」という現象の原因を発見するために、遺伝学の考えをベースに研究を行いました。共感覚者は血縁者間で頻繁に生まれるということが過去の研究からわかっていたので、Fisher氏らは、共感覚の原因は遺伝子によるものではないかと目星をつけたのです。この考えを証明するために、研究者らは少なくとも3世代にわたって複数の共感覚者が生まれている家系の家族たちを探し、条件に合い研究に協力してくれる3組の家族を見つけました。3組の家族はいずれも、音に関する共感覚を持つ共感覚者が生まれたことがある家系です。そして、どの共感覚者も音を聞くと特定の色が見えますが、この共感覚は全くの同一というものではなく、例えば同じ音を聞いても共感覚者により見える色がそれぞれ異なりました。

By Larissa Holland

結果から言うと、この研究で共感覚が誕生する原因を根本的に解明できなかったとのこと。研究者らによると、3家系全員に共通する遺伝子の中で、共感覚を説明できる単一の遺伝子は見つからなかったそうです。

しかし、共感覚の謎を解くための新たな手がかりになると思われる遺伝子が見つかりました。3家系において3世代のいずれの共感覚者も、一般的な人の遺伝子と比べて突然変異が起こっていると思われる遺伝子が37箇所ありました。


今回の研究は被験者の数が少ないため、この37箇所の遺伝子すべてが共感覚に影響を及ぼしたとは言えません。ただしFisher氏らは、37箇所の遺伝子「候補」すべてについて、体のどの部分の機能を果たし、体の発達にどのように影響しているのかを研究しました。Fisher氏はその研究結果について「共感覚に影響を及ぼしていると見られる遺伝子変異の候補には、生物学的な研究テーマになるような著しい共通点がありました」と述べ、これらが、脳の情報の伝達と処理を担う神経細胞「ニューロン」から伸びる枝「軸索」を作る遺伝子だったことを明かしています。

Fisher氏は「これらの遺伝子が発達させる箇所は、脳のスキャン中に示された『共感覚を知覚して活性化する箇所』と一致している」と述べました。言い換えれば、この研究で特定されたこれらの遺伝子は、脳のネットワークがどのように配線されているかに関わっており、これらの遺伝子が脳を変化させるという考えは、共感覚者の脳が異なって配線されているように見える原因を説明できるとのこと。


この研究で特定された遺伝子の変異を研究すると、これらが人の脳の構造と機能をどのように変化させるのかを解明するのに役立つだろうとFisher氏ら研究チームは主張しており、さらなる研究のため2018年現在、研究に参加してくれるボランティアを探しているとのこと。Fisher氏は、「共感覚を研究することは、人間の脳が外界の感覚表現をどのように作り出すかについての本質的な枠組みを教えてくれる可能性があります」と述べています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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