サイエンス

AIを利用して患者のがんを発見する「AR顕微鏡」をGoogleとアメリカ国防総省が開発している


Googleとアメリカ国防総省が共同で開発を進めている、がん腫瘍の発見をAIと拡張現実(AR)の力でサポートする「Augmented Reality Microscope(AR顕微鏡)」について海外メディアのCNBCが報じました。AR顕微鏡はまるで従来の顕微鏡のような見た目をしており、初期段階ではあるもののすでに有望な結果が出ているとのことです。

Google, DoD built an AI-powered microscope to help doctors spot cancer
https://www.cnbc.com/2023/09/18/google-dod-built-an-ai-powered-microscope-to-help-doctors-spot-cancer.html


病理医は患者から採取したサンプルを基に「患者ががんに冒されているのかどうか」を診断しますが、その診断にはとても大きな責任が伴います。国防総省傘下の組織であるDefense Innovation Unit(国防イノベーションユニット)で最高医療責任者を務めるニールス・オルソン博士は、かつてアメリカ海軍の軍医としてグアムに派遣されていた際、海軍病院で唯一の病理医としてさまざまな診断を下していたとのこと。

オルソン氏はCNBCのインタビューで、「単に『これはがんです。こういうタイプのがんです』と言うだけが病理医の仕事ではありません。仕事の一部には『これは絶対にがんではありません』と言うことも含まれており、1人では緊張を強いられます」と述べ、患者の生死に関わる診断を下す病理医のプレッシャーは大きいと説明しています。


そんなオルソン氏はグアムに派遣される前の2016年、サンディエゴの海軍医療センターに勤務していた際に「AR顕微鏡」の大まかなアイデアを思いつきました。このアイデアについてGoogleの知人に相談したところ、数カ月後にカリフォルニア州マウンテンビューにあるGoogleのオフィスビルへ呼ばれ、数人しかアクセスできない密室の中で初期の「AIを搭載した顕微鏡」を実演してもらったそうです。

このAI搭載顕微鏡は、実際にオルソン氏が持参したスライドセットから正確にがんを検出できたため、オルソン氏らは非常に興奮したとのこと。オルソン氏はCNBCに、「まるで自分の子どもを見た時のようだったとは言いたくありませんが、これは素晴らしいものであり、実現できそうだと感じました」と述べています。


その後オルソン氏はグアムに派遣されてしまいましたが、AIを搭載した顕微鏡のプロジェクトは国防イノベーションユニットが引き継ぎ、ARを組み合わせた「AR顕微鏡」の商用パートナーにGoogleと光学企業のイエナオプティックを選定して開発を進めました。

オルソン氏らが2019年に公開したAI搭載顕微鏡についての記事では、アメリカ連邦政府の医療制度には数百万人もの患者が登録されており、「世界で最も包括的な医療データセット」であると記されています。また、「ビッグデータはシリコンバレーが最も得意とするところであり、民間の医療システムに波及する可能性は膨大です」とも述べています。

すでにGoogleとアメリカ国防総省のチームはAR顕微鏡の開発に成功しており、まだ積極的に患者の診断に用いられているわけではないものの13台のAR顕微鏡が関連施設に配備されています。以下の画像は、政府機関と協力してテクノロジー関連の問題に取り組む非営利団体・Mitreに配備されたAR顕微鏡です。AR顕微鏡はまるで学校の理科室にある光学顕微鏡のような見た目をしており、大きな接眼レンズとスライドガラスをセットするトレイが備えられていますが、同時にAIモデルを収容する箱形のコンピュータータワーにも接続されているとのこと。


スライドガラスを顕微鏡に固定すると、AIは接眼レンズの映像と重ね合わせてがんがどこにあるのかを示す緑色の枠を表示するほか、がんの境界をピクセル化したヒートマップも生成するとのこと。


近年は病理医の仕事をデジタル化しようとする試みが進んでいるものの、1枚のスライドをデジタル化すると1GBを超えるデータ量になります。そのため、膨大な患者を診断しようとすればインフラストラクチャーのコストがかさみ、多くの小規模な医療機関にとってデジタル化が負担になります。

その点、従来の光学顕微鏡にシステムを統合するAR顕微鏡であれば、医療機関の負担を9万ドル~10万ドル(約1330万円~1480万円)に抑えることが可能です。Mitreの自律システムエンジニアであるパトリック・マイノット氏は、物理的な顕微鏡は病理医の診断プロセスにとって不可欠なものであり、多くの人から「顕微鏡はそのままにした方がいい」と警告されたと冗談を言いました。

Google Cloudのヘルスケア戦略およびソリューション担当グローバルディレクターであるアーシマ・グプタ氏によると、Googleはすでに乳がん・子宮頸(けい)がん・前立腺がん・有糸分裂を特定する4つのアルゴリズムを開発したとのこと。AIモデルは国防イノベーションユニットのデータセットでトレーニングされており、暗号化によって元データにはアクセスできないようになっているとグプタ氏は説明しています。

2022年の秋には、査読付き学術誌のJournal of Pathology Informaticsに研究チームの論文が発表され、乳がんのAIアルゴリズムがサンプルの大部分でうまく機能することが報告されました。実際に現実世界で病理学者をAR顕微鏡がサポートするようになるには、まだ膨大な量のテストが必要ですが、すでに国防イノベーションユニットはGoogleおよびイエナオプティックと、AR顕微鏡を軍や商業ルートで配布するための契約交渉も始めているとのこと。

シアトルの退役軍人病院に勤める病理学者のナディーム・ザファール博士は、「患者の前立腺がんがどれほど深刻なのか」について同僚の医師と意見が分かれた際、AR顕微鏡を使用してサンプルを分析したとのこと。その結果、患者の前立腺がんはザファール氏の見立て通り、攻撃性が高いことがわかったそうです。同僚の医師もAR顕微鏡の結果を見て納得したそうで、ザファール氏は「これがこの技術の美点であり、一種の仲裁者になるのです」とCNBCにコメントしています。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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