サイエンス

AIによる乳がん検診は発見率が20%上昇し放射線科医の仕事量を44%削減することにもつながる


早期発見・早期治療で救命できる可能性が高いがんとされている乳がんにおいて、乳がん検診(乳がんスクリーニング)は早期発見の一番の近道です。この乳がんスクリーニングに人工知能(AI)を用いることで、乳がんの発見率が20%上昇し、さらに放射線科医の仕事量を約半分も減らすことができるという論文が発表されました。

Artificial intelligence-supported screen reading versus standard double reading in the Mammography Screening with Artificial Intelligence trial (MASAI): a clinical safety analysis of a randomised, controlled, non-inferiority, single-blinded, screening accuracy study - The Lancet Oncology
https://www.thelancet.com/journals/lanonc/article/PIIS1470-2045(23)00298-X/fulltext


AI use in breast cancer screening as good as two radiologists, study finds | Breast cancer | The Guardian
https://www.theguardian.com/society/2023/aug/02/ai-use-breast-cancer-screening-study-preliminary-results

AI-assisted cancer screening could cut radiologist workloads in half | Engadget
https://www.engadget.com/ai-assisted-cancer-screening-could-cut-radiologist-workloads-in-half-193427969.html

AI can conduct breast cancer screenings in less time than humans but just as well, study finds | ZDNET
https://www.zdnet.com/article/ai-can-conduct-breast-cancer-screenings-in-less-time-than-humans-but-just-as-well-study-finds/

国際がん研究機関(IARC)が2020年12月に発表した統計データによると、乳がんは肺がんを抜いて「世界で最も罹患者の多いがん」となっています。データによると、毎年230万人以上の女性が乳がんを発症しているとのこと。

乳がんを早期発見するための効果的な手法である乳がんスクリーニングにおけるAIの有用性を検証するため、8万人以上の女性を対象とした大規模なランダム化比較試験が実施され、その結果が、がん治療に特化した医学誌のThe Lancet Oncologyで公開されました。

この研究によると、AIを用いた乳がんスクリーニングは放射線科医2人が協力して乳がんスクリーニングを実施するのと同じくらい優れたパフォーマンスを発揮できることが明らかになっています。


マンモグラフィ(乳房X線検査)の結果をAIで分析する」という既存の研究では、臨床医が診断したX線写真を後からAIで評価するという遡及的な研究がほとんどです。

しかし、今回の研究では平均年齢54歳のスウェーデン人女性のみを対象として、AIを用いた乳がんスクリーニングと、放射線科医による乳がんスクリーニングを直接比較しています。実験ではマンモグラフィで撮影されたX線写真の半分を放射線科医に二重読影(ダブルチェック)させ、もう半分をAIと放射線科医(1人)に読影させました。

AIを用いた乳がんスクリーニングでは、244人(28%)が乳がんであると診断されたのに対して、人間の放射線科医のみでの標準的な乳がんスクリーニングでは、203人(25%)が乳がんであると診断されています。つまり、AIによる乳がんスクリーニングの方が41件多く乳がんを検出することに成功したわけです。AIを用いた乳がんスクリーニングで発見した41件の乳がんのうち、19件が浸潤性がんで、22件が上皮内がんでした。なお、AI乳がんスクリーニングが乳がんを誤検知することはなかったそうです。

さらに、人間の放射線科医による乳がんスクリーニングと比較して、AIによる乳がんスクリーニングは画面読み取り回数が3万6886回も少なることが明らかになっています。この結果、AI乳がんスクリーニングを実施することで、放射線科医は画面読み取り作業の負荷を44%も減少させることができることが明らかになりました。


なお、AIを用いた乳がんスクリーニングがインターバルキャンサー(検診と次の検診の間で発見されるがん)の数を減らすことができるのかや、検診にAIを使用することが正当化されるかどうかが明らかになるまでは、まだ数年以上の時間がかかるとみられています。

しかし、研究では「AIを活用したマンモグラフィスクリーニングでは、標準的な二重読影と比べてがん検出率が同等でありながら、読影作業負荷を大幅に軽減することができます。また、マンモグラフィスクリーニングにおけるAIの使用が安全であることも示しています」と記し、AIを用いた乳がんスクリーニングの有用性を強調しています。また、研究チームは「現時点での乳がんスクリーニングにAIを用いる上での最大の可能性は、放射線科医の過剰な読影による負担を軽減することができるという点です」と述べ、放射線科医の仕事量を減らすためにAIを利用することの有用性を主張しました。


加えて、研究チームは「我々のAI支援スクリーニングシステムは、検出を担当する放射線科医が少なくとも1人必要ですが、これにより大部分のマンモグラフィの二重読影が必要なくなる可能性があります。放射線科医の作業負荷が大幅に軽減され、より高度な診断に集中できるようになります」とも記しています。

論文の筆頭著者であるルンド大学のクリスティーナ・ロング博士は、「これらの有望な安全性分析結果は、多くの国で起きる顕著な放射線科医不足に対処するための新しい試験やプログラムに情報を提供するために使用されるべきですが、それだけでは十分ではありません」と述べました。


クイーンメアリー大学のがんスクリーニング研究者であるスティーブン・ダフィー教授は、この研究が質の高いものであると称賛していますが、AIを用いた乳がんスクリーニングについては「例えば、この論文の結果には過剰診断される可能性があると考えられる上皮内がんの検出数が増えています」と述べ、乳がんを過剰に検出してしまう可能性を危惧しています。

一方で、イギリスの国民保健サービス(NHS)の広報担当者は研究結果を「非常に心強い」と称賛。英国王立放射線科医大学の学長であるキャサリン・ハリデー博士も、「AIは大きな可能性を秘めており、効率を最大化し、意思決定をサポートし、最も緊急の症例を特定して優先順位をつけるのに役立ちます。つまり、臨床医の時間を節約できる可能性があります」と述べ、乳がんスクリーニング以外での分野でもAIがさらなる活躍を遂げることに期待を寄せています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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