サイエンス

ミツバチの毒に含まれる物質が「乳がん細胞を破壊して増殖を抑える」との研究結果


うっかりミツバチの針に刺されてしまうと、針から注入された毒のせいで痛い思いをすることがあります。オーストラリアのハーリー・パーキンス医学研究所のチームが、そんなミツバチの毒に含まれる分子が「乳がん細胞の増殖を抑える」との研究結果を発表しました。

Honeybee venom and melittin suppress growth factor receptor activation in HER2-enriched and triple-negative breast cancer | npj Precision Oncology
https://www.nature.com/articles/s41698-020-00129-0

Honeybee venom kills breast cancer cells - Harry Perkins Institute of Medical Research
https://www.perkins.org.au/honeybee-venom-kills-breast-cancer-cells/

A Molecule in Honeybee Venom Destroys Breast Cancer Cells in The Lab, Study Shows
https://www.sciencealert.com/bees-formidable-weapons-could-successfully-target-aggressive-breast-cancer

ミツバチの毒はアトピー性皮膚炎の治療に役立つ可能性があると報告されており、実際に「アピセラピー」と呼ばれる民間療法では、ミツバチの針に刺されることで体の炎症や痛み、皮膚の疾病などに効果が期待できるとされています。しかし、アピセラピーには危険も伴うそうで、2018年にはアピセラピーで繰り返しミツバチの針に刺された55歳の女性が重度のアナフィラキシーショックを引き起こし、数週間後に死亡した事例も報告されています。

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by Kris Fricke

今回の研究チームが目をつけたのは、ミツバチの毒に含まれるメリチンという分子です。メリチンはミツバチの毒の主成分であり、ハチに刺された際の痛みを引き起こす原因でもありますが、ミツバチはメリチンを毒液として使うだけでなく、自身に感染した病原菌を撃退する抗菌剤としても利用しているとのこと。

そこで研究チームは、実験室内で培養された乳がん細胞に対し、ミツバチの毒がどのように作用するのかを実験しました。乳がんは病理検査で5種類に分類することができますが、今回の実験で使われた乳がん細胞はトリプルネガティブ乳がんを含む数種類。乳がんの10~15%を占めるトリプルネガティブ乳がんに有効な治療薬は限られており、増殖能力も高いことから予後が悪いことでも知られています。


研究チームはアイルランドやイギリス、オーストラリアから集められたミツバチの毒と、比較対象として集められたマルハナバチの毒を、乳がん細胞および正常な細胞にさらしました。その結果、メリチンを含まないマルハナバチの毒は乳がん細胞にほとんど影響を及ぼしませんでしたが、ミツバチの毒は乳がん細胞を完全に破壊し、増殖を抑える効果を発揮しました。

抗体を用いてメリチンをブロックすると、ミツバチの毒にさらされた乳がん細胞が生き残ったとのことで、今回の結果がメリチンによるものであることも確かめられました。ハーリー・パーキンス医学研究所のCiara Duffy氏は、「ミツバチの毒液は非常に強力でした。メリチンは60分以内にがん細胞膜を完全に破壊できることを発見しました」とコメント。


さらにメリチンはがん細胞の増殖に必要なシグナル伝達を妨害し、わずか20分以内にがん細胞の複製能力を阻害することも判明しています。Duffy氏は、「メリチンはトリプルネガティブ乳がんで過剰発現し、がん細胞の増殖に関与する上皮成長因子受容体(EGFR)の活性化を抑制することでシグナル伝達を調節します。また、乳がん細胞で過剰に生成されるHER2の活性化を抑制することもわかりました」と述べています。その一方で、EGFRやHER2を生成する正常な細胞をメリチンにさらしても、ほとんど影響が現れなかったそうです。

EGFRやHER2の過剰発現は肺がんなど他の種類のがんでも見られるため、メリチンは乳がん以外のがん細胞も標的にできる可能性があります。また、研究チームが人工的に合成したメリチンの効果をミツバチの毒と比較した実験では、合成されたメリチンでもミツバチの毒が持つ効果の大部分を得られることが判明しました。


次に研究チームは、乳がんになったマウスに対してメリチンとドセタキセルなどの化学療法剤を組み合わせて投与したところ、両者を併用することで攻撃的ながん腫瘍の増殖を効果的に抑制できることを突き止めました。これは、メリチンが乳がん細胞に穴を形成し、そこから治療薬が導入されたことで細胞死が促進されたためとみられています。

一連の実験ではがんの治療にメリチンが役立つ可能性が示唆されたものの、研究者らはメリチンが人間の治療に使用できるようになるまでには長い時間がかかると指摘。人間でメリチンの効果を確かめる前に、メリチンの毒性と人間に投与できる最大量を正式に評価する研究が必要になると述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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